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【真正ユレイシア帝国】討論(2)

「――何故ここに呼ばれたか、分かるかね?リュドミア・ライヒハート君」

「はい……」

「ならばとりあえず、君の言い分を聞こうか」

「はい……」


 リュドミア・ライヒハート――教科書にも載っている冬夏戦国時代を代表する兵法家である。

 記録に残された中では恐らく、史上初の女性兵法家であり、また同時に女性偉人の代表格でもある。


 赤髪赤目であったため当時より『赤髪の魔女』『赤眼の天才』などとあだ名された。


「あれは、事故だったんです」

「ほう?事故とな?」

「旧暦魔法※1の本を読んでいた時にですね、発火符※2と投声符※3をうまく組み合わせれば、遠隔で着火を行うことができるのではないかと思い至りまして、実験を行いました」

「ん?」

「成功すれば今後、火を使った作戦の幅が大幅に広がると思ってのことです。しかし、お互いの符が干渉し合った結果、どうも発火符の術式に狂いが生じてしまったようで」

「んん?」

「その場で大規模な発火現象が発生しました。新暦魔法は旧暦魔法より術式が複雑なので、他の術式との同調には向かないようです」

「ほう、成程」

「すみませんでした」

「……つまり、昨日のあのボヤ騒ぎの犯人は君だったと言うわけだ?リュドミア君」

「……あれ?」

「そうか、そうか。その件については後ほど、じっくり話を聞かせてもらおうじゃないか」

「あれ?あれれ?先生ひょっとして、今回の呼び出しはその件じゃな――」

「まぁそれはもう長くなると思うから、お茶請けでも用意しておくといい。……木簡四十枚は覚悟するように」

「なんですと!?そんな殺生な!」

「どの口が言うか。……まぁ今は一旦それは置いておこう」

「いえ、ずっと置いておいてください」

「これは一体なんだね?」


 リュドミアの言葉を無視してドサリとハリー教授が紙の束をだした。


「え?昨日提出した僕の卒業論文じゃないですか。それがどうかしたんですか?」

「ほう、卒業論文とな?君にはこれが卒業論文に見えるのかね?」

「むしろそれ以外の何に見えると?」

「そうか。私には何度読み返しても、国家転覆の計画書にしか見えないのだが?」

「先生、なにか別の本読んでません?」

「読んでるか!ならこのレポートのタイトルを読んでみなさい」

「え?『帝国臣民に対する教育の義務化と政治参加についての研究論文』です」

「そうだな。ではここはどこだ?」

「ユレイシア帝国総合軍事学校です」

「そういうことだ」

「どういうことです?」

「……」


 ハリー教授が頭を抑えてため息をつく。


「学校で陛下から権力を簒奪すべき、などという内容の書物を書く奴があるか。しかも軍学校でだ。反逆の意思ありと思わえても文句は言えんぞ」

「ああ、そういう」


 合点がいったとばかりにリュドミアがポンと手を打った。


「簒奪と言われるの心外です。僕はただ、現状一部の特権階級にのみ開かれている議会を広く臣民に開放し、臣民により選出された代表者達に国政の権限を移譲。陛下には国家安寧の象徴として権威を振るっていただこうと」

「それが簒奪と言っているのだ。やっている事は完全に陛下の形骸化ではないか」

「国政に関わる能力を失う、ということが陛下の形骸化だとおっしゃられるのであれば確かにその通りでしょう。しかし僕は違うと考えます」

「ほう、どう違うというのだね?」


「臣民が国家という枠組みに収まっていることを自覚する上で、『三百年以上続いている王家』という権威は非常に大きな意味を持っています。その絶大な権威さえあれば、有事であってもその御旗の元で臣民は一つとなることができるでしょう。しかしなければ臣民は行き場を失います。これはたとえ国政に関わる能力を失おうと、陛下という存在が決して形だけのお飾りでは収まらない、ということを意味しています」


「……成程。では、千歩譲ってこれが陛下に対する反逆ではないとしよう。だが、何故臣民に国政を委ねさせる?しかもわざわざ代表者の選出、などという回りくどい方法を取って。優秀なものに政治を回させたいのであれば今の制度で十分だろう。現状とて議会にいるのは一流の教育を受けた貴族階級の人間なのだから」


 ここで、生徒の言い分を聞いた上で無意識に討論を始めてしまうのが、ハリー・ノーマン教授が変わり者と言われる由縁であり、彼の元に奇妙な人間ばかりが集まる理由でもあった。


 例えば、これが他の教授であったのなら、リュドミアの論文はそれこそ「反逆の計画書」として問答無用で握りつぶされていたことだろう。


 だが、彼はそういうやり方を良しとはしなかった。例えそれが、未熟な学生の考え出した幼稚な机上論でも、天才の生み出した突飛な理論でも、彼は論じられる余地がある限り必ず論じる。『論は論でよってのみ打ち消される』それがハリー・ノーマンの信念だったからだ。

 

※1 ユレイシア帝国成立以前に開発された最初期の魔法技術の総称。対義語は新暦魔法


※2 使用すると符から小さな火花が出る旧暦魔法。最も基本かつ最古の魔法。使用回数に制限があり、かつ高価ではあったが、携行の容易さと火起こしの容易さから開発当初より各地の軍で幅広く使用された


※3 複数枚一組の符で、一方の符に話しかけると対となる符に声が届く新暦魔法。開発以降、戦場の常識を一変させた。これ自体が既に高価なものであるが、より高価なものになれば声だけでなく映像も送信できた。類似魔法に声そのものを大きくする『拡声符』も存在する。こちらもまた戦場において非常に重宝された

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