【真正ユレイシア帝国】受賞(2)
「リュドミア・ライヒハート?誰だそれは?」
聞き慣れない名前にウェスカーが首を傾げる。
「便宜上だが、我軍の軍務官だ。元は帝立ユレイシア帝国総合軍事学校の学年主席。卒業直前の実地訓練の一環で、先の戦いに参加していた」
「女が学校?しかも学年主席?そして軍の実施訓練?ルシエス卿、貴方は一体何を言っているのですかな?」
「そこは今は良い、アルフレート卿。とにかく、そのリュドミアという女のおかげで、先の戦いルシエス軍だけは極端に被害が少なった。それどころか敵軍の将、ファン・シュインを間接的に討ち取った。そうだな?」
「ああ。彼女は敵の包囲作戦を完全に読み切っていた。地図上だけで完全に戦況を把握し、我々に的確な指示を出し包囲網を突破させた。その上で、追撃隊に対して援軍のマクフォールをぶつけ、返り討ちにした」
「……にわかには信じ難いが、その女が活躍したというのは分かった。だが、それがなんだというのだ?」
「言ったろう、ウェスカー卿。『民が受ける敗北という衝撃を減らせればいい』と。――だから彼女には、先の戦いの英雄になってもらう」
「……は?」
何が『だから』なのか全く分からない提案に、ウェスカーとアルフレートが訳がわからないという顔をした。
「ルドウィック卿、それは……」
そして二人とは違い、フレデリックの言葉の意味を理解している、ルシエスは複雑そうな顔をする。
「……彼女はまだ学生だぞ?」
「だからこそ話題性があって良いのだよ、ルシエス卿」
「そんな重責を背負わせるのは……」
「??」
「起きてしまった結果は変えられない。だから結果の見え方を変えるのさ」
未だに理解していない二人の為に、フレデリックが二人を少々小馬鹿にしながら、丁寧な説明を始めた。
「『六万五千もの被害を出した大敗北』を『九万五千もの帝国兵の命を救った偉業』に変えてしまうのさ。彼女、リュドミア・ライヒハートという英雄のね」
「!」
「……そうだな。例えば、彼女に爵位と勲章を授けようか」
「爵位と勲章だと!?」
ウェスカーとアルフレートが驚愕した。
「それならば、派手に授賞式を開いても違和感はない。新たなる英雄の誕生と大々的に宣伝し、国全体を祝賀ムードにする」
「馬鹿な!古今東西、女が勲章を授与されたことも、爵位を賜ったこともない!」
「だからこそ、良いのだよ。『史上初、自身の力で直接勲章と爵位を手にした女』これほどの話題はあるまい。しばらくはそのことで、国中持ち切りになるだろう」
「ふざけるな!そのようなことが許されるわけがないだろう!相手は年端も行かぬ女だぞ!?」
ウェスカーが激高し、机を叩きながらフレデリックへ身を乗り出す。
「勲章も爵位も、女性は受け取れないと明記された法はない。勿論、年齢についてもな。ウェスカー卿」
そんなウェスカーを宥めるように、ルシエスがフォローに入る。
「関係ない!守らねばならぬ慣例というものがある!」
「その通りです。そもそも女が騎士の栄誉たる勲章と爵位を受け取るなど、それまでの受賞者を侮辱するに等し――」
「その発言は、少々聞き捨てならないな。ウェスカー卿、アルフレート卿」
「……っ!!」
「戦場に立つこともしなかった卿等が、戦場にいた彼女に騎士としての誇りを説くのか?フレデリック卿の思惑はともかく、彼女が騎士の栄誉を受けるに相応しい活躍をしたのは事実だ。称賛されて何が悪い?」
ルシエスが少々、怒気の宿った声で二人を威嚇した。
「彼女の活躍を騎士への侮辱と言うのであれば、それは彼女に助けられた、我々への侮辱でもある。敗軍の将である私はともかく、国のために命をかけて戦った我が部下たちまで侮辱することは、誰であっても許さない。――武家貴族クラウディアの名誉に賭けてな」
その迫力に、思わず二人が机から身を引いた。
「……申し訳ない、少々冷静さを欠いていたようだ」
「私も、少し言い過ぎました」
流石にルシエスの逆鱗に触れることは避けたいのか、二人は素直に頭を下げて謝罪した。
「ルシエス卿もこう言っていることだ。受賞基準についてはもういいだろう。そもそも、反対するのであれば、何か良い対案を出していただきたいものだな。慣例が我々の身を守ってくれるというのであれば、話は別だがね」
「フレデリック……っ!」
露骨に見下してくるフレデリックに、ウェスカーとアルフレートが不愉快そうに顔を歪める。
二人は最後までフレデリックの案に納得がいかなかったようだが、結局それ以外の案が新たに浮かぶことはなく、フレデリックの案がそのまま採用されることになった。
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