頼れる二人
夜。
家に帰って来た私はやるべき事を全て終え、後はもう寝るだけとなった。
そして、布団に入った瞬間思い出した。
今日会った教会の若い神父さんが『Encounter of fate』のストーリーの序盤だけでなく、中盤にも魔王を封印するために誰彼構わず生け贄にしている殺人鬼として出てくる事を。
「忘れてた……」
私は思わず頭を抱え、唸るようにそう呟く。
確か、孤児院にいた頃のヒロインの親友も彼の毒牙にかかって死んでしまったという設定があったはず。
それがヒロイン6歳の頃だったから……。
ちょうど今じゃん!
(ふむ、我輩の図書館で調べてみたがもう既に何人か捕まって監禁されているようじゃな。幸い死人はまだ出とらんが……。)
え、その図書館リアルタイムの情報も知る事が出来るの?
どういう仕組み?
いや、それよりも今はどうにかして神父さん、フレディ・ロバーツ神父の悪事を止める方法を考えないと。
でも、6歳の私が告発しても他の人たちは戯れ言だと思って動いてくれない可能性が高い。
それに証拠が一つもないし、ロバーツ神父は近隣の住民たちの評判が良い上に信頼も厚いから、よりいっそう私の言い分を信じてくれないだろう。
お父様とお母様は別かもしれないが。
また、ゲーム内でもその事件について詳しく掘り下げられる事はなかったから、私は具体的な事は何も知らない。
仮に知っていたとしても、どこで知ったのかを不思議に思われるだろうし。
あー、何か良い方法はないのだろうか。
(なら、こういうのはどうじゃ?)
大精霊の子はそう言うと、私にある提案をしてきた。
なるほど、確かにそれなら周りに不審に思われず、監禁されている人達を助け出す事が出来るし、ロバーツ神父の悪事を暴く事も可能かもしれない。
特に両親には有効だろう。
頭良いな。
(ふふん、もっと褒めてもいいのだぞ?)
うん、素敵な提案をありがとう。
明日、朝になったら早速有効に使わせてもらうね。
それじゃ、おやすみなさい。
私は大精霊の子にそう返してから、ふかふかのベッドで眠るため目を閉じた。
(ちょ、ちょっと待て!)
まだ褒めたりなかったりする?
私はそう判断し、少ない語彙力の中から言葉を絞り出そうと頭を捻る。
凄い!賢い!天才!契約してよかった!
ふぅ、こんなものだろうか?
(ま、まぁな!……って、そうではないのじゃ!名前をつけるって約束したじゃろがい!)
あー、そういえば無理矢理させられたな。
でも、本当に私がつけちゃっていいの?
(勿論じゃ!凄くて賢くて天才で可愛くて優しくて気が利く我輩にピッタリの名前をつけとくれ!)
うわぁ、露骨に調子乗り出した。
しかも、私が褒めてもいない事もさらっと付け加えてる。
間違ってはいないけどさ。
(そうじゃろう!そうじゃろう!)
最後の一言は余計だったな。
それにしても、名前か。
ちょっと前から頭にこびりついて離れない事があるにはあるのだが。
(お、何じゃ!?)
夏目漱石の『我輩は猫である』って小説なんだけど、これに出てくる猫と大精霊の子って、似てるっていうかほぼ一緒なんだよね。
一人称我輩だし、名前がないし、何なら『名前はまだない』ってセリフを言ってたし。
(それだけではないか!まさか我輩の名前『猫』とかになるのか!?)
いや、作者から取って『ナツメ』。
どう?良い感じじゃない?
(し、しかし由来が……いや、良い名前である事に変わりはないのだが)
大精霊の子は何やら迷っているらしいが、私としてはネーミングセンスのある名前だと自負している。
有名な作家の名前でもあるしね。
じゃあ、これで決定という事で。
(そんなぁ……まぁ、名をつけて貰っただけでも良しとするか。これで我輩とお主は一蓮托生となった訳だし)
……それはどういった意味で?
とてつもなく嫌な予感のする言葉を発した彼女に、私は思わず聞き返す。
(何じゃ、知らんかったのか?精霊に名をつける事は死ぬまで一緒にいると誓うも当然なのじゃよ?)
つまり、悪質な詐欺。
こういう場合って、警察?それとも弁護士?
ちょっと混乱していたらしい私は、居もしない組織に相談しようとしていた。
(し、知らんかった方が悪いのじゃ!)
それもそうだけど。
ちなみに、その誓いを破って一方的に契約破棄したらどうなるの?
(死ぬ)
私はその言葉を聞いた瞬間、考える事を放棄し、今度こそ寝ることにした。
おやすみなさい。
▼△▼△▼△▼
次の日の朝。
いつもより早く目を覚ました(起こされた)私は、早速ナツメが提案してきた作戦を実行するためにミシェルたちがくる前にお父様とお母様がいるであろう食堂に行く事にした。
目には目薬という名の涙を浮かべて、全力で走りながら。
ナツメが私に提案した作戦、それは『怖い夢を見たの~』と言って予知夢を見たとそれとなく訴えるという内容だった。
転生ものの創作物にありがちと言えばありがちな方法である。
そして、目的地である食堂にたどり着いた私は勢いよく扉を開き、そのままお父様とお母様に抱きついた。
これは親バカな二人に結構効果があるはず。
「フェ、フェリシア!?」
「どうしたの!?」
幸いにも今、給仕係の人たちは朝食の準備のため出払っているため、食堂には私達三人以外にいない。
つまり、至極冷静に物事を判断出来る人はいないので、教会を調べてもらうように二人を丸め込むのには絶好のシチュエーションだと言えるだろう。
「……怖い夢を見たんです」
二人に、私が本当に怖がっていると印象付けるために意識して蚊の泣くような弱々しい声を出す。
騙してるのは悪いと思うが、こちらには人命がかかっているのだ。
謝るから許して。
二人は娘の事になると目が曇るから、私の嘘に気付いてないと思うけど。
「そうか。だが、フェリシア、もう大丈夫だぞ!」
「私たちがフェリちゃんを守りますからね~」
「それで一体どんな夢を見たんだい?」
お父様はそう言って、私を安心させるように優しく頭を撫でた。
お母様も後ろで私を同じく安心させるように微笑んでいる。
うっ、良心が痛む……。
まじでごめんなさい。
「それが、昨日行った教会の神父さんに、暗い部屋に閉じ込められる夢だったんです。その部屋には私の他にも何人か閉じ込められていて、とても現実味があって怖くて……」
悪いとは思うがそれはそれ、これはこれ。
気を取り直した私は、見てもいない夢の内容を怖がっている体を装いながら話し始める。
「そうか、暗い部屋にか」
「それは怖かったですね~」
「お父様、お母様、教会に閉じ込められている人がいないか見に行っても良いですか?じゃないと、私は不安で夜も寝れそうにないです」
教会に行く事さえ出来れば、後はナツメのナビで監禁されている人たちがいる部屋まで行き、神父を現行犯で捕まえられる。
仮にその部屋に行く事を断られても、お父様とお母様はそれを怪しみ、公爵家の権能を使って強行突破に踏み切るだろう。
こっちは持てる全ての物を使ってでもロバーツ神父、お前の悪事を止めてみせるからな!
私は昨日会ったばかりの神父に向けて、心の中でそう意気込む。
「分かった!なら、こちらで調べておこう!」
「よーし、私張り切っちゃいますよ~」
しかし、どうやらそれは杞憂だったみたいだ。
私が何もしなくてもお父様とお母様が勝手に解決してくれるらしい。
別に全然良いのだけど、何か拍子抜けしちゃうな。




