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飛行機は作るものじゃない

「……えーと、つまりここはデータベースみたいな感じ?」


ここの雰囲気と名前にギャップを感じつつも、彼女の説明を上手く頭の中で組み立て、私がいた地球で一番近いものに当てはめる。

そして、それは彼女の言動を見る限り間違ってはいないと思う。


「でーたべーす?ちょっと待っとくれ。調べるから」


そう言ったかと思えば、大精霊の子の手の中に一冊の本が現れる。

恐らくそこに、データベースについて詳しく書かれているのだろう。

こう見ると、本当にインターネットで検索するのと変わらないな。


「……ふむ、なるほどな。データベースとは検索や蓄積が容易にできるよう整理された情報の集まりの事じゃったか。合っておるぞ」


うわ、何かウィキ○ディアで検索したら出てきた答えみたいな事、言ってる。


……でも、"整理された"ね。

とてもそうとは思えないんだけどな。

だって、『錬金術~応用編Ⅱ~』というタイトルの本の隣に『簡単!5分で出来るじゃがいも料理』というタイトルの本があるんだよ?

しかも、本棚に入りきらなかったらしい本たちは乱雑に床に積まれているいるし。

整理されてると言うのは、かなり無理がある。


「それにしても、お主の世界の文明は知れば知るほど面白いのぉ!特に"科学"なんかはびっくりしたわい!魔術もないのに、よくここまで発展させたのぉ!」


確かに、我が家には(お金持ちだというのもあるかもしれないが)洗濯機や冷蔵庫など多数の家電製品らしきものがある。

しかも、かなり高性能のやつ。

仕組みは知らないけど、これも全部発展した魔術の恩恵だ(仕組みは分からないけど)。

それでも、地球の現代日本にあった物はこの世界において60~70%しかない。

雰囲気は完璧に中世ヨーロッパなのに、結構ハイテクなのは違和感があるけど。


だから、逆に言えば魔術なしであそこまで発展させた地球は今思えば凄かったって事になるわけで……。

まぁ、この世界が乙女ゲームの世界だからっていう事もあるかもだけど。


「特に飛行機とか車とか、何じゃこれ!」


「あぁ、そういえばこの世界では今だに移動は馬車が主流だもんね」


フェリシアだった頃の私も馬車には何回か乗った事あるけど、乗り心地は車と一緒だった。

恐らくこれも魔術の恩恵なのだろう。


「よし、作るとするかのぉ!飛行機」


……何言ってるんだろう、この子。


飛行機について、そこまで詳しく知らないけど一人で作れるものではないことが確かだ。

いや魔術を使えば、ぱぱっと作れちゃうのか?

しかも彼女は大精霊らしいから、本当にこの世界に飛行機が……?


「材料はあるみにうむごうきん……?たんそせんいきょうかぷらすちっく……?はて、何を指しているんじゃろうか?お主、分かったりするか?」


いや、わかんない。

特に炭素なんちゃらがわかんない。


「……本気で作る気?」


「え、逆に作りたいと思わんのか?」


何が逆になんだろう。

そもそも私の常識からすると、飛行機は作りたいから作る物じゃないんだよな。

ライト兄弟とかは別として。


「飛行機を作って世間に発表したら、一躍時の人になれるし、国の偉いものから褒美も貰えるかもしれんのだそ?」


確かにノーベル賞授賞ものだね。

というか、何でそんなに理由が俗っぽいの?


「それに色々な発明品を我輩とともに作り続ければ、それを口実に例の学院に行かなくてもすむ。さすれば、お主が気にしておった"ばっどえんど"なるものも回避できる。同時に地位と安全を手に入れる事ができるのだぞ?」


私のために……?

その気持ちは嬉しいけど、ちょっと発想がぶっ飛んでると思うのは私だけ?


別に地位は特別欲しい訳ではないし(なんならもう持ってる)、安全を手に入れるのならゲームの登場人物と積極的に関わらなければいいだけだし。


「……それに、我輩の好奇心も満たされるからのぉ」


小声で言ったつもりなんだろうけど、バッチリ聞こえてるよ?

なんだ、結局はそこに落ち着くのか。


「私、目立ちたくないし、平穏に暮らせればそれで良いから」


「え、じゃあ、飛行機は?」


「作らない」


私がキッパリと言い切ると、大精霊の子は面食らったようにぽかんとする。

え、そんなに驚くような事?


「……いやじゃ!」


そして、今度は床に寝転がり、手足をじたばたさせる。


「いやじゃ!我輩はお主と一緒に飛行機作りたいのじゃ!」


……え、えぇ。

この子、何歳なの?

口調から見た目よりもうんと年取ってると思ってたんだけど。

この言動は完全にイヤイヤ期に入った幼児そのもの。


「作りたいのじゃ!作りたいのじゃ!」


「……分かった!分かったから!何でもいいから紙頂戴!飛行機作るから!」


泣き喚く彼女の声に耳が耐えられなくなった私は、彼女の幼児のような言動をどうにかするためにある事を実行する事にした。


「か、紙?これで良いか?」


私が怒涛の勢いで捲し立てたせいか、大精霊の子は少し怖じ気づいたように近くの本のページを破って渡してくる。

紙をくれと言った私が言うのもなんだが、それで良いのか?


