石化解除薬
世界樹を訪れてアシュヴィトの現状を知ることができたのは、やはり良い経験だったと思う。
世界樹やアシュヴィトの大きさに、私には無理だと正直尻込みしてしまったが、越えるべき山の全容を知ることができたのだ。
山の高さに尻込みこそしたが、足元しか見えていなかったこれまでと比べれば、少しだけ救出に向かって前進できたとも考えられるだろう。
越えるべき山は高いが、元々アシュヴィトはゆとりプランで良いと言ってくれていた。
とにかく焦らず、私の速度でゆっくりと、でも確実に弟の方のアシュヴィトを救う手段を探していけば良い。
材料の配合比を変えてみたり、『傷薬』を材料として『秘薬』ができたように『植物栄養剤』を材料により効果の高い植物栄養剤ができたりしないかと調合を繰り返す。
とにかく何でも試してみようということで、薬の効果を高める魔法についてを調べ、魔力を扱う練習もした。
以前は作りすぎた植物栄養剤は街へ売りに行っていたのだが、世界樹の実際の大きさを見てからは一つも売っていない。
街で売るような余裕は、世界樹の巨大さの前には完全に消えてしまっていた。
今は一つでも多くの植物栄養剤を、世界樹のために使いたい。
……まあ、それでギルドは少し大変みたいだけどね?
私の作った植物栄養剤を街で扱っていたのは、ルズベリーの街の冒険者ギルドだけだ。
評判がどこからどう広がったのかは判らなかったが、効果が判りやすく現れる植物栄養剤ということで、近隣の農村に広がったらしい。
農村で使われるということは、収穫にも結びつく。
その収穫に少なくはない影響を与える植物栄養剤を私が売らなくなったために、冒険者ギルドでは少し困っているようだ。
需要はあるのに、供給がまったくなくなってしまった、と。
……私が売る前はなかった物なんだから、無くなっても困らないと思うんだけどなぁ? 特に飢饉だって話は聞かないし。
品薄状態をなんとかしてくれ。
もしくは、また植物栄養剤を売ってほしい、と冒険者ギルドに泣き付かれる状態に陥り、一応の改善案を考える。
要は、私が作った『植物栄養剤』の効果がありすぎるからこそ起きた問題なのだ。
ならば、効果を抑えれば良い。
一番単純な方法としては、水で薄めることだろうか。
これで劇的に効果が落ち、その代わり量は混ぜた水のぶんだけ増える。
当たり前すぎることだったが、これだけ問題は解決だ。
売りである効果は落ちるが、値段は手ごろに抑えられ、数も確保できる。
効果が落ちたと言っても、私の植物栄養剤は普通に肥料を撒くより効果があることに変わりはない。
肥料代わりに植物栄養剤を求めていた人はこれで落ち着いたのだが、元の植物栄養剤を求めてくる人間は納得してくれなかったようだ。
高くてもいいので、元と同じ植物栄養剤を売れと言って引かないらしい。
……さすがに、同じ畑で何度も収穫を得ようだなんて無茶な使い方は怖いからね。そこは協力できないよ。
効果が判りやすく現れ、収穫も増える植物栄養剤を使い、同じ畑で短い期間に何度も収穫を得ようと考えた農村があったようだ。
魔法薬と呼ばれている私の薬であれば出来ないことはないかもしれないが、畑の土に無理を強いることに違いはないだろう。
あとでどんな悪影響が出てくるかも判らなかったので、これについては冒険者ギルドの方でしっかりと釘を刺して断ってもらった。
これで一応は植物栄養剤不足も解決だ。
「すこーし、地面に色が付いてきた気がする?」
水で薄めて薬効を落とす作戦は、実は世界樹の根元でも行っている。
世界樹のある地ほぼすべてが荒れ果てているため、世界樹にだけ栄養を与えてもどうしようもないと思ったからだ。
世界樹へは『植物栄養剤』をそのまま与え、周辺の大地へは水で薄めたものを散布する。
その際に、練習中の薬効を高める魔法を使うことも忘れない。
『慈雨の奇跡』と呼ばれるこの魔法は、ネクベデーヴァとはまた違う異世界の魔法だ。
