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【ユレイシア貴族連合王国】決起(3)

「な、なんということだ……」

「まさか、あの大蛇を一刀で斬り伏せてしまうとは……」


 あまりの光景に、男たちが言葉を失う。


「まぁヘイキチならもしかしたら、とは思っていたけど、まさかここまでとは思わなかった」


 飛び掛かってきた大蛇の上顎を、脳ごとピンポイントで切除して即死させる、その手際、まさに神業としか言いようがなかった。※1

 彼らがどこまでヘイキチの絶技の凄まじさに気がついていたかは不明だが、それでも大蛇を一撃で倒してしまったことに変わりはない。


「賢者様、彼は一体何者なのですか?」

「え?ああ、彼は僕の息子だよ。凄いだろう?名前はアスカイ・ヘイキチ」

「なんと、北の賢者様には息子がおられたのか」

「どおりで、桁違いなはずだ」

「うん、彼は自慢の息子だよ。それよりも……」


 サトルが、剣の血振りをしているヘイキチに駆け寄る。


「お疲れ、ヘイキチ。よくやってくれた」

「なぁに、久しぶりに緊張感のある戦いだった。このところ畑仕事ばっかりだったからな。おかげで、いい感じに気を引き締められたよ」

「はは、でもその割には圧勝だったような気がするけど」

「そうでもないぜ?一瞬の判断を間違えたら、死んでいたのは俺の方だ。絞め殺されて、今頃は蛇の腹の中だな」

「そうか。じゃあ、そんな緊張を感じていたところ悪いんだけどさ、ちょっとこの蛇の解体を手伝ってくれるかな?」

「ん?ああ、おう。任せとけ。つっても蛇の解体はしたことがないんだがね」

「とりあえず尻尾の方を見て欲しい。そっちに蛇の肛門がある筈だ。そこから剣を入れて、頭の方に向かって腹を裂き、中の内蔵を取り出す。ああ、内蔵を傷つけないように気をつけてね。肉に臭みがついてしまうから」

「おう」


 テキパキと親子が蛇の死体に手を加えていく。


「あ、あの賢者様。一体何を……?」

「うん?何って、見ての通り、蛇を解体しているんだよ。殺してしまった責任だ。この蛇は、今日の僕らの夕飯にしてしまおうと思って」

「おう、どうだお前達も。一緒に食べないか?どうせ俺たちだけじゃ、この蛇は食べ切れないからな」


 ヘイキチが周辺で見ていた男たちを、夕食に誘い始めた。


「い、いや我々は……」

「ご相伴にあずからせていただきます」

「はぁ!?」

「いいんだ、もう。お前に悪いが、僕はここで降りるよ」

「……そうだな。俺もここで降りる。賢者殿、俺にも手伝わせて欲しい」

「ほ、本気か!?お前等!」


 一人、また一人と何かを決意した顔でサトルとヘイキチの手伝いを始めた。


「それは有難い。じゃあ、とりあえず内臓をとったら皆でこれを川に持っていって、腹の中を洗おうか。その後は皮を剥いで、手頃な大きさに切り分ける。それで下拵は完了だ。ああ、そうだ。美味しいかは置いておいて、せっかくだし、この卵も持っていこう」

  

※1 なお、当のヘイキチは後年この神業について、自伝にて『素早く動いてうねる、極太の大蛇の身体を剣で両断するのは難しいと思った結果、仕方なくこういう形になっただけだ。持ち上げられても少し困る』と残している。なんとも出鱈目な男である

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