その1
結婚披露宴のテーブルでは乾杯の合図と共に同窓会が始まった。
「小学校の頃からユウジは女の子にモテまくってたよな」
「大学でもずいぶんモテたそうじゃないか」
「そんなユウジが俺たちの中で1番早く結婚するとはな」
「ところでアカル、どうだ?あそこのテーブルの新婦の友達たちを誘ってさ、二次会の後で一緒に飲みに行くとか?」
「いや俺は遠慮しとくよ、なんだか彼女たちハンターの目をしているからな」
「あはは!アカルちゃん成長したなあ」
今日は小学校の頃からの悪友であるユウジの結婚式および結婚披露宴のめでたい日である。
ユウジについては長らく胸に突き刺さったある思い出がある。
ヤツと2人で小学校の卒業式の日に、小瓶に閉じ込められていた小さな悪魔を助けたことである。
「アカル!見てみろよ!こいつ本物の悪魔だぜ!」
「ユウジ、こーゆー面倒なことには関わらない方がいいんだぜ普通」
「悪魔って、こう、もっとおっかない感じだと思ってたけどな!」
「それは見た目じゃ判かんないよ」
その悪魔、ベルゼビュートを名乗る手のひらサイズの小人、は黒いハイネックの上着と黒い半ズボン、そして爪先が上に曲がっている悪魔っぽいブーツを履き、先が二股に分かれている悪魔っぽい長帽子をかぶっていた。
「まぁまぁそう言わないで仲良くしましょうよ?とっても感謝してるんですよ!まずは助けて頂きありがとうございました!」
本当に悪魔なのか?本当にそんなに名の通った大物悪魔なのか?そんな大物が小瓶に閉じ込められた挙句に小学生に助けられてんなよ?などとツッコミめいた疑問が浮かんでは消えていた。
だがそれを口に出すことが無かったのは、そんな疑問が頭の中に浮かんだ時にベルゼくんが俺の方を見て意味深に微笑んだからである。
兎にも角にもこの見た目は俺達と同じローティーンの手のひらサイズの小人が2人の目の前で動き回って話し掛けて来ている事実は受け入れなくてはならないだろう。
「これ!お礼!」
そう言うとそのショタッコ悪魔は、栄養ドリンクサイズの2つの瓶を俺たちの前に出現させた。
1つは同性を惹きつける薬。
1つは異性を惹きつける薬。
俺は同性を惹きつける薬を、
ユウジは異性を惹きつける薬を、それぞれ選んだ。
それはあからさまな人生の分かれ道であった。
その薬の効力は結婚で消えると言う。
俺は今日、ひょっとしたらあの悪魔にまた会えるのではないかと思い、乗り気でない結婚式ではあったが、出席しますと返事を出したのだった。