回復魔法に分類されるようで、不思議な力で切れた腕や足を生やすような効果はなく、本来は対象者の持つ自然治癒力に働きかけて傷の治りを早める魔法らしい。
この『自然治癒力に働きかける』部分が『薬効に働きかける』になってくれないだろうか、と調べて試したところ、できたので乱用している。
ついでに言えば『慈雨』と名が付くように、奇跡は雨のように降り注ぐ。
薄めた植物栄養剤を広範囲に散布するのには、これ以上ないと言えるほどに便利な魔法だった。
せっせと植物栄養剤を調合し、夢を渡って世界樹を訪れる。
持ち込んだ植物栄養剤をすべて散布し終えると、また家に戻って調合を繰り返す。
調合に飽きたら違う薬を作り、その薬を持って街へと売りに行く。
薬を売ったお金で材料を買い込み、また植物栄養剤を作る。
そんな生活を続けたおかげか、どこか白っぽく感じられていた大地がほんの少しではあったが色を取り戻して来たような気がした。
時々会うアシュヴィトには「根をつめすぎである」「もう少しゆっくりでいい」と頭を抱えられてしまったが、結果良ければ全て良し、だ。
「もう少し地面が復活したら、石化をなんとかする方法を調べ始めようかな?」
未来の予定を立てて少し前向きになってきたところで、今回持ち込んだ植物栄養剤が尽きた。
ならば、と【異世界図書館】で学んだ土魔法を植物栄養剤を撒いたばかりの地面へと撃ち込む。
知識としては知っているがあまりピンと来ない事実として、土の中には空気がある。
その空気のおかげで地面は柔らかく、堅すぎる地面では植物は根を張れないのだとか。
そして、世界樹のあるこの場の地面は、堅く乾ききり、ひび割れているほどだった。
世界樹の健康を考えるのなら、地面は多少ほぐした方が良いだろう。
……たぶんね?
表面に植物栄養剤を薄めた水を撒いたことで、僅かに柔らかくなった地面を土魔法で掘り返す。
こうすることで栄養が表層だけではなく地面の中まで取り入れられることになるので、少しは助けになっているはずだ。
土魔法で大地を解し、栄養はないが水魔法で乾いた大地に潤いを与える。
そうしているうちに今度は魔力が尽きて、私の仕事は終了だ。
タイミングがあえばレベルが上がって魔力が回復し、もう一度魔力が尽きるまで働けるのだが、近頃はレベルが高くなったせいでなかなか次のレベルになれていない。
その代わりと言うのか、魔法系のレベルは地味に上がっていた。
実のところ、魔法使いとしてはリナよりもレベルが高くなってしまっている。
コットンの見立てによると、土と水魔法についてはスペシャリストと呼ばれる域に達してしまっているようだ。
「まあ、これだけ大技を使っていれば……レベルも上がるよね」
「その代わり、このみは小技が苦手だけどね」
「うん。加減が大味過ぎて外では使えないって自覚はあるよ」
大地を解すために使っているのだが、世界樹周辺には人間も動物も私とコットンしかいなかった。
そのため魔法が失敗しようが、暴走しようが、被害は出ない。
これに味を占め、世界樹の麓で魔法の練習をしているというのが正直なところだ。
はじめは直径一メートルほどの地面を波打たせたり、下から十五センチほどの岩が突き出てくる程度の、足止めぐらいには使えるか、という威力の魔法だった。
それが今は波打たせるだけなら学校の校舎一棟ぐらいの面積を、下から岩を突き出させるのなら十メートルほどの範囲で二メートルはある高さの岩を出せるまでになった。
平原のような広い場所でなら使えるが、街道や街といった狭い場所ではいまいち使い勝手が悪い魔法だろう。
コットンが指摘したように、誰もいない広い場所で練習を繰り返したせいか、私の魔法は大技ばかりで小回りが利かない。
目潰しや目くらましを目的とした『砂塵』という魔法を使えば『砂嵐』になり、コップ一杯の水がほしいと水を呼べば雨が降る。
