親バカ
そのあと。
本物の一流の魔術師であるお父様が土属性の魔術を使い、私の部屋の壁を元通りに直してくれた。
す、凄い。
土属性の魔術の応用編である錬金術らしきものを見た私は、興奮を隠せず、思わず頬を火照らせ胸を弾ませる。
「お父様、凄いですわ!」
「ん?そうか!お父様は凄いか!」
「あらあら、良かったわね~。あなた」
私が本心からそう褒めると、お父様はガッツポーズをしながら喜び、お母様もそんなお父様を見て微笑んでいる。
私が壁をぶち抜いた直後だというのに、このほんわかさ。
脳内お花畑な両親がちょっと心配になってくる。
いや、まぁ、全面的に私が悪いんだけど。
「フェリシアも練習すれば、これくらいすぐ出来るようになるぞ!」
「でも、魔力を制御することが必要ね~。可愛いフェリちゃんが今日みたいな事を起こしてケガでもしたら大変だもの」
「なぁに、私が教えればいいだけの話だ!」
今だに私に対して親バカを発動し続ける両親とすっかり綺麗になった壁を横目に、私は魔術の制御の仕方を教えてもらおうと心に決めた。
「あの、お父様、お母様。折り入ってお願いが……」
「お願い?何だい?お父様たちに何でも言いなさい」
「可愛いフェリちゃんのお願いなら、何でも聞いちゃいますよ~」
……この人たち、よく今まで公爵家当主とその夫人としてやっていけたな。
位が高いという事は敵も多いはずなのに。
それに、夫婦揃ってこんなお人好しな性格してるから、ずる賢い人たちに騙されてまくってそうなイメージしかないんだけど。
本当に大丈夫なのかな?
「……まずは、迷惑をおかけしたことを謝らせて下さい」
いや、今はそれよりもとりあえず、壁をぶち抜いた事を先に謝ろう。
自分のせいで相手に迷惑をかけたら謝るのは、社会人として当然の事です。
まぁ、今のフェリシアちゃん(6歳)は社会人じゃないんだけど。
あっ、あと基本的な仕草は体が覚えてくれているのか、記憶が戻る前のフェリシアのままです。
だから、口調とかも人を前にすると自然とお嬢様言葉になるよ。
これなら、お父様とお母様たちに中身が違うって事もバレないだろう。
いやぁ、良かった良かった。
「はははっ!気にしなくてもいいぞっ!フェリシアが何を壊そうと、私がすぐに直してあげよう!」
「そうですよ~。お父様だけじゃなくて私にもこれくらいなら出来ますから、どんどん壊しちゃっても大丈夫ですよ~」
まじか、あの錬金術は両親からしたら大した事じゃないのか。
まぁ、でも魔術の腕を買われて王様の右腕とされる宰相にまで登り詰めたお父様と、王家随一の魔力を持つともされるお母様だもんなぁ。
それに基本的には一つの属性の魔術しか使う事が出来ないんだけど、二人とも六属性全部使えるしね。
よし、私も前世からの願望のために頑張ろう。
あと、両親の言葉を真に受けて慌てている使用人とメイドの皆さんのために頑張ろう。
「それでですね!私もお父様とお母様のように魔術を扱えるようになりたいのです!だから、私に魔術を教えてくれると嬉しいのですが……」
「フェリシアっ!勿論いいに決まっているだろうっ!」
「フェリちゃんっ!一緒に頑張りましょうね~」
そう思い直し、やや力を込めながら両親に私は自分の意志を伝える。
すると、両親は私がその言葉を言い終わらない内に私を抱きしめ、実に嬉しそうに親バカを発動する。
いや、苦しっ。
そんなぎゅうぎゅう抱きしめられては、呼吸も出来ない。
もしかしたら、私抱きしめられて死ぬかもしれない。
明日の新聞の大見出しは"フェリシアちゃん(6歳)、両親の抱擁により死亡"に決まりだな。
と、そんな馬鹿げた事をいよいよ酸素が足りなくなってきた私はかなり真面目に考える。
それほど、今の私には脳に酸素が行き届いていないのだ。
まぁ、徐々に顔色が悪くなっていく私を見かねて使用人とメイドの皆さんが救出してくれたので事なきを得ましたが。
ともあれ私は自分の願望のために、そして使用人・メイドの皆さんの心の安泰のために、魔術の制御を両親に教わることとなった。
これで魔術を上手く扱えるようになったら、未来は少し変わるはず。
でも、何でフェリシアちゃん(6歳)こと私の攻撃力(魔術)は9473もあるだろう?
