【ユレイシア貴族連合王国】敗走(3)
「チッ……軟弱共め……。おかげで死に損なってしもうた……」
数刻後、全身血まみれになったヘイキチは山中を彷徨っていた。
足元に転がるのは数十の死体の山と瀕死の兵士――先程まで追撃隊『だった』ものだ。
「あいつら……ちゃんと逃げられたかの……」
「こ、この……ば、化け物……め……ガッ!?」
その兵士達に容赦なくとどめ※1を刺しながら周辺を確認する。
「追手は来てなさそうじゃな……。とは言え心配じゃ、ワシも早く追わにゃ……」
ヘイキチは仲間たちを追って、その場を立ち去った。
彼の自伝によれば、この時自身の身体には十数の切り傷があり、加えて数本の矢が突き刺さったままの状態であったという。
その状態で生きているだけでも驚きだが、自伝では更に山中を『一度日が落ち、再度登るまで』歩き続けた――つまり数時間に渡って意識を持ったまま、山中を彷徨い続けていたことが示唆されている。
内容に偽りがなければ、まさに人間離れした生命力の持ち主と言わざるを得ない。
だが、いかに人間離れした生命力を持とうがいつかは限界は来る。彼はやがて動くことができなくなり、倒れ意識を失った。
彼の人生は、ここで終わりを迎えるはずであった。
実際、ヘイキチも自伝にてここで自分の死を悟ったと記述している。
だが幸運にもこの後、ヘイキチは偶然山中に山菜を摘みに来ていた男――後の主君であるアスカイ・サトルに発見され、自宅にて献身的な治療を受け、彼は一命を取り留める。
そしてここから、この二人の邂逅によってこの国の歴史は大きく動くことになる。
時は帝国暦332年、連合歴123年春先での出来事であった。
※1 致命傷を負った兵士がこれ以上苦しまないように、という配慮だったのかもしれない
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