……雨を降らせられるなら水遣りに丁度良い、って開き直ったのが脱線の始まりだった気がする。
今となっては後の祭りだが、少しずつ練習していこうと思っていた魔法を制御する方向へではなく、使える方面に使える魔法を使おうとしてしまった結果が今の私だ。
大技ばかり熟練度があがり、小技は暴発する魔法使いとしては落第点の落ち零れに育ってしまっていた。
……いいんだもん。私、魔法薬師だから、魔法使いじゃないもん。
小技の魔法が必要になったら、ルズベリーの街でリナを雇えばいいのだ。
無理に私が小技を覚える必要はない。
……なんていいわけをしているから、魔力制御が身に付かないって自覚はあるけどね。
魔力を使いきり、今回私にできる仕事はなくなったか、と辺りを見渡す。
地面から突き出た岩も綺麗に整地し、この一帯だけはひび割れた地面が柔らかくなった。
次に来た時にはまた乾いているはずだが、ひび割れるというほど酷い状態ではないはずである。
そのぐらいなら、また雨を降らせれば済む話だ。
「……さっぱり進んでいる気がしないね」
地面は色を取り戻し始めたし、ひび割れた大地も少しずつ解してはいる。
しかし、手入れの必要な範囲が広すぎて、頻繁に訪れて手を入れていても、復興が進んでいるようには思えないのが残念すぎた。
これで心折れずにいられる人間は少ないだろう。
「ゆとりプラン、ゆとりプランだよ、このみ」
「わかってはいるんだけど、ね?」
焦らなくてもよいとは言われているが、この惨状を見ればそうも言ってはいられない。
どうにかして効率が上がらないものかと、一度ゆっくり考える必要があるだろう。
……とはいえ、今日はもう終了!
世界樹へ行った翌日は、何もせずにゆっくりと過ごす。
正確には、何も出来ないと言うかもしれない。
魔力が空近い状態になっているのだ。
調合も魔法の練習もできない。
普段は眠れば一晩で回復する魔力だったが、世界樹へ行くとそこで魔力を使っているため、目覚めた時に魔力は回復するどころか減っている。
一日何もできないというのは気になったが、魔力を使わない作業はできるので問題ない。
「……これ、どうかな? えっと『マイアチャナの手桶』?」
魔力が使えないのなら、と開いた【異世界図書館】で求めるものを見つけた気がする。
『マイアチャナの手桶』というのは、砂漠地方に残る古い神話に出てくる不思議な道具だ。
井戸の女神マイアチャナがオアシスの末皇子の願いに応え、水の枯れゆく国のために滾々と水が湧き出る手桶を授ける。
女神の手桶を得た末皇子は急いで王宮へと戻り、その手桶からあふれ出る水のおかげで枯れかけたオアシスは息を吹き返し、国も栄えてめでたし、めでたしで終わる神話だ。
と、ここまではただのお話である。
重要になってくるのは、【異世界図書館】には神話だけではなく、様々な異世界の知識が詰まっているということだ。
「方向性が決まれば、あとは検索をするだけ……で、と?」
魔力を使った魔法薬を『調合』するように、魔力を使ってなにか水が滾々と出てくるような道具は作れないだろうか。
そう考えて調べてみたところ、井戸の女神マイアチャナの神話がある世界では、神話に擬えた道具が作られたようだ。
道具の名前は『マイアチャナの水瓶』と言うようで、手桶からすでに水を瓶へと移したあとだ。
これならば、水の量も期待できるかもしれない。
マイアチャナはネクベデーヴァの神ではないので、呼ぶとすれば『井戸の女神の水瓶』だろうか。
ありがたいことに【異世界図書館】には『マイアチャナの水瓶』の作り方が収蔵されており、材料さえあれば今の私でも『調合』することができそうだ。
「よし。水は『井戸の女神の水瓶』から常時供給していく方向を目指そう。水を撒かなくなるぶんの魔力で土をひっくり返して……」
問題は、やはり植物栄養剤の数だ。
材料を集めるにしても、調合するにしても、個人では限界がある。
