3
真偽官とは、言うなれば内部調査官である。
む
真偽官の仕事は報告があった内容を確認してそこに人間の意志で不正があるかどうかを見極める
その為、恨みや妬みを買いやすい為、真偽官は皆、仮面をしている、そして名前も偽名を使っている。
この背景には過去に色々とあった為、このような配慮になった。
真偽官になって長いマートは、それなりの権力と決定権を持っていた。
「ふん、ヨーダの奴め、今回はだいぶ金を積んできたな!、これでは多少、融通せんといかんな」
マートは誰もいない部屋の中で不敵な笑みを浮かべた。
マートも最初からこうではなかった、それこそ真偽官になりたての頃は真面目一筋であった、しかし真面目であればあるほど真偽官という仕事は割に合わなかった。
正当に不正を暴く、それだけで命を狙われる、損な役回り、次第にそう思うようになっていった。
そして決定的な事が起こった。
尊敬していた真偽官の先輩が、何者かによって暗殺されたのだ、その事によりマートは不正を全部、暴いていては自分自身の命がいくつあっても足りないと、悟ってしまった。
それ以降は賄賂や相手の権力を見極め、慎重に仕事をこなしてきた。
マートは今回の件をどうするか、非常に悩んでいた、相手はあの総長だ、いくらマートに権力や力があると言っても所詮は、一、真偽官でしかない。
それに真偽官が提出した内容がすべて通るという保証も何もない。
真偽官が提出した内容を更に3人の者が目を通す、そして3人の内、2人が承認すれば、晴れて決定となる。
マートといえど、その3人には手も足も出せないのだ、何故なら、ブレイカー協会においてすべての権限を持っている者達であり、マートごときがどうこうできる相手ではなかった。
「あと、何かもう一つ、あれば、なんとかなりそうなんだがな」
マートは何か妙案はないかと、考えをめぐらすが、現状では何も無いと判断してヨーダに連絡を取る準備を始めた。
「あの男に頼るのは、腑に落ちないが、この際、仕方あるまい、少しでも情報があれば、そこから叩けるかもしれないしな」
部屋の中に入り込む日差しに反応したのか、ソファーからヒュウガは起き上がった。
起き上がり、数秒間、何も無い部屋を見つめると、タバコに火を付けた、部屋に漂う煙りを見ながらぼんやりと思考を巡らしていた。
ヒュウガは今、停止命令が出ていた、停止命令とはその言葉の通り、何の活動も出来ないのだ。
何故、停止命令が出たのか?、それはヒュウガが引き連れて行った部隊の死亡者が多すぎた為であった。
ヒュウガは自身の強さが尋常では無いと、気づいた時、すぐさま隠す事にした。
だって、そうだろ、強いってわかってしまえば、色々と使われ、最後は畏怖の対象として見られてしまう、そんな未来を想像してしまった。
だから私は、あまり目立たず過ごしてきたつもりだったが、何の因果かブレイカー協会、第一位部隊、隊長、そして総長と呼ばれ、いつの間にか軍神などと言う名称で呼ばれてしまっていた。
「起きていたか!、邪魔するぞ」
声がする方を見ると、黒い兜、黒いマント、全身、黒ずくめの男が現れた。
「まったく、この家に来る人はなんでみんな勝手に入って来るんですかね?、プライベート空間何ですが」
「ふん、そうわ言うが、お前はほとんど此処にはいないじゃないか!、だから入って確認するしかあるまい、それに鍵もかけていないじゃないか」
「まあ、盗られるもんは何もないんで、する必要もないんですよ!、それで、何のご用ですか?、副会長」
ヒュウガに副会長と呼ばれた男はゴル、顔全体を隠すように兜をかぶっているため表情はわからない、身体も全身を覆うように黒いマントを羽織っていた。
「久し振りの再開なのに、素っ気なさすぎだろう、これでもお前の事を心配していたのだぞ!」
「心配してたんなら、今のこの状況をなんとかして下さいよ!、帰ってきて見れば、いきなり、討伐に行けだ、その討伐が終わったら今度は真偽にかけるだ、酷いでしょう!」
ヒュウガは揶揄を含めた表情でゴルに向かって言った。
「まあ、それに関しては申し訳ない!、こちらの落ち度だ、あまりにも、ヨーダの根回しが早かったもんでな、それはなんとかするつもりだ、この話はまた後日な」
ゴルはこれ以上、追求されるのを止める為、強制的に話を折った。
「まあ、いいでしょう、調査の報告をしますよ!、ところで大丈夫ですか?、此処で話しても」
ヒュウガがそう言うとゴルはマントの中から、白い石を取り出して、テーブルの上に置いた。
「遮断の魔法石ですか、準備は抜かりないという事ですか」
遮断の魔法石とは半径10メートル以内であれば一切の音が漏れないし、もし10メートル以内に誰かが入れば知らせてくれる優れものだ、幸いにしてヒュウガの家の周りには何も無く、この魔法石を使うにはうってつけの場所であった。
「そういう訳だ、では調査の報告を頼む」
ヒュウガの顔つきが真剣になり、話し始めるのであった。