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【ユレイシア貴族連合王国】旅路(9)

「それ以後、両国は停戦と開戦を繰り返しながら、120年以上も戦争を続けている。今は開戦期とでも言うべきか。ちょうど、西の平原で起きている戦もそれだ。帝国が一方的に、宣戦布告をしてきた」

「120年、それはまたご苦労なことだ。もう直接その後継者争いに関わった人間なんて、一人も生きちゃいないだろうに。子孫がわざわざ、自分たちとは一切関わりのない戦争を続けるとは」


「初代皇帝ヴィルヘイムの考えが、『大陸は統一してこそ繁栄する』だったからね。国家の柱と言っていい。実際、それでユレイシアは200年以上も発展を続けてきた。そも、帝国からすれば、王国は勝手に王を立てて国を切り取った逆賊の集団だ。そんな国の存在を認める訳にはいかない。かと言って王国だって自分たちが勝ち取り、ようやく確立した国家だ。疫病も後継者争いも終わったからと言って、ハイそうですか、と元に鞘に収まる訳にもいかない」


「まるで過去からの呪いだな。亡き皇帝の意思が、今の国家をボロボロにしている」

「呪いとは言い得て妙だね。そう、多分どちらか、あるいはどちらもか……が倒れるまで、この戦争は続くだろう。そして……今が正にその王国の危機なんだ」

「危機?その平原での戦いとやらで、大敗でもしたのか?」

「いや、帝国との戦争も確かに大きな不安要素だが、今はそれ以上に、内部に無視できない危機を抱えている」

「内部?」

「後継者争いだよ」


 既に高齢の現王『ヴェルマール』は病を患い、先が長くはなかった。崩御すればその跡を継ぐのは、彼の直系の孫である『ユーゼア・イーシェン・フォム・ユレイシア』になる。


 だが、ユーゼアはこの時、まだ政治が出来る年齢ではなかった。勿論、この場合、政治ができる歳になるまで、代理の者が政治を請け負うのが慣例だ。だが、これは時に代理の者に権力が集中――王の傀儡化という王朝乗っ取りのリスクがある。


 もし他に有力な候補者たちがいるのならば、彼らがそんなリスクを快く受け入れる訳がない。何処の馬の骨かもわからぬ者に、政治の実権を握られる位ならば、血を継いでいる自分が王になってやる、となるのは当然の流れだ。


 だからこそ、それを防ぐためにも生前に現王が自分の後継者を決めて、その正当性を保証するべき※1なのだが、ヴェルマールは後継者を指名するつもりがない。


 よって当然のように、我こそはという者が二人も現れた。一人目はヴェルマールの弟で王位継承権第二位『ニール・イーシェン・フォム・ユレイシア』。取り立てて優れた人物ではなかったが、王として政治をこなすのには問題ない能力を持っていた。しかし、高齢な現王の弟ということで、彼もまた決して若くはなかった。


 王位を継いだところで、すぐに死んでしまえば何の意味も無い。そう声を上げ、王位継承戦に名乗りを上げたのが二人目、現王の甥にして王位継承権第三位『アルッシュ・イーシェン・フォム・ユレイシア』だ。ニールと違い若く、その覇気も申し分ない男だが、代わりにニール程、政治に明るくはなかった。


 王の崩御後、このそれぞれ一長一短ある、三者三様の候補者たちが、激しい継承者争いを起こすと目され、そして実際、歴史はそのように動いた。――ただしその先の結果については、誰一人、予想していなかっただろうが。


「しかし、本当に好きだなこの国は。後継者争いが」

「仕方がないさ。国家の成り立ちから言って、この国は後継者争いが起きやすい土壌だから。なにせ、王国そのものが後継者争いの果てに出来た国だ。『才は継承権に優越する』という考えが、建国当初より根付いているのさ。※2詳しくは知らないが、現王の王位継承時なんて、それはもうひどい有様だったらしい。この辺りはひたすら権威と伝統を盾に、継承者が決まる帝国側は穏やかだな」


「血生臭くはあるが、その結果、才能のある奴が王になるなら、国としては別にいいことなんじゃないのか?」

「確かに国家としては、いいことかもしれない。本当に才ある者を候補に立てるのならね。実際、初代はそれで成功した。だけど、この手のものは大抵自分たちの勢力にとって、利益になる候補を持ち上げるようになるものさ。極論、乗せられやすいだけの無能が、王になることだってある」

「政治ってのは、うまくいかないものだな。だが、まぁこの国はどういう状態にあるのかはわかった。内と外がそんな状態じゃ、確かに人材は一人でも多く抱えておきたいのはわかる。連中、無茶をするわけだ」

「ま、そういうことさ。――さて、随分と長く話してしまったね。旅はまだ続くし、今日はこれでもう眠ろうか。追手のこともあるし、明日は水を汲んだら、日の出と共に出発しよう」

「おう」


※1 もし、他の候補者がその言葉を無視して王座を狙ったとしても、他の者たちは前王の遺言という強大な大義名分に従って結託し、その勢力を逆賊として堂々と討ち取ることができる。また、狙う側も亡き王の意志に背くという汚名を背負わされる為、名分や支持を失いやすくなる


※2 勿論、王国貴族全員がその考えを持っていた訳ではない。代表的な例として、シュリア・リンズー・ヴァルマ枢機卿率いるシュリア家は、典型的な保守派の貴族として有名であり、時代によって消極的か積極的かの違いこそあれ、常に継承権通りに王を擁立してきた

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