ここはどこ?
ある朝、いつもどおり目が覚めた彼は、奇妙な違和感を感じた。
「どこだここ?」
昨夜は確かに自宅の自室で就寝したはずだ。
外し忘れていた自動巻きの腕時計を見ると、時間は朝7時半。
「遅刻じゃん、困ったわぁ」
一言呟いた。
しかし慌てた気配はない。
無駄だと分かっているからだ。
とりあえず座っていても仕方がないので彼は立ち上がる。
「なにここ?森ン中か?」
彼は深い深い森林の中に一人立ちすくんでいた。
「どっか違う所に来ちゃったのか?神隠し?」
絶対に何かが居ると断言できるような不気味な雰囲気の森だ。
こんな所を一人で歩けとは、溜まったものではないが・・・
「まあ、いっか。仕事行かなくて良いし、なんか獣に食われんならそれはそれで」
彼は至極アッケラカランとしながら裸足の足で歩みを進める。
「足痛えなあ、でも何も無いしなあ・・・どうすっかな?」
一人ブツクサと愚痴をこぼす彼の目に何かが写った。
「・・・・・・人、か?」
更に近づいてみると、それははっきりと人だという事が分かった。
もっとも・・・
「死んでるな・・・」
背中には、なにか大型の獣に襲われたような深い爪らしき傷跡が刻み込まれていた。
「熊にでも襲われたのか?」
無表情に感想を漏らした彼は、その犠牲者の足元を見つめる。
「靴・・・だな。でも何だ、これ?」
死体の足元にはたしかに靴らしきものを履いていた。
だがそれは現代の感覚から見ればひどく歪でみっともないものだった。
その靴は、動物の皮を適当な大きさに切り分け、そのまま足を包み込み紐で縛ったようだった。
「これでも無いよりゃいいか・・・」
彼はその死体から靴を脱がし、自らの足にあてがう。
足の大きさに大差がないのか、存外すっぽりと履くことが出来た。
「まあ、とりあえずこんなもんか」
そう呟くと彼は、哀れな犠牲者の荷物に目を移す。
その犠牲者は男だった。
年の頃は20代から30代
頭髪の色は金色
目の色は青
耳が長く尖っている
「え?」
彼は短く呟いた。
「なんだ、この耳は?こんな人種居たか?」
彼の目の前の男は明らかに何かが違う
耳が尖る
そしてこの外見は・・・
「ゲームの登場人物みてえだな」
一言感想を漏らすと、彼は荷物を物色しだした。
男の名は湊ユキミ
22歳
社会人四年目の、務めるブラック企業での中堅所
一人わけのわからない世界に飛ばされる羽目になった哀れな男。
彼は、これからどうなるのだろうか・・・