01 リアル世界で
数十年たったこの世界ではたくさんの分野が発展した。
どんな小さな工場も全自動が基本的になり、[人造人間]や、[クローン]ができている。
もちろんVRゲームも例外ではなく、進歩しているのだが…
あまり著しくはない。
動きがかなり制限されるため、ジャンルは大体がレール型シューティング、動きが大きくないシュミレーションに限られていた。
また、会話をフォントで出すと現実味が損なわれるためNPC【ノットプレイヤーキャラクター】をフルボイスにしなければならない。
というそんな風潮が追い討ちをかけて、開発側の大きな負担となっていた。
しかし、とあるベンチャー企業に突然現れ、姿を消したプログラマーは一つのゲームを残す。
それは、[Free travelers]【フリートラベラーズ】である。
とうとうこの[ゲーム]が[もう一つの世界]となる時が来たのです。
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「なあ、たっくん、聞いてる?」
目の前でしつこいぐらい話しかけているのは、幼馴染の笠見 真隆。
男子の割にはきれい好きで意外と女子に人気がある。
悪いところといえば、とにかく頭が悪い。
べつに大して賢くもない俺が言うのもなんだけど、クラス平均85点のテストで
5点取るぐらいだからなー。
ちなみにおれはちょうど平均点ぴったりだった。
その時は、散々からかったものだ。5年前、小6の話だからまだ懐かしむほど昔の話ではないのだけれど。
「ああ聞いてましたよー」
「本当かなー、じゃあたっくんはどうする?」
俺はわからないのをごまかし、逃げるように目をそらした。
「やっぱ聞いてないじゃん。通常版と特別版どっちにするかっていう話だっただろう?
特別版は値が張るけどゲーム内特典が付くらしいし」
「いつの間にか買うのが決定になってるけど…」
「えーっ、そこから聞いてなかったのか。うとうとしながら、買うって言ってたよね。
値段も通常版なら本体込みで9000円だし」
俺はいつの間に買うなんて言ってしまったんだ。眠くなってから返事してたけどさ。
まあ言っちゃったのは仕方ないな。
「じゃあ俺は通常版を買うぞ」
「じゃあ僕も通常版を…と言いたいところだけど特別版にするよ。たっくんには負けたくないし」
「そうか」
彼は、ずいぶん前から負けず嫌いな所がある。
そんな休み時間のやり取りがあった後、
学校から家に帰った俺は親が寝ているベッドの横をすり抜け、パソコンの前に座った。パソコンはお父さんの部屋にしかないから、容易く使う事はできないが……。まあ、今日ぐらいはいいだろう。もうそろそろ起きるだろうからな。
「あれを買うのが決まったのはいいもののどんなゲームか知らないしホームページを見てみるか。」
見てみると早々に、『VRMMOついに実現』という煽り文句とともに広大なBGMが流れてくる。
書いていた情報をまとめると、日本限定発売で地球六個分ぐらいのマップがあり、
5億人同時接続ができ外国語も自動で翻訳してくれるらしい。
…あいつぐらいに脳筋じゃないか。
個人的に、高スペックなら高スペックなほどいいわけじゃないと思っているからな。
必要な機能と、不必要な機能は、ゲームによって違う。
MMOに多いAUTOプレイも、某街づくりゲームに搭載しても…っていう話と同じだ。
まず、たったのゲームなのに地球六個もやりこむ人がいるのだろうか?
それはまだいいんだ、日本限定発売なのに外国語自動翻訳や5億人同時接続いらないんじゃないか?
まだ日本の人口1億人だし、ゲームのために引っ越す人がいると思わないからな。
才能の無駄遣いも行き過ぎると哀れに思える。
まあそうはいっても、面白そうだったので、急いで自転車をこいで買いにいった。
通販はあるけど、最近は店のほうが安いことが多い。
通販も、昔みたいに配送に三日かかったり、荷物が届かないようなことがなくなって使いやすくなったりはするけど。
そんな時代でも、未だにクソゲーが生み出されている。
とりあえず、このゲームがクソゲーじゃないことを祈るしかない。
そんなことを考えていると、「建栄、帰ってきてたのか」
「ただいま。そういえば父さんもうそろそろ仕事だよ?」
俺の父さん【水下俣季】(みずしたまたひで)は、機械に仕事をとられ、夜勤になっていた。
(【機械電力制限法】によって電気の制御を名目に、深夜の機械労働は禁止されており、多くの労働者が、深夜に働いている。)
「わかった、すぐ起きる」
「今日の晩ご飯は、もう用意できてるから」
「ありがとう」
そう短く言うと、眠そうに重い腰を上げた。
日が沈んだにも関わらず、彼の一日はまだ始まったばかりなのだ。