「なにはともあれ、材料か……」
材料がないことには始まらない。
だからといって、根こそぎルズベリーの街周辺から素材となるネルオー草を採取してしまうわけにもいかない。
そんなことをしてしまえば、ネルオー草が途絶え、植物栄養剤は二度と作れなくなってしまう。
「大量生産が難しいなら、品質を上げていくとか? でも、品質を上げるにしても材料は必要になってくるしなぁ?」
どうしよう、と首を傾げると、肩の上のコットンが頬へと擦り寄ってきた。
ふわふわとして毛並みが最高の癒し効果を発揮してくれる。
「ギルドに採取依頼を出せばいいよ」
「でも、それだと街周辺からネルオー草が根絶やしにならない?」
「このみ、忘れてる? アシュ様の付けてくれた転移の仕掛けは、どこへでも行けるよ」
「……あ、そうか」
初めて外出する際にルズベリーの街を選び、以降ルズベリーの街へばかり行っていたが、転移の先は任意に選べるのだ。
他の街へ行き、各地の冒険者ギルドへとネルオー草の採取依頼を出せば、各地から少しずつネルオー草を集めることができるかもしれない。
少なくとも、必要量をルズベリーの街周辺でだけ集めようとするよりは、数が集まるはずだ。
「となると、ネルオー草がより取れる地域を狙うこともできて……」
物は試し、と【異世界図書館】を開き、他の素材も追加でリストアップして検索する。
地方によってやはり採取できるものは違うようで、ルズベリーの街はネルオー草の産地と呼べるような収穫量ではなかったということもわかった。
検索した情報だけの話ではあったが、ルズベリーの街よりもネルオー草が手に入りやすい街もいくつか見つかる。
「……もっと早く気がつくべきだった。【異世界図書館】、マジ万能」
少し私の視野は狭すぎる、と反省をして計画を立て直す。
ネクベデーヴァで使えるお金は傷薬の代金で十分に稼いでいた。
このお金を依頼の報酬にしてネルオー草を各地の冒険者ギルドを通じて集めれば、ネルオー草を根絶やしにすることなく、かなりの数の植物栄養剤が作れるだろう。
他の材料についても、同じ方法で集めることができる。
「となると、秘密を守れる護衛を雇った方がいいかな?」
治安の良さを条件に、ルズベリーの街へと顔を出すようになった。
今回は治安よりも採取できる素材を目当てに街を選んだため、安全面については後回しになっている。
どの街でも、ルズベリーの街のような治安は期待しない方が良いだろう。
女の子が一人で路地を歩けるような街というのは、治安が良いと言われる現代日本であっても多くはなかったはずだ。
転移についての秘密を守れる護衛がほしい、とルズベリーの街を訪れる。
今のところアシュヴィトの許可なしで他者を家へは招待できないが、何度もお世話になっているので私自身はルズベリーの街の冒険者を信頼していた。
彼らのうちの誰かを雇い、機能・移動距離ともにおかしすぎるらしい転移を秘密にしてもらえば良いだろう。
「あれ? なにか、ギルドの中が騒がしいような……?」
素材採取と護衛依頼を出すため冒険者ギルドを覗くと、何やら中が騒がしい。
受付に向かって放射状に人が群がり、中心で騒ぎが起こっているようだ。
「……何かあったんですか?」
騒ぎを遠巻きに見つめている冒険者へと、声を潜めて聞いてみる。
あまり野次馬な性質はしていないつもりだったが、これだけの騒ぎだ。
無視も無関心でいることもできない。
冒険者ギルド内で起こったこととして、ギルドを利用させてもらっている側の人間として知っておいた方がいいだろう。
「奥にいるのはリナだよ。少し前からロンアルビ山の麓にある洞窟に潜っていたはずなんだが……グレタがコカトリスから石化の毒を受けたらしい」
「グレタが?」
「なんとか魔獣に見つからない場所へグレタを隠してはきたが、リナ一人ではここまで運ぶなんてことができないからな。今はグレタを迎えに行ける人員か、解毒のできる治癒師を探して、ああして騒いでいるところだ」
