第一章
そこは、プーヴァと呼ばれる小さく貧しい村だった。
村人達は田畑を耕し、貧しいながらも幸せに活気ある日々を送っていた。
「ねぇ、ライル聞いてる?」
僕が目を覚ますと、そこには巻積雲が広がる青い空があった。そして、そんな幻想的な空を遮って少女の顔が現れる。
「あぁ聞いているよ、リタ。虹色の毛糸みたいで綺麗だね。あの雲で何か編めそうだ。」
リタの不機嫌そうな顔が夢見がちな顔に変わる。
「なんだ、しっかりと聞いているじゃない。巻積雲はね、彩雲があるの。彩雲が見られると良いことが起こる前触れって言われているんだって。夢想的だよね。」
大人達は毎日忙しそうだ。子供であっても毎日のように、親の仕事を手伝うことが普通だ。ライルとリタも例外ではない。日々の日課である薪割。休憩中に木陰で休むこともまた日課となっている。
「ねぇ、ライル。大人になったら何になりたい?」
ライルはリタを見つめる。
―リタと一緒に居られるなら、このままでも良い。リタや村の皆をを守れるくらい強くなりたい。リタは僕の事をどう思っているのだろうか。
ライルははぐらかす様におどけて見せる。
「英雄かな。リタは何になりたいの?」
リタは少し不満げな顔をして答える。
「ライルのお嫁さん。」
リタを見つめるライルの瞳孔が縮小する。
―どうしてリタはこうなんだ。本当か嘘かも分からない。冗談ばかり言うし、いつも僕の心を弄ぶ。そもそも家とリタの家では家柄が違いすぎる。僕の家族がリタの家族と仲良くしていること自体、村からよく思われていないんだ。結婚なんてできるわけがないんだよ。なのに…。
リタの掌がライルの肩をそっと叩く。そしてライルは我に返り、忸怩たる思いとなり、頬を染め顔を背ける。
「ライル。今のって…キス…だよね。どうして?」
ライルの頭の中はかき乱されている。あれこれと考えているうちに体が勝手に動いていた。ライルは何も答えられず黙り込んでしまう。
リタは微笑みながら、そっとライルを抱きしめた。
「ありがとう。こんなに早く良い事が起こるなんて思わなかったよ。私はライルが好き。ライルが今考えている色々を整理できるまで、私待っているね。だから、いつかライルから本当の気持ちを聞かせてね。」
ライルは彩雲を見つめて、しっかりと首を縦に振った。
―ありがとう、リタ。いつか誰からみても恥ずかしくない男になって、リタの横に立てるよう努力するよ。リタを一生守っていける男になれるように。
この時、いつまでも幸せな日々が続いていくことを二人は願った。
こうして、今日もプーヴァ村から日が落ちていった。