まぁ、いいか。

それよりも今はこの駄々っ子の機嫌を直すために"これ"を完成させよう。


「テッテレ~紙飛行機~」


丁寧かつ素早く組み立てた紙飛行機を某青いタヌキ風に手に取り、飛ばす。

おっ、結構良い感じに飛んでいった。

そういえば、紙飛行機とガチの飛行機って同じ原理で飛んでるらしいね。


「……………………」


ダメか。

流石にこれでは誤魔化せないか

いくら見た目と言動が幼児特有のそれでも……。


「……じゃ」


「え?」


「何じゃそれ!?今、飛んでいったぞ!?魔術もなしに飛んでいったぞ!?どういう原理で飛んでいったんじゃ!?詳しく調べなくては……」


誤魔化せた。

……もう、彼女と接する時は幼児と接するイメージでいこう。

私はやれやれとため息をつきつつ、彼女を呆れた目で見る。

本当に何者なんだろう。


▼△▼△▼△▼


そして、それから彼女は紙飛行機について調べ始め、よく飛ぶ紙飛行機の研究までし始めた。

……本のページを使って。


いいのか、それで。

というか、他に紙ないのか。


「よしよし、これで紙飛行機について調べ尽くした我輩に分からぬ事はない!我輩を紙飛行機博士と呼んでもいいのだぞ?」


あれだけ時間をかけて、詳しくなったのが紙飛行機についてだけとか。

なんだか、虚しくなってきた。


「よし、これで飛行機を作る準備に取りかかれるな!」


……何で?

何で、振り出しに戻っちゃうの?


「私は作らないからね」


「え……」


いや、そんな可愛くショックを受けた顔をしても嫌なものは嫌だから。


「そもそも飛行機を作るのにどれだけの労力と材料と時間を必要と……する、か」


……時間?

ちょっと待て。


「ど、どうしたのじゃ?顔が真っ青だぞ?」


急に黙り込み、尚且つ顔を青くさせた私を心配してくれたのだろう。

彼女は自身も顔を少し青くさせ、おろおろと私の顔を覗き込んでくる。


それは大変ありがたい。

……ありがたいのだが。


「……ここに来てからどれくらい時間が立った?」


結構時間立ってる気がする。

色んな事がありすぎて、他の事が全部すっ飛んでいた。

まずいぞ、これは。


「え、えーと、お主が来てから……1時間32分53秒が立ったぞ」


細かっ。

というかやっぱり結構時間立ってた。


「あぁ~、どうしよう。お父様とお母様たちが心配してるんじゃ……いや、してるよね。絶対」


今から、帰ったって何と説明すればいいのやら。

只でさえ稀有な存在の大精霊と会っていたって言ってもなぁ。

親バカな二人の事だ。

絶対に色んな人に言い触らして、面倒な事になる。


「なんだ、そんな事か。なら、心配しなくとも平気じゃぞ?」


「え?」


「ここは、時間の概念があってないようなものじゃ。だから、お主がいたあっちの世界はあまり時が進んでないぞ?大体5分くらいだな」


「そ、そうなんだ……」


よかった~。

いや、凄く焦った。


でも、本当に少しだが向こうは時間が進んでいるのか。

それも、5分。

いつ誰が来るか分かんないし、そろそろ帰った方がいいよね。


「あっ、帰り方って……」


「え!?帰ってしまうのか!?」


「そ、そりゃまぁ、私の部屋に誰か入って来たらまずいし……」


どうやら、私が帰ってしまうことが彼女は惜しいらしい。

そのためか、悲しそうな顔をする。

……美少女がその顔をするのはずるいぞ。


「えーと、貴方がこっちに来るのは出来ないの?」


「あぁ、残念だが。私はこの場所を守るために生まれてきたようなものだからな。」


「なら、また遊びに来るよ。ただ、バレると面倒だからそう頻繁には無理だけど」


だから、今すぐその顔を止めて欲しい。

良心が凄く痛むから。


「本当か!?」


「うん」


あっ、満面の笑みになった。

何というか、チョロさを感じる。

本当に子供みたいだ。


「じゃあ、改めて私はフェリシア。よろしくね。」


場を仕切り直すため、私は一度ごほんと咳をし、彼女に手を差し出す。


「貴方の名前は?」


そして、今まで聞くタイミングをのがし続けていた事を私は言葉にする。

はぁ、やっと聞けた。

何かここまで色々ありすぎて長かったなぁ。


「我輩の名前はまだない!だから、お主が考えといてくれ!よろしく頼むぞ!じゃあ、またな!待っとるぞ!絶対だからな!」


……最後なのに、何だその締まらない終わり方。

カッコつけてキメ顔までしたのに。


そんないたたまれない気持ちになりながら、私は来た時と同様に白い光に包まれ、自分の部屋に帰還した。


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