毒を受けて石化したグレタの体は重く、リナにはグレタを連れ帰ることができなかった。
物陰にグレタを隠し、魔獣が本能的に避けてくれる結界を張り、人を呼びにリナだけ街へ戻って来たそうだ。
リナは転移の魔法が使えるため、グレタが毒を受けたのは今日の午前で、転移で今からグレタの元へ戻り、解毒出来れば命が助かる可能性は十分にあるのだとか。
だからこそ、普段は物静かなリナが声を荒げて仲間を募っている。
騒ぎの中心にいるのは私の友人だった。
そう知ってしまったからには、聞かなかったことにもできない。
何か手伝えることはないだろうか、と私にできることを探しながら、騒ぎの動向を見守る。
グレタのために必死で救助の手を求めるリナを、周りの冒険者たちは止めているようだ。
そもそもロンアルビ山麓の洞窟は強い魔獣の住処でもあり、グレタとリナには手の余る場所だったのだ、と。
依頼を受ける際に確認もしたし、念も押した。
それでも依頼を受けると決めたのはグレタとリナであり、リナだけでも生きて帰ってこれたことは僥倖。
他の冒険者を危険に晒してまでグレタを助けに行くべきではない。
そもそも、無事にグレタを街へ運び込めたとしても、心臓の鼓動が完全に止まる前に出かけている治癒師が戻り、解毒ができる可能性は低いのだ、と。
周囲の年長の冒険者たちはリナを止めたが、幼馴染であるオレクとイサークは違ったようだ。
自分たちがグレタを運ぶと名乗り出て、リナの表情が僅かに解れる。
周囲の大人たちに制止され続け、表情まで強張ってしまっていたのだろう。
……あれ?
イサークを振り返ったリナの赤毛に、薄茶の羽根がついていた。
おかしいな、と思ったのは一瞬で、すぐに点と点が線で繋がる。
……コットン、鑑定お願いします。
『えっと……『コカトリスの羽根』だね』
他者のいる場では心の中へと話しかけてくるコットンへ、私も心の中で話しかけた。
リナの髪についた羽根が気になって鑑定してもらったところ、羽根の正体は『コカトリスの羽根』で間違いないようだ。
そして、この名前には覚えがある。
……そうだよね、コカトリスといえば石化。石化といえば石化解除薬だよね。
そして石化解除といえば、私が求めている薬だ。
以前から調べていたので、知識として【異世界図書館】を見なくとも頭の中に残っていた。
「あのぉ……」
必ず成功するとは言い切れないのだが、私にも出来ることがあるらしい。
そう判ったからには、自信はなかったが名乗りでないわけにもいかないだろう。
おずおずとリナたちに向かって声をかけると、リナは驚いて目を丸くした。
「リナの髪についてる羽根、よく見せてくれる? これがコカトリスの羽根だったら、あと二枚で石化解除薬が作れるかもしれないんだけど……」
自信がないので、失敗を計算に入れてさらに九枚は欲しいかもしれない。
そう馬鹿正直に続けると、リナは慌てて髪に付いた羽根を取り、外套を脱いだ。
パタパタと必死で外套を叩いて羽根が付いていないかと探してみるが、コカトリスの羽根は髪に付いていた一枚だけだった。
最小であと二枚、初めて作るので失敗することも計算に入れて更に数枚、やはり取りに行く必要がある。
「……このみ、コカトリスの羽根、一枚でなんとかならない?」
やっと見つけた希望が絶望に変わり、リナの顔が青ざめる。
外套を裏返して叩いてもみたが、やはり羽根が舞い落ちることはなかった。
「現地に採りに行くしかないですね。一度わたしの家に戻って他の材料と道具を持ってきますから、それからグレタのところへ向かいましょう」
それで間に合うだろうか、と続けると、リナはポカンっと瞬く。
やがて私の言葉の意味が脳に達したのか、濃い茶色の瞳を潤ませると全力で私へと泣きついて来た。
「リナ、泣くのはあと。泣くのは、グレタを助けられてからにしよ」