いや、攻撃力(魔術)だけじゃなくて、HP・MP・防御力もだ。
前世の私だって、ゲーム内のヒロインや攻略対象者のパラメーターを上げるのにかなり時間かかったのに。
それでも最終的には確か攻撃力(魔術)は9500弱くらいまではいったんだったよね。
やっぱり1万台には達したかったんだけどなぁ。
………ん?
ちょっと待って、"確か攻撃力(魔術)は9500弱くらいまではいった"?
もしかして、今のフェリシアちゃん(6歳)の攻撃力(魔術)と前世の私のゲーム内の攻撃力(魔術)って一緒だったりする?
さすがに私も前世のゲーム内での攻撃力(魔術)の細かい数字は覚えてないけど、9500弱と9473って似てるっていうかほぼ一緒だよね?
とすると、私はまさかの創作物でもよくある(?)前世のゲームデータを一部転生先まで持ってきちゃったパターン……?
そして、私は前世から培ってきた想像力をフル活用し、やがてそんな結論にたどり着いた。
「まじかよ……」
でも、そうだとすると何で受け継がれたかは分かんないけど、色々と辻褄が合うんだよね。
というかそうじゃないと、私が反応に困る。
まぁ、全てのパラメーターが受け継がれてないから良しとするか。
6歳なのにこれら全てのパラメーターが高いのも何か嫌だし。
……あれ?
そういえば何で、HP・MP・攻撃力(魔術)・防御力以外は受け継がれなかったんだろう?
私がよく見てた創作物では、こういう場合全てが最強!みたいな感じが王道なのに。
私の場合、攻撃力(物理)が5だから魔術使えなかったらただの幼女なんだよね。
きっと同い年の子と殴り合いのケンカしたら絶対負けるよ?
いや、むしろそれが普通なのか。
危ない危ない、攻撃力(魔術)がバカみたいに高いから、感覚が狂ってしまったようだ。
そもそも貴族だから同い年の子と殴り合いのケンカしないし、したらしたらで怒られるどころの話じゃなくなるな。
うーん、でも実際何で、HP・MP・攻撃力(魔術)・防御力が異様に高いのかは、謎だよねぇ。
何か、気になるなぁ。
それから約5分ほど考えるに考えて……
「考えるのやーめた!」
きっと、これはあれだ。
神の味噌汁、じゃなくて神のみぞ知るってやつだ。
だから私が考えてもきっと答えは永遠に出ない。
つまり、はなから考えるだけ無駄。
それよりも今はメニュー画面について詳しく見ていこう。
そっちの方が絶対に有意義だ。
そして、私はすっかり人気がなくなった一人切りの部屋でメニュー画面を開く。
本当は、魔術制御の修行もしたかったんだけど、お父様とお母様に(あんな幼女にしては)大規模な魔術を使った後なのだから、無理はよくないと言われたため延期になった。
別に無理はしてないし、私のMPはまだまた余裕があるのだが。
実に残念だ。
ちなみに、さっき分かった事だがこのメニュー画面は音声認識タイプのもので『メニュー画面』と口に出さないと開かないらしい。
でも、何故か他人には見えない仕様となっているため、使う時は場所を選ばないといけないのだ。
じゃないと、フェリシアちゃん(6歳)は何もない中に向かって独り言を言うおかしな人認定されてしまう。