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【ユレイシア貴族連合王国】旅路(1)

「さて、ではいよいよ出発だな!」

「うん、そうだね。今ならば、闇夜に隠れて移動できる」


 日が完全に落ち、星明りがかろうじて周囲を照らす夜中に、二人は家を出た。


「しかし、ヘイキチ、本当にその二つも持っていくのかい?」


 サトルがヘイキチの担ぐ巨大な戦斧と、腰に据えた剣を指差し尋ねる。


「当然だ。道中野盗にでも襲われたりしたら、たまらないからな。これさえあれば、百人に囲まれたって返り討ちにできる」

「ははは、ヘイキチが言うと冗談に聞こえないな。いや、実際冗談じゃないのだろうが……」


 サトルが苦笑する。


「ああ、そうだ。これを忘れてはいけないな」

「うん?」


 サトルがカバンの中から筆と墨を取り出すと、家の扉に文字を書いていく。


「親父殿、何をしているんだ?」

「我が友レイに、書き置き※1を残しているのさ。次、この家に来た時、主の帰らないこの家で、レイを待たせるわけにはいかない。なにより、さよならの一つも言わないで去るのはね」

「……なるほど、それはそうだ」


 そして、数十行の文を書き終えると、家の中にいる兵士たちに告げる。


「じゃあ、僕たちはこれで行くから。お大事にね。ああ、家に残してある食べ物は、君たちが好きに食べてくれて構わないよ。腐らせるのは惜しいからね」

「じゃあな、お前ら。次戦う時があったら、その時はもっと強くなっていてくれよ。そしたら、本気で戦うからよ」


 そう言って、親子は住まいを後にした。



「――なぁ、今からあの二人の後を付けて、王宮に報告すれば、俺達の手柄になるんじゃないか?」


 二人が去った後、兵士の一人が横になりながらそんな事を呟いた。


「手柄にはなるかもしれないな……。だが、もしバレたらあのヘイキチとかいう男とやり合うことになるぞ。俺はもうゴメンだよ。しかも、次は本気らしいしな」

「確かに……。もしそうなったら、流石にもう生かしてはくれないだろうなぁ……」


 隣の兵士に突っ込まれ、即座にその意見を引っ込める。


「冗談でも止めないか。そういう事を話すのは」

「ここまでの恩を受けておきながら、約束を反故にするなど、人として恥ずべきことだ。俺は別に大した人間ではないが、それでも最低限の矜持ぐらいは持っている」

「……分かってるよ、本気で考えてわけじゃない。俺だって男だ、欲に目がくらんでも、そこまで卑しい人間になるのはゴメンだ」

「このことは俺達の胸の奥に沈めて、忘れよう。それが俺たちに出来る、賢者様への唯一の恩返しだ」

「恩を受けた者として、あの二人の旅路を、その無事を祈ろうじゃないか」

「……そうだな」


 翌日、四人の兵士は王宮に戻り、上官に事のあらましを説明した。

 ヘイキチなる、北の賢者の息子にやられたこと、そしてその北の賢者に治療をしてもらったこと、一晩宿を借り、食べ物を恵んでもらったこと。

 だが、その報告の中で、既に二人が住処を出立済みであることについては、四人の口からただの一度も語れることはなかった。


 代わりに四人の兵士たちは、口を揃えてこう言ったという。


「――北の賢者は、今日も変わらず農作業を営んでいます」


※1 内容は「親愛なる我が友レイへ。こんな形での別れになってしまって申し訳ない。僕たちは旅に出ようと思う。訳あって行き先は言えないけれど、その訳はきっと君の想像通りだと思う。君にはとてもお世話になった。この国に来て、右も左もわからなかった僕を、助けてくれたのは他ならぬ君だ。本当に感謝している、ありがとう。その恩を返すと言うわけではないが、いつもの場所に新作を入れたままにしておいた。陶芸家アスカイ・サトル最後にして、最大の力作だ。どうか収めて欲しい。それでは最後になってしまったが、さようなら。もしまた会えたのなら、その時はあの夜の続きをしよう。アスカイ・サトルより(一部抜粋からの要約)」

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