賭けの行方
その後、私は中々良いアイテムが見つからなかったため、大精霊の子が知り合いの微精霊(という名のパシリ)に集めさせたらしい素材を使い、図書館で新しい物を作る事にした。
何故なら全部国宝級の物で、分かる人が見たら大騒ぎになりそうだったから。
まぁ、大精霊の子が作ったらしいから、当たり前だけど尋常じゃない魔力が込められているよね。
それでなるべく魔力を込めないように私が作った運気上昇の効果があるアイテムは、加工した琥珀色の石にチェーンを通したネックレス(自分用)と、同じく加工した翡翠色の石に紐を通したブレスレット(シリル用)だ。
所要時間は全部で20分程。
魔術を使ったからか、思ったより早く出来た。
ちなみに使った魔術の属性は土だ。
土属性の魔術は土、砂、岩など大地を構成する物を自由自在に操る事が出来る。
その容量で、ネックレスとブレスレットにした石に、自分が思い描く形を投影したら上手くいった。
まぁ、何回か粉々に砕いちゃったけど。
でも、水属性の魔術よりは制御が出来た。
というのも、土属性はカレトヴァー家が得意とし、フェリシアちゃんが壁に穴を開けた水属性の魔術と違い、あまり適正がないのだ。
だから全力を出しても、水属性の魔術と土属性の魔術とだと雲泥の差がある。
それでも、水属性が災害並みだとすると、土属性は優秀な学生の魔術師並みだけどね。
まぁ、それは置いといて、とにかく私はそのネックレスとブレスレットに全てを託す事にしたのだ。
賭けに乗った人たちの頬っぺたにキスをするのは面倒なので、本気にはしないが期待はしている。
上手くいくといいなぁ。
「いい?シリル、あなたが今日これ以上転ぶと大変な事になります」
「大変な事、ですか?お嬢様」
「はい。(シリルが可哀想なので)具体的には言えませんが、とにかく大変な事なのです」
「な、なるほど。けど、僕に出来るでしょうか?」
私の胡散臭い言葉をシリルは真に受け、不安そうな顔をする。
シリル、素直なのは良いことだけど、それはちょっと度が過ぎると思うぞ。
6歳だから、仕方ないのかもしれないけど。
私が自分の今の言葉を言われたら、かなり不審に思うもん。
……私が疑い深いだけ?
いや、前世の私が6歳だった時もこんな感じだった。
お父さんとお母さんが私によく『知らない人や怪しい人に付いていかない、その言葉を真に受けないように』って言ってたから、私は知らない人や怪しいと思う人に会ったら持たされていた防犯ブザーを即鳴らしたり、大声で叫んだりしたし。
こう考えると、前世の両親って常識人だったから、ありがたみが強い。
今の両親も良い人だけど、ふわふわしてる人たちだからなぁ。
「えぇ、きっと出来ます。シリル、あなたなら」
というか、出来てもらわなきゃ、私が凄く困ります。
「それと、ささやかですが、お守り代わりにこれを」
「え……え!?こんな高そうな物頂けませんよ!」
私がシリルに翡翠のブレスレットを渡すと、凄い勢いで拒否された。
でも、そうか。
シリルの立場からすると、そうなっちゃうのも無理はない。
だけど、私もここで引き下がる訳にはいかないのだ。
何とかして、説得しないと。
「ですが、あなたにこれを付けてもらわないと困るのです」
「えぇ、そんな……というか本当にこのブレスレットを付けると転ばなくなるのですか?」
「えぇ、このブレスレットは強い力を持つパワーストーンという石で出来ており、中でもこの翡翠と呼ばれる石は『成功と繁栄』をもたらすとされている物なのです」
これがパワーストーンだという設定は今思い付きました、はい。
シリル、ごめんね。
これは正確にはパワーストーンじゃないんだ。
それよりももっと強大な力を持っているんだ。
垂れ流し状態の大精霊の子の魔力がちょっと混じってるから。