よしよし、と軽く肩を叩いてリナを宥めつつ、背後のオレクとイサークを見上げる。
二人とも何か言いたげな顔をしているが、飲み込んだのが判った。
彼らが言いたいことは、代わりのように周囲の大人たちが口にしている。
魔法薬を売りに来る私に何かあっては大変だ、と。
グレタは覚悟の上で出かけたはずだが、私はそのグレタのために危険に近づくことになる。
リナが生き延びただけで良しとして、間に合うという保障もないグレタのために私を危険に巻き込むのは止めろ、と。
冒険者ギルドで私を危険に巻き込むな、と制止を始めた年長者たちの相手をオレクとイサークに任せ、リナと二人でルズベリーの街を出る。
街道脇のいつもの場所へと向かう時間も惜しいらしくて、リナが転移の魔法で送ってくれた。
普通は徒歩三十分圏内というような近い距離で転移は行わないらしい。
私はいつもコットン任せであったし、そもそも転移の仕掛けは神であるアシュヴィトが用意したものだ。
そのため、リナの使う転移とアシュヴィトの用意した転移の仕掛けは、少し性質が違ったらしい。
家の門の転移の仕掛けからは世界中の何処へでも行けるが、リナの魔法で行う転移は、術者と送られる側が行った場所へしかいけないようだ。
しかも、転移するためには予め出発地点と出現地点に目印を用意しておく必要があり、私がグレタのいる洞窟へ転移で行くことはできない。
私が採取で行ったことのある森まで転移で移動し、そこから洞窟を目指すしかないようだ。
ならば、とオレクとイサークを洞窟まで先に運んでコカトリスの羽根を探してもらい、遅れて私が合流すれば丁度良いかもしれない。
そうリナにお願いをしておいて、道具を取りに家へと戻る。
一度マジックバッグの中身を出し、必要なものを入れ替えている間にオレクたちが追いつき、リナが二人を先に洞窟へと送ってくれる算段になっていた。
あとは一人で戻って来たリナに口止めをした上で転移の仕掛けについてを話し、洞窟へと転移すれば時間が省略できるはずだ。
ルズベリーの街以外へも行くために、秘密を守れる護衛を雇おうとしていたところだったので、渡りに船とも言えた。
「えっと、石化解除薬の材料は……」
処方箋は頭の中に入っているが、確認は大切だ。
現地で材料が揃った、さあ調合するぞ、という段階になって材料を覚え間違えていただなんてことになれば目も当てられない。
携帯端末に表示される処方箋を読み上げ、机に並べた材料を指差して確認していく。
同じ確認を三度繰り返してから、マジックバッグへ材料と道具を詰めた。
「……これでよし。あとは肝心のコカトリスの羽根だけあれば調合が可能、と」
材料を余分にマジックバッグへと詰め込み、リナの待つ街道へ戻ろうと部屋を出ると、そこにはメイが立っていた。
忘れ物です、と差し出されたのは、小さな肩掛け鞄だ。
「『安らぎの水薬』をいくつか用意しておきました」
「え? でも、魔力なら余裕ですよ……?」
『安らぎの水薬』というのは、簡単に言うと魔力を回復する薬だった。
調合の熟練度を上げようといくつもの薬を作った中にあった一つで、あまり効果を感じなかったため、以降の改良はしていない薬だ。
「このみ様には焼け石に水かもしれませんが、普通の魔法使いには十分な効果があるかと思います」
「……えっと?」
あまり効果がない、と感じていたのは、私の魔力が高いためだったらしい。
うすうす気が付いてはいたが、アシュヴィトが作った今の私の体は、人間の中では桁違いの魔力量を持つ。
大きな魔法を連発して大地を耕す程度には、非常識な魔力量だ。
安らぎの水薬の魔力回復量を10として、魔力1000の私と、魔力100のリナとでは、魔力が10回復するありがたみはまるで違ってくる。
小技の使えない私には宝の持ち腐れでしかない『安らぎの水薬』は、小技も使えるリナには最高に相性のいい魔法薬と言えるだろう。
「……改良していけば、私にも使える薬ができるかな?」
