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フラグ

4月。

それは入学式の季節。

その例に漏れず、私は王立ロベルト魔術学院の入学式に参加するため、学院がある王都に向かっていた。


王都というのは、日本でいう東京と同じような役割を果たしている都市で、国の存続に欠かせない重要な施設や組織などが集まっている場所である。

具体的にいうと、王族が住まい国の偉い人達が政務などを行うお城や、ファンタジー世界特有の冒険者ギルドや商業ギルド、そして世界的に見ても魔術師養成学校の最高峰といえる王立ロベルト魔術学院などの事だ。

そんな聞いただけでワクワクするような場所に、私とアンリとシリル、それにクロエが学院を卒業するまで移り住む事になった。

多くの貴族の子女がそうであるように、お父様が管理するカレトヴァー領から学院に通うのはちょっと距離があるため、通学が困難になるからだ。

また、王都の屋敷にはそこ専属の使用人さん達がいるので、一部を覗いたカレトヴァー領の屋敷の皆とは暫しの間お別れだ。

まぁ、その一部にはミシェルやサラ、ソフィといった元々私付きのメイド達も含まれているのであまり寂しさは感じないのだが。


さて、そうこうしている内に件の王立ロベルト魔術学院に到着したようだ。

ゲームで見た事のある建物がそのまま私を待ち構えている。


「じゃあ、俺たちは先に屋敷に帰ってしまうが、しっかりな!」


「頑張って下さいね~」


この世界の入学式は日本の入学式と違い、両親は不参加となるため、両親に見送られながら私たちは学院の門をくぐった。

そのまま、係員さんの誘導に従って入学式が行われる大講堂に向かう。


道中、前世の私が通っていた日本の公立学校では見られないものがたくさんあったため、私はポーカーフェイスを保つのに苦労した。

部外者が入れない厳重な警備が敷かれている立派な校門から始まり、金で出来た初代理事長の像やシャンデリアが飾られている燦爛なエントランスに、お城と同じくらい巨大な学舎、魔術的価値のある多種多様な施設、貴族が社交を行うサロンやダンスホールなど。


無駄にお金をかけすぎだと思うが、魔術を扱う事のできる人間、つまりこの学院に入学する多くの生徒は貴族だから当然といえば当然なのだ。

まぁ、この学院はシリルみたいな先祖が貴族だったけど没落して有力な貴族に使用人として支えるようになった子孫の子も大勢通っているけどね。


そんな事を考えながら、チラッとアンリとシリルの方を見ると、辺りを見ては驚き、辺りを見ては驚きを繰り返していた。

何だ、別にこれが普通って訳じゃないのか。

なら、ポーカーフェイスというしなくていい苦労をしたな。


「こちらが大講堂になります。お好きな席にお座り下さい。あっ、フェリシア様はこちらへ。」


学院の初等部・中等部・高等部に通う全生徒が入るくらい広い大講堂に着いたと思ったら、何故か私だけ舞台袖に連れていかれた。

あと、何故かアンリとシリルから頑張れとエールを送られた。

え、何?

また何か面倒事でも待ち受けているの?


「やぁ、フェリシア。今日はお互い頑張ろうね」


「……」


あれ、エドワードとカイルがいる。

それ以外にも私達より年上の生徒がチラホラといる。

今から本当に私は何をさせられるんだ?


私が不思議に思っていると、突然カイルに手を握られた。

その後ろではエドワードがニコニコと微笑んでいる。

え、急に何?

唐突に恋愛フラグが立って、カイルルートにでも入ったの?


「……緊張していると思うが、お前なら大丈夫だ」


はぁ。

確かに何が何だか分からないから緊張しているよ?

でも、カイルに手を急に握られる方が怖くて緊張するんだけど。


「……」


そのまま、カイルとの恐怖の無言領域に入った私はこれは恋愛フラグではなく、嫌がらせだなと結論付けた。

仮に可愛いフェリシアちゃんをカイルが好いているとしても、死にたくないし、ナイフを振り回すメンヘラ令嬢にもなりたくないし、そもそも私の精神年齢はカイルの実年齢よりかなり上だからカイルは恋愛対象として見られないので、悪いがその気持ちは拒否させていただこう。

……これもフラグなのだろうか?


「それでは入学式を始めます」


あっ、始まった。

ようやく、恐怖の無言領域から解放される。

良かった、良かった。


今から何をさせられるのか未だに分からないが、この状況より悪くなる事はないだろう。

……これもフラグになるのか?


