その3
そういった現実を見て皆、ユウジの悪魔に関する話を、誰ひとりとして疑う事無く受け入れていた。
そういった実績を叩きつけられて皆、それをユウジの顔が小さく足が長いルックスだけでなく、悪魔の薬の力でもあるからと考えて無理矢理納得していた。
ただ1人の例外を除いて、俺だけはそれを疑っていたのだ。
なぜなら、
あの日、目の前に置かれた2本の薬の瓶について、ユウジが悪魔に詰め寄って質問をしているスキに、俺はユウジが飲もうとしていた異性にモテる薬を同性にモテる薬とすり替えていたからである。
あの日のユウジは、異性にモテる薬と思い込んでいた、実際は同性にモテる薬を、悪魔の楽しげな一気コールで飲み干していたのだった。
「これでますます女の子にモテるわけだ」
空になった瓶をこちらに翳しながらユウジが勝ち誇ったように俺に向けた嫌な感じの笑顔が思い出される。
つまりもし薬が本当に効いているのならユウジは同性ウケ「も」良いはずである。
だから俺は薬の効果を、常に常に、深く深く、疑いに疑っていたのだ。
こんな放課後もあった。
仲間G「さあアカル!気を取り直してナンパナンパ!」
仲間D「そうそうアカルはイイヤツなんだからぜってーイイ彼女出来るって!」
俺「おう!そうだな!よし!じゃあさ、あのテーブル、こっち見て笑ってる女の子たちいるじゃん?俺ちょっと声かけてくるわ!」
仲間J「アカルはケンカもナンパも切り込み隊長だね!」
仲間N「頼りにしてるぜ!俺たちのアカルちゃん!」
いつものことだが俺たちがナンパをして女の子たちと盛り上がり始めると、その頃合いを見計らったかのようにトンビが油揚げをさらいに登場する。
ユウジ「いやーアカルが天使って言ってたアイツさあ、つまんねえから別れて来ちゃった、アレでよければ紹介すんぜ、アカル?」
ナンパした可愛い女の子たち改めビッチども「えー?今、ユウジさんって彼女いないんですかあ?」
仲間G「で、ナンパした女の子たちもユウジのとこに行くわけね…」
仲間D「アカル、アカルはユウジのことブットバしていいと思うんだが」
俺「いや、いいよ、ミジメになるだけだし…」
仲間D「お、おう…」J「しっかし、なあ」N「チッ」
女の子たち改めビッチどもがユウジに媚びたような視線を向けるその一方で、仲間たちはユウジにいつしか憎しみの視線を向けるようになっていた。
いろいろと理由はあっただろうが主な理由はやはり嫉妬だろう、当時のユウジの同性ウケは最悪だった。高等部にエスカレーターで上がる頃、ユウジは仲間内で嫌われてさえいた。
高校には不良っぽいサブカルチャーを好む集団があり、俺を含めた仲間たちは皆その集団に属していたわけだが、嫌われているにも関わらずユウジは仕切りたがりで仲間内のリーダーになりたがっていた。
春、たまり場になっているドーナツ屋にて。高等部から私服通学なのをいいことにタバコをフカす俺たち。
仲間D「そんじゃあ、ウチらの代の頭はアカルでいいな?」
仲間J「まあアカルしかいねーだろ」
仲間N「そうなるだろーね」
ユウジ「待てよ!アカル乗り気じゃないみたいじゃん、やっぱ頭は俺でいった方がいいんじゃねーか?」
空気を読めないユウジくんの提案は沈黙を持って否定された。
「あれ?あれ?俺じゃダメなの?なあアカル、俺頭やりたいんだけど、やらせてくんない?」
俺はユウジの方を見ながら当時吸っていたメンソールのタバコの煙をため息で吐き出して首を傾げて見せることで応えた。
俺は時々あの薬が本当に効いていたらよかったね、と思ったりした。であれば同性ウケが良いわけで、仲間うちの頭になれただろうにな、と。
ユウジの女性関係は相変わらず華やかだったが、学校生活自体はあまりパッとしなかった。
仲間D「アカル見ろよ、ユウジのやつまた新しい女連れてやがる」
俺「おお我が天使よ…」
仲間D「って、またかよ!」
高等部卒業後は今日までユウジと会ったことがない。
この会場でタキシード姿のユウジを見たときは相変わらずの色男で思わず笑ってしまったほどだ。
今日俺はユウジに薬をすり替えていたことを打ち明けようと考えている。