「その場合は売り物には出来なくなると思いますが……」
「ですよね」
魔力1000の私が効果を感じる薬として、魔力が100回復する薬を作り出すとする。
この薬を魔力100のリナが0の段階で使えば良いが、魔力が1でも残った状態で使えば魔力が余分に溢れ出てしまうことになる。
余った魔力が蓄積されるのも、放出されるのも、あまり良いことではないだろう。
過程として100や1000といったキリの良い数字を使っているが、魔力が低いらしいオレクやイサークが間違えてのんでしまった場合など、余剰魔力が多すぎてどうなるか想像するのも怖い。
取り扱いに困る私用魔力回復薬については横へ置き、グレタを救うべくリナの待つ街道脇へと戻る。
少し疲れた顔をしたリナに『安らぎの水薬』を渡すと、リナは驚いた顔をしたあと喜んでくれた。
すでに今日だけで何度も転移魔法を使っており、魔力の底が見えていたそうだ。
私を連れて転移をする魔力は残っているが、帰りは少し休憩をはさみ魔力の回復を待つ必要があると考えていたらしい。
……その行きの魔力も節約できるかも、って説明しないとね。
アシュヴィトの転移と、リナの転移との違いを伝え、リナが口止めについてを了承してくれれば時間の節約になる。
グレタの命がかかっている以上、リナは時間をかけたくはないはずだ。
弱みにつけこむようで少し心苦しい気はするが、お互いに利のある話である。
きっとリナも受け入れてくれるだろう。
「……すごい。心が軽くなったというか、頭がすっきりしたような……不思議な気持ち」
不安で押しつぶされそうだったのが、少し落ち着いたと言って『安らぎの水薬』を飲んだリナが微笑む。
魔力が回復するといっても、アシュヴィトが私に用意してくれた【ステータス】のように簡単で判りやすくはリナに数値を確認することはできない。
そのため、『頭がすっきりした』という言葉になるのだろう。
「……ごめんね、このみ」
「なにがですか?」
『安らぎの水薬』の効能か、心が落ち着き、リナはルズベリーの街で周囲の冒険者たちから止められていた内容について、ようやく考える余裕を取り戻せたらしい。
冷静に考えてみれば、私を危険な場所へ連れて行くべきではない、と。
「今回のことは、ロンアルビ洞窟に行くって決めたグレタと、グレタを止められなかった私の責任なのに……」
「石化を解除する薬が作れるかもしれない、って言いはじめたのはわたしです。それに、下心もありますから……リナが気に病むことなんてありませんよ」
「……下心?」
「はい、下心です」
下心と聞いて不安そうな顔をするリナに、口の堅い護衛がほしかったのだ、と簡単に説明をする。
元から石化解除薬は作れるようになりたい薬であったし、そのためにはいつかロンアルビ山麓の洞窟へと私が『コカトリスの羽根』を探しに行く必要があったのだ、と。
「だから、『いつか』って予定が、『今日』になっただけのことです。リナが気にすることはありませんよ」
「じゃあ、その……口の堅い護衛がほしい理由は?」
「それは……ほら、わたしのお師匠様って、人間嫌いの偏屈なお師匠様でしょう? いつも使っている転移の仕掛けが、どうもリナの転移の魔法とは仕様が違うみたいで……」
転移を使って遠方への護衛をしてもらいたいが、その少し変わった転移についてを口外しないでほしい。
それだけのことだと続けると、リナはホッと安堵の溜息をはいた。
「技術を秘匿するのは誰だって当たり前のことよ? それに、冒険者にとって自分の受けた仕事には守秘義務があるもの。言わないでほしいってことなら、誰にも言わないわ」
「……じゃあ、少し目を閉じていてください」
秘密なので、と悪戯っぽく笑って促すと、リナは戸惑いながらも目を閉じる。
その手を取ると、やはり不安があるのか強く手を握られた。
……コットン、私とリナをロンアルビ山麓の洞窟まで転移できる?
