【ユレイシア貴族連合王国】敗走(4)
――と、普通であればこれでこの章を終えてしまっても良いのだが、しかしここで逃せない疑問点が浮上する。
それこそが冬夏戦国時代最大の謎として、現在に到ってなお多くの歴史学者達を悩ませ続けている『空白の旅路』である。
前提としてヘイキチが異邦人であることは数々の文献から、まず間違いないと結論付けられている。
自伝の記述から見ても、記載されている戦はヘイキチの故郷にて行われたものであることはまず間違いない。
だが、アスカイ・サトルが瀕死のヘイキチを発見したリィンダイ山(現:リータイ山)は、当時のユレイシア貴族連合王国領土内にある。
また、同時期にリィンダイ山付近で戦があったという事実も確認できない。
彼の自伝をそのまま信じるならば、ヘイキチは故郷の山で倒れ、意識を失っている間にワープでもしたかのように、リィンダイ山でアスカイ・サトルに発見されたということになる。
実際、ヘイキチは後に自伝にて何故自分がユレイシア貴族連合王国にいるのか、自分自身でもわからないと述懐している。
ヘイキチの自伝に限らず、主観や偏見による捏造や誇張は、往々にして歴史文献にはよくあることである。彼の自伝もまたその例外ではない。
所詮は古代の自伝の記述、と言ってしまえばそれまでだが、それらを差し引いてもヘイキチの渡来に現代に至るまで解決されない、多数の不明点があるのは事実である。
未だ未解決な事象であるため、本書においてはあえてその矛盾については触れず、自伝そのままヘイキチは気を失ったまま、この国に来訪したという体で話を進めさせていただく。
だが、そのようにした方が同時期に記述された他の著書とも整合性が取れてしまう、ということが多々あるというのがこの時代の不思議なところである。
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