「ぱわーすとーん、初めて聞きました。というか、尚更そんな高価そうな物頂けませんよ!」
うわぁ、この国にパワーストーンなんて物はないのか。
言われてみれば、こんな中世ヨーロッパ雰囲気の世界にあるはずないよね。
まぁ、すぐに流行りだすと思うけど。
というのも、お父様とお母様に私がシリルに贈り物をしたという事はバレたら凄く羨ましがりそうだから、後で二人にもプレゼントするつもりなのだ。
そして、恐らく娘loveで社交界の中心的人物である二人は色んな人に言い触らすだろう。
しかも、 魔術で石を好きな形に加工し、紐やチェーンなどに通すというのは魔術を使える人なら結構簡単に出来る作業なのだ。
それこそ、お父様とお母様なんかは数分で出来てしまうだろう。
なので、貴族の流行の最先端を走るお父様とお母様の真似をする人はすぐに出てくるだろう。
「そんな高いものではありません。だから安心して受け取って下さい」
大精霊の子から貰った物で作ったから、実質タダだしね。
「ほ、本当によろしいのですか?」
「はい」
「え、えぇ、でも……」
よし、あとひと押しだ。
「なら、これは私からの出世払いという事にしましょう。これからの貴方の活躍に期待して」
「お、お嬢様。僕なんかに期待をされても……」
「いいえ、貴方は優れた人材です。それは私が保証します」
現にゲーム内では、ヒロインと一緒に魔王を倒していたしね。
だから、シリルもやれば出来ると思うんだよなぁ。
「……お嬢様、分かりました。僕、やるだけやってみます。ただ、あまり期待はしないで下さいね?」
「はい、頑張って下さいね。……あぁ、それと急に走り出すのは危ないので、止めた方がいいかと。あと、足元に気をつけて慎重に行動すれば、転びにくくなるばすです」
まぁ、これ全部ゲーム内でヒロインがシリルにアドバイスしてた事をパクっただけだけどね。
けどこれを言われた後、シリルは失敗する事が減ったから効果はあるはずだ。
「なるほど、気をつけてみます!」
よし、シリルに運気上昇の効果があるアイテムを渡したし、ヒロインのアドバイス丸パクリしたセリフを言ったから、大勢の人の頬っぺたにキスをする確率はかなり下がったはずだ。
「お嬢様~?そろそろ仕度の準備をしないといけないのですが」
あっ、ミシェルが呼んでる。
そろそろ行かないとかな。
でも支度の準備って何するんだろう?
別に私はこのままでも大丈夫だと思うんだけど。
今の私の格好はフリルがふんだんにあしらわれたパステルオレンジ色のワンピースだ。
断じて重そうで歩きにくそうなドレスは着ていない。
ドレスを着るのは、パーティーの時くらいだ。
というのも、この世界の貴族は地球の中世ヨーロッパの貴族よりも、ラフな格好をしている。
といっても、前世の私じゃ手の届かなそうな上品で高価そうな服を着ているが。
「じゃあ、そういう事なのでよろしくお願いしますよ?」
「は、はい!頑張ります!」
シリルにそう念押ししつつ、私は足早にミシェルの所に向かう事にした。
にしても、上手く説得できて良かった。
これも、ネックレスの効果なのだろうか。
なら、結構期待ができる。
ちなみに、その後シリルは無事に転ぶ事なく1日を終えた。
やったね。
本当にシリル様々だよ。
賭けに乗った人達は、私以外がシリルが新記録達成する方に賭けていたので、落ち込んでいたけど。
ただ誤算だった事が一つ。
賭けに負けた人達が全員、私に秘蔵のワインを献上したことだ。
子供だから、なぁなぁに済まされると思ったのに。
皆、良い人かよ!
でも、未成年だから飲めないし、かといって保管する場所もない。
というか、結局屋敷中の大人全員が賭けに乗ったから、成人しても飲みきれるか怪しいし。
そのため貰うのを拒否したのだが、お父様とお母様がなら私専用のワインセラーを作ると言い出したのだ。
くそ、これだから行動力のあるお金持ちは。