『一度家に帰る必要があるけど、いけるよ』
ならお願い、と心の中でコットンに伝えると、足元で転移の魔方陣が輝く。
景色が出てきたばかりの家の門前に切り替わったと思うと、再び足元で転移の魔方陣が輝き、次の瞬間には見覚えのない場所に立っていた。
……ここがロンアルビ洞窟?
『そのはずだよ』
地図の上ではここが目的地のはずである、と言ってコットンは尻尾を揺らす。
私は初めて来る場所だったので、ここが本当に目的の洞窟前であるかどうかは、リナに聞いてみるのが早い。
「リナ、目を開けてください」
「……もう、いいの?」
いったいどうしたのか、と言うリナからの問いは、途中で消えた。
一瞬にして景色が切り替わっていることに、リナが気づいたのだ。
「一応ロンアルビ洞窟の前に来たはずなんだけど、ここであってますか?」
「ええ、ここがロンアルビ洞窟だけど……え? どうして? ……あ、これがこのみのお師匠様の転移?」
周囲を見渡して場所の確認をしたリナは、不思議そうな顔をしながらもすぐに私が先に話してあったことと現実が繋がったようだ。
これが私の話した『仕様の違う転移』だ、と。
「……このみ、ロンアルビ山には行ったことがないって言っていたと思うんだけど?」
実はロンアルビ山に来たことがあったのか、と問われ、これには素直に答える。
転移の魔法について私に解説してくれたのはリナなので、転移の魔法とアシュヴィトの施した転移の仕掛けについての違いは明確にしておいた方がいいだろう。
「これがお師匠様の特別仕様な転移です。一度も行ったことのない場所へも転移できるから……」
だからこの転移については口外しないでほしい。
そう繋がることは、最後まで言う前にリナには通じたようだ。
驚いた顔をしていたリナはすぐに顔を引き締め、思考が切り替えられたのがわかった。
今は自分の魔法とは仕様が違う転移に驚いているよりも、グレタの元へ私を案内する方が先だ、と気が付いたのだろう。
念のため、と獣避けの香を焚き、リナの案内で洞窟へと足を踏み入れる。
むき出しの岩だらけの歩きにくい道だったが、獣避けのおかげか、私がアシュヴィトから貰った加護【愛し子】のおかげか、獣にも魔獣にも襲われることはなかった。
「このみの作ったものは、傷薬以外もすごい効果ね。この洞窟で、こんなに魔獣に出くわさないなんて……」
「わたしもびっくりです」
自分で効果が試しにくいものは売れないと思っていたのだが、これなら獣避けの香も商品として売りに出して良さそうだ。
そのうち冒険者ギルドへと持って行ってみよう、と予定を立てる。
採取依頼を出してネルオー草を集めるのなら、資金はいくらあっても困らないはずだ。
……っていうか、そもそも試薬を依頼として冒険者ギルドに出せばいいのか。
処方箋どおりに作ったものとはいえ、効果が判らないものを本当に売っても良いものだろうか。
そう良心が訴えるため、冒険者ギルドへ持ち込