「まずは理事長の話です」


あぁ、長いやつね。


と、そんな私の予想は見事に当たった。

だから割合させて貰うが、理事長の話とやらはとにかく長かったし、眠かった。

現場からは以上だ。


「続いては、新入生代表の挨拶です」


そして式は滞りなく進み、やがて終盤に差し掛かろうとしていた。

そんな矢先だった。

我が耳を疑うようなアナウンスが流れたのは。


なるほど。

どうして私が舞台袖に呼ばれてたのか、アンリとシリルがエールを送ってくれたのか、エドワードがお互い頑張ろうと言ったのか、カイルが励ましてくれたのか、全部明らかになったよ。

その新入生代表の挨拶とやらを私がやるためだからだ。


………………いや、まったくこれっぽっちも聞いてないのだが。

え、どうするの?

何も聞かされていないから、何も準備してきてないよ?


(そんな時は、勿論我輩の出番じゃよ!)


嫌な汗をかきまくる私に、一つの光が射したような感覚がしたのは気のせいじゃないはず。

正直に言おう。

ナツメ、君の存在をこれほど心強く思った事はないよ!


(何やら、変な言葉が聞こえたような気もするが……とにかく、我輩が言う台詞をそのまま言うのじゃ!我輩、こういうの得意じゃから大船に乗ったつもりで安心しておれ!)


何故か、得体の知れない不安が私を襲うが私にはもうナツメの泥船かもしれない大船に乗るしか道はない。

これもフラグなのかもしれないが、どうにでもなれ!


(あっ、ちなみにこの事を予め知らされておったお主の両親は、娘が選ばれた事が嬉しすぎたあまり、回りに自慢することに気を取られ、肝心の本人に伝えるのを忘れていたみたいじゃぞ!)


あぁ、うん。

そんな事だろうと思ったよ。

両親のうっかりでは済まされないやらかしに私は思わず遠い目をしてしまう。


「まずはフェリシア・カレトヴァー公爵令嬢からです。」


しかも、トップバッターなのね。

さすがに、これは言って欲しかったな。

そうでなくても言って欲しいけど。


内心ではそう思ったが、何とかポーカーフェイスを保ちつつ、壇上まで上がった私は褒められて良いレベルだろう。


(よーし!準備はいいな!では行くぞ!──混沌たる破滅の牙を……)


うん、ちょっと待って。

それは明らかに新入生代表の答辞じゃない。

中二病全開の呪文らしき文を述べる新入生代表なんて、どこにいるのよ。


(そんな事ないぞ!この学院では新入生代表がより高度な魔術を大勢の前で行うのが伝統なのじゃよ!)


え、えぇ。

初耳なんだけど。


(お主が元いた世界は魔術がないのじゃから、当然じゃろ!)


そ、そうなのか……。

この世界ではそれが常識なのか……。

中二病全開の呪文をこんな大勢の前でやるのは流石に恥ずかしいが、伝統なら仕方ないのかな。

むしろ、ショボい魔術を見せる方が恥ずかしいのかもしれないし、ナツメのバックアップもあるみたいだし、やってみるか!


(その意気じゃ!では、今度こそ行くぞ!──混沌たる破滅の牙を持つ者よ!)


「……混沌たる破滅の牙を持つ者よ」


(──深淵より来たり漆黒の翼を持つ者よ!)


「……深淵より来たり漆黒の翼を持つ者よ」


(──宵闇に封じられし永遠の命を持つ者よ!)


「……宵闇に封じられし永遠の命を持つ者よ」


(──我が声に答え、我が魂に誓いたまえ!)


「……我が声に答え、我が魂に誓いたまえ」


(──ならば、我が運命を預けよう!)


「……ならば、我が運命を預けよう」


(これで終わりじゃ!)


はぁぁぁぁ、長っっっっ、恥っっっっず。

黒歴史確定だな。


思わず私がため息をついた途端、いきなり大きな咆哮が耳を貫いた。

驚いてその方向を見ると、いつの間にか鱗に覆われた大きな体に鋭い爪と牙を持つ生物がいた。

いわゆるドラコンと呼ばれる存在だ。

いや、実際に見た事ないから知らんけど。


「uyd@t@0;を9yq@mkt?(汝が我を呼んだ者か?)」


私が暫く呆気に取られながら、ドラゴン(?)を見つめていると、ドラゴン(?)はそんな問いを投げ掛けてきた。

理解不能な言語なはずなのに、不思議と私にはその意味が理解できる。


それを踏まえ、一つ言わせて貰おう。

貴方を呼んだ覚えはない。

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