その6
飛び立っていく黒い一団を見送りながら俺はどのタイミングでこの悪魔が帰ってくれるのか考えていた。
その心を察したかのようにベルゼくんは人のイイ微笑みを顔に貼り付けて僕の目の前を浮遊し始めた。
「きっと後で僕に引っかかってた方が良かったって感じますよ」
そう言うと悪魔はふわふわと俺に近づいてきて今度は俺の唇にキスをした。
「それはまず、絶対的に、無い、だな」
こういうところは大袈裟なくらいに力強く言い聞かせないとダメだって映画エクソシストで言ってた。
「でも今の世の中、悪魔に魂を売った方が楽じゃないですか?それでその恩恵を得て、皆やってますよ?」
「いつの世の中もそうなんじゃないの?長生きしてんなら見てきたろ?それとも悪魔もボケたりするのか?」
「いやあ、特に、今の世の中は最悪ですからねえ」
「別に?としか。今だから最悪なだけでしょ、明日はもっと最悪だよ、大物悪魔なんだから未来のチェックぐらいマメにしようぜ」
「そっか、さよなら」
「はい、さようなら」
悪魔が去った後、ユウジの抜け殻はベルゼが予告した通り、彼の人生と言う名のベルトコンベアの上に乗せられて、俺の前から消えていった。
披露宴はつつがなく終了し、俺は幸せそうな新郎新婦に見送くられた。
俺は自宅に帰ってきてソファーに体を沈めると大きくため息をついた。
なんだか憑き物が落ちた感じだった。すると俺はなんだかとても楽しいような気分になってきた。
ユウジとの再会が楽しかったのか、ベルゼビュートとの再会が楽しかったのか、多分その両方なのだと思うけど。
1人で彼らに祝杯を挙げて、だらだらと飲みながら1時間ほど経った頃、俺はふと思い出したかのように、小学校時代に1番好きだった初恋の女の子に電話をしていた。
「もしもし、ああ俺だよ俺、オレオレ、ははは、アカルです、お久しぶり、今ちょっといいかな」
俺はその女性と付き合い始めた。
付き合いはそこそこ長くなり、そして婚約した。
結婚式を控えたある日。
タカコ「私と一緒になると浮気は絶対に不可能よ?」
彼女は時々不思議なことを楽しそうに俺に問いかけてきたりする。
俺「へえ、なんでかな?」
「だって―――」
彼女は立ち上がり窓辺に向かっていた歩を止め、イタズラっぽい微笑みを浮かべながらこちらに振り返った。窓から見える夏の空はみるみると暗くなってきて、突発的な雷雨をもって彼女の告白を演出した。
「―――だって私、絶対に浮気されない、ってゆう薬飲んでるの」
そう言うと彼女は、早足で俺の前まで来て、俺の顔にその整った顔を近づけて耳元でこう囁いた。
「昔助けたカワイイ悪魔くんのくれた浮気されない薬をね、飲んでるんだよ」
別に絶望したわけでは無いのだが、自分の存在がすごく小さくなったような気がした。
自分自身が小さくなったと言うより、どこか遠くから俺のことを見ている、その視覚的情報が瞬間俺の頭の中に入ってきた感覚だ。
どこか遠くでカラスが鳴くのを聞いた気がしたし、またどこか遠くでユウジの笑い声を聞いたような気がした。
どうやら俺はあの悪魔と大変深い縁があるようだ。
その後、
俺たちの結婚式に現れたベルゼビュートを俺はなんとか説得して人間に帰化させた。ここもまあ俺なりにかなり頑張った。
そんで今は俺とタカコ(魂有り)とベルゼくんの3人で仲良く暮らしていたりする。
同性に人気のある人生と異性に人気のある人生、どちらかひとつだけを選ぶとしたらどちらを選びますか?
おしまい
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