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【真正ユレイシア帝国】頭角(1)

「――なぁんて、教授とやりあっていたのがもう半年も前かぁ」


 帝国暦332年、連合歴123年、ヴィンターヒルド平原の戦い。この時点での両軍の兵力は帝国軍十四万に対して王国軍十万。比較的大規模な戦闘だったが、数に勝る帝国軍が戦況を比較的有利に進めていた。しかし、防衛側の王国軍は負けじと粘りを見せており、時間と共に激化する戦いは既に八ヶ月に及んでいる。そしてそんな戦の最前線で、リュドミアは軍務補佐官として従軍していた。


 戦いの激化に伴い、本来一ヶ月で終了する筈だったリュドミアの実地訓練はズルズルと伸び続け、既に半年目に突入していた。※1

 その気になれば帰ることも出来たのであろうが、次々にやってくる大量の仕事を前に、帰るに帰れなくなったらしい。


 もっとも派遣されたばかりの新人、かつ女性という身でありながら、それが許されるほどの信用をたった半年で得られたリュドミアの方が異常なのかもしれないが。


「私ってこんなに義理堅かったかしら……」


 ため息をつきながら、リュドミアが淡々と書類を確認し整理していく。


「失礼いたします!リュドミア軍務官殿!」


 そんな激務に負われるある日、一人の兵士がリュドミアの元に飛び込んできた。


「軍務『補佐』官、しかも臨時ね。気がついたら補佐する人、こっちほっぽって別の仕事始めちゃってるけど。あくまで補佐だからね、補佐。これ以上、仕事いらない」

「(近い内にどうせそうなりますし、別に気にすることじゃないと思いますが)失礼、臨時軍務補佐官殿!」

「何か言外に心外なことを言われた気がするけど……なにかな?依頼されていた矢と槍の補充ならもう間もなく届くはずだよ?」

「ああ、いえ……そうではなく……」

「?」

「恐らく……リュドミア臨時軍務補佐官殿に来客……と思われます」

「恐らく?で、思われる?」

「ええ、はい……それが……」

「リューテシア様ー!!」

「あ、ちょっと待ちなさい、君!」


 兵士が脇に引くより早く、一人の女性が飛び込んできた。


「げっ!」

「お会いしとうございましたー!」

「テレシア!?」


 そして、リュドミアの前に恭しく跪いた。


「貴方どうしてここに!?」


 リュドミアが目の前で跪く女性に驚愕した。


「ああ、いや。ウオッホン!リューテシア?なんのことかな?」


 わざとらしく咳をして、仕切り直しとばかりにリュドミアが目の前の女性に話しかける。


「僕の名前はリュドミア・ライヒハートだ。人違いじゃないかな?」

「『僕』?『リュドミア』?なんです、それ?というよりなんですか、その口調と眼鏡は?また面白い本でも読みました?」

「……何を言っているのか知らないけど、僕は生まれつきこういう話し方だよ。眼鏡は子供の時からずっと掛けてる。そういうわけで、だ、テレシアさん。お引取りいただ――」

「私、まだ名乗っていませんよ、リューテシア様」

「あ……」

「リュドミア様……でしたっけ?私の名前は確かにテレシア・フローレンスですが。初対面の相手の名前、よくお分かりになりましたね?」

「噂で耳に……」

「どんな噂です?私、そんなに有名人じゃありませんよ?」


 満面の笑みを浮かべて、テレシアがリュドミアに詰め寄る。


「……ごめんなさい、そこの貴方。ちょっと席を外してもらっていいかしら?」

「ハッ!」


 敬礼をして、兵士が立ち去る。


「こんなマヌケな論破をされるなんて、やっぱり働きすぎて疲れてるのかしら……」


※1 戦局によって実地訓練の期間が変わること自体は別段珍しいことではなかった。訓練に出たまま帰らない生徒も何人もいたらしい

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