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ウトクはノムが用意した、人間の死体を月魔の前に放り投げた。
「さあ、食え、食って、私を驚かせろ!」
ウトクがそう言うと月魔は人間を食べ始めた、みるみるうちに死体は無くなった。
すると月魔は変化を始め、気がつくと食べた人間の外見をした者が立ち尽くしていた。
「あなたは誰だ!俺は誰だ!」
月魔が変化した人間はウトクに向かってそう声を発した。
ウトクは感動に打ち振る得ていた、未知なる者の遭遇、そして自身の研究の成果に。
「私はウトクだ!、お前を作った者だ」
「作った、よくわからない、、、うあー、あー、あー」
人間に変化した者は突然、うめき声を上げたかと思うと、いきなりその場で爆発してしまった。
「何故だ!、何故、爆発した、ただの肉片になってしまったではないか、何故だ」
ウトクは目の前で起こった現実を受け入れられなかった!、何故だ、動物や魔物達の時は変化した後も、問題なかった、それに今も生きている。
何故、人間ではダメなのだ!、何故だ。
その後、ウトクは何回も月魔に人間を食べさせたが結果は同じだった。
ウトクは様々な方法を試したがことごとく失敗した、そしてしばらくすると月魔から変化した動物や魔物達もすべて爆発して死んでしまったのだ。
この結果にウトクは茫然自失になった。
そんな状況とはいざしらずノムから連絡がきた。
「なんだ、ノムか、ああ、例のあれか、ああ、問題ない、だが、少々、研究に行き詰まった!、ああ、詳細は会った時に話す」
ノムからの通信を終えるとウトクは苛立ちを抑えられない様子で声を発した。
「何故だ!、何故なんだ!、今は、ノムの事なんか、どうでもいいわ、それよりもこれからどうするかだ」
ウトクはそう言うと、また一から研究しなければいけない苦労を思い出してうなだれるのであった。
ルーナ 南西部 レルド山脈の森の中
「では、手分けして探しましょう、何かあれば通信で」
ヒュウガがそう言うと女性二人はヒュウガとは逆の方向に歩いて行った。
ヒュウガも自分が行く道を歩き出した、何でも、この森のこの辺の場所で月魔を見かけたらしい?、という情報の元、辺りを手分けして探索する事となった。
しかし、きっかけはエリィの話しでしたが、だいぶあの二人共、距離が無くなったような気がしますね!、これは、少しはエリィに感謝しなければいけませんね!。
ヒュウガはエリィの顔を思い浮かべながらそんな事を思った。
少し探索を続けていると、ヒュウガは違和感を感じていた、普通、こういう森で月魔達が現れ戦闘をしているのであれば、木や、乱雑に踏み荒らされた足跡などがあると思うが、それが全くと言っていい程、存在しない、足跡すらないし、何より、荒らされた感じもしない。
その後もヒュウガは周辺を隈無く、探索したが、やはり結果は同じだった。
どうやら、戦闘をした形跡がない所を見ると、嘘か、、、、という事はやはり私達を誘い出す口実
と、なると二人が危ないな、連絡を取ってみるか。
ヒュウガがそう思い、ポータルを出すと、タイミングを計ったようにポータルがなった。
「はい、ヒュウガです、ああ、マドカさんですか、ええ、ええ、本当ですか?、ええ、わかりました、すぐ行きます」
ヒュウガはポータルの通信を終えると急いで女性二人の元に向かったのであった。
ルーナ生態研究所 所長室
「で、研究に行き詰まったとは、どういう事だ?」
ノムは通信でウトクが研究に行き詰まったと聞いて嫌な予感がした為、すぐウトクの所に駆けつけた。
「まあ、行き詰まったというか、少々、実験結果に困惑している」
ウトクはそう言うと詳細をノムに話し始めた。
それを聞いたノムは軽い眩暈を感じ、思わず倒れそうになった。
「ウトクよ!、もうこれ以上の協力は出来んぞ、月魔共が従順になる、と言うからある程度は容認していたが、もう無理だ、これ以上は神をも恐れる所業だ、即刻、実験を中止にしろ」
ノムにそう言われたウトクは感情をむき出して反論した。
「ふざけるな!、今、ここで止めれば、今までの成果がすべて無駄になる、それだけは絶対に止めんぞ」
「だがな、ウトク、これ以上は危険過ぎる、他に被害が出る前に、止めた方が身のためだぞ、お前自身に取ってもな!」
「ノムよ!、私はこの研究にすべてを賭けているのだ、お前のように安全な所から指示を出しているのとはワケが違うのだよ!、とにかくだ、実験は止めない!」
「オイッ!、今のは聞き捨てならんな、誰が高みの見物をしてるって、ふざけるなよ!、誰がお前の研究に協力してると思ってるんだ、動物、魔物、人間すべて用意したのは、この私だ、よく、そんな事を言えたもんだな」
ノムも感情が逆撫でされたのか口調が激しくなった。
「ふん、お前も協力する気がなかったら、断れば良かっただろうが!、だが、そうしなかったのは、お前もこの研究の成果次第では、金になると踏んでの事だろうに、今更、善人ぶるな!」
「貴様、何を言って、、、、もういい、これ以上、何を言っても貴様には無駄だ、、、だがもう協力はしない、貴様とは今日で終わりだ!」
ノムはそう言うと素早い動きでウトクの懐に潜り込み、心臓に目掛けてナイフを突き刺した。
「ノム、、、ノム、、お前は、、」
ウトクは絞り出すように声を発したが数秒後には息絶えた。
「所詮はただの、研究バカか!、融通がきかぬ偏屈者め」
ノムはそう言うとポータルを取り出して通信を始めた。
「私だ、ルーナ生態研究所 所長室に灰が一体、処理しておけ、ああ、時間は私が稼いでおく、ああ、いつも通りだ」
ノムは通信を終えるとウトクを見る事もなく部屋を出て行った。