【ユレイシア貴族連合王国】旅路(6)
「――おお、これはうまいな!」
「そうか、それは良かった。手間をかけて作った甲斐があるってものだよ」
いい感じに肉に火が通ったらしく、周辺に肉の焼けた、香ばしい香りが広がる。
「実は、このやり方で作ったのは始めてだったんだ。うまくいったみたいでよかった」
「とても初めてやったとは思えないな、これ」
蒸し焼きにされた兎肉を頬張りながら、ヘイキチが感嘆の声を漏らす。
「調理のやり方次第で、ただの兎肉がここまで変わるのか!相変わらず親父殿は料理上手だな」
「ははは、まぁ伊達に、何年も一人暮らしはしていないということさ。はい、お茶」
サトルがお茶を二杯入れ、一つをヘイキチに差し出す。
「おお。ありがとう」
「熱いから気をつけてね」
そう言いながら、サトルも自分のお茶に口をつける。
「そういえばあの火花がでる札、発火符とか言うんだっけ?便利なものがあるもんだな」
ヘイキチが先程の着火の様子を思い出す。
札をかざしただけで火口に火がつくという、ヘイキチからすれば未知の出来事だ。
「そうだね、とても便利だ。まぁ流石に使いたい放題って訳じゃないんだけど」
「そうなのか?」
「符はみんな込められた魔力で動いているからね。魔力が尽きたら、それでお終いなんだ」
「魔力か……何度聞いても、よくわからないな」
「ははは、仕方ない。僕たちの国にはなかったものだから。他にも色々な符があるよ。物を冷やしたり、声を遠くに届けたり、大きくしたり、保存したりとかね」
「声を遠くに?保存?それは凄いな」
「まぁあれは凄く高価な品だから、僕のような庶民には、とてもとても手が出せないけどね。この発火符だってレイに無茶言って、無理やり用意してもらったものだ。大人げない話だけど、僕も実物が気になってしまってね」
サトルが苦笑する。
「……こういうものを見ると、改めてここが俺のいた国とは違う国って事を感じるな」
「そう、だね……」
そのヘイキチの言葉に、サトルの声のトーンが少し下がる。
「ここはユレイシア。ユレイシア貴族連合王国。僕たちのいた国、ニホンじゃない」
何か感じいるものがあったのか、それとも故郷が恋しくなったのか、サトルがどこか遠い目をして、夜空の星を眺める。
「こうやって……外で星を見ながらお茶を飲むというのも、なかなかに乙なものだね。逃亡中ということを、忘れてしまいそうだよ」
「……そうだな。たまにはこういうのも悪くない。少し安心したな。どうも、国が違っても、夜空の星というのは、どこもあまり変わらないらしい」
「ははは、そうだね。こうやって星が輝いているところを見ると、ここも自分たちのいた国と大差ないんだなと、そう思えてくるよ」
故郷の星空でも思い出しているのか、サトルとヘイキチは、お互いに少ししんみりとした雰囲気になる。
「なぁ親父殿……ちょっといいか?」
「ん?なんだい、急に改まって」
「今更なんだが、どうして親父殿はあいつらに目を付けられているんだ?」
そんな雰囲気に当てられたのか、ヘイキチがサトルに問いかけた。
「親父殿が色々と深い知識を持っていることは知っているし、そこに価値を見出す奴らがいることも理解できる。だが、それにしたってちょっと、連中のやり方は強引に過ぎる気がするんだが」
人は嫌いな人間相手に、誠実な協力などしない。否、しないだけならまだいい方だ。最悪、裏切ることだってあり得る。だというのに、無理やり連行し反感を買うなど、スカウトの手法としては論外もいいところだろう。ヘイキチの疑問はもっともなことだ。
「なりふり構っていられないほど、これから国が大きく乱れる、ということなのだろうな……」
「国が乱れる?」
「うん、そうだな……。この機会にヘイキチにもこの国のあらましについて話しておこうか」
「それは有り難い。流石に自分が住む国のことぐらいは、知っておかないといかんと思ってた」
「そうか、わかった。ちょっと待ててくれ。少々長い話になるから、薪を拾ってくるよ」
「じゃあ俺は、お茶用の水を汲んでこよう。長くなるなら、茶のおかわりもいるだろう」
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