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【ユレイシア貴族連合王国】決起(1)

「親父殿は俺の後ろに」

「わかった」


 サトルが腰の剣に手を掛け、警戒しながら集団に近づく。


「ちくしょう……」

「なんでこんなことに……」

「俺たちが一体何をしたってんだ……」

「……うん?」


 集団から恨みのこもった独り言が聞こえてくた。


「……なんだ?こいつらは」


 遠目で見ている時にはわからなかったが、目の前にしてみるとなんというか、全体的に暗い雰囲気が漂っている集団だ。全員の目に生気がなく、まるで未来に絶望しているかのようだ。


(……とりあえず、何かしてくるような集団じゃなさそうだな)


 ヘイキチは完全ではないが、警戒を解いた。

 流石にこの生きる気力すら怪しい集団が、他人に危害を加えられるとは思えない。


「そこの方、申し訳ない。ここで何をしているのですか?」

「……あん?」


 サトルが一番手前にいた、生気のない顔で岩に寄りかかっている男に声を掛ける。


「……何だ、あんた?」


 突然、見ず知らずの人間に声を掛けられ、男が不思議そうに首を傾げる。


「ああ、これは失礼。申し訳ない。訳あって私達は住処を追われて、北の土地フーシェンから逃げてきた者です。名前はアスカイ・サトルと――」

「アスカイ・サトルだって!?」


 その名前を聞いた男が声を、突然声を上げた。更に周囲にいた何人かの人間も、遠巻きにサトルに目を向ける。


「まさか……あんたが、あの北の賢者アスカイ・サトルか!?」

「え?ああ、うん。周りの人間が勝手にそう呼んでるだけだけど」


 この答えに、名前を尋ねた者、遠巻きに様子を見ていた者達が、弾かれたようにサトルに向かって駆け出した。


「む!?」


 その突然の出来事にヘイキチが思わず腰に掛けた剣を抜き、迫ってくる者たちから庇うように、素早くサトルの前に出た。


「待て!貴様ら、何のつもり――」

「お願いいたします!」

「……は?」


 男たちが、サトルたちの前で深々と跪いた。


「どうか、どうか私達をお助けくださいっ!!」


 そして、藁にもすがるかのような必死の形相で助けを乞う。


「我々は皆、王の命を受け、南のラオロンに招集を掛けられた者です」

「……やぱりそうだったか」

『ラオロンに招集』――その言葉を聞いたサトルが、案の定という顔をする。

「親父殿、どういうことだ?彼らは、一体何なんだ?」

「ラオロン強制労働従事者だよ」


 ラオロン強制労働従事者――。

 帝国暦327年、連合歴118年、ユレイシア貴族連合王国は北の都市ラオロン、その国境線にいずれ来るであろう帝国との戦争に備え、長大な城壁の建造計画を発表した。

 当初の予定では、逮捕された罪人たちを刑罰の一環として作業に従事させ、十数年規模で完成させるという、遠大な事業計画の元で建造は行われていく筈だった。


 しかし、連合の想定よりずっと早く、帝国が戦争を開始したため当初の予定を変更。全国規模の招集命令を発し、働き盛りの健康で若い男たちを数多く、強制的に現場にひっぱり出した。

 強制労働とはいえ、それでも最初の内は休日も休憩も食事もある、いたって普通の公共事業だった。だが、帝国の攻撃が激しくなるにつれて、上層部は作業進捗の見直し――という名の無茶な前倒しを何度も強行。

 結果、厳しい規則、作業休憩なし、昼夜を問わない作業の強要、脱走した者への拷問まがいの罰則などが横行。


 いつしかラオロン城壁は、行けば生きて帰って来れないと言われるほどの、壮絶かつ悲惨な、地獄のような強制労働施設と化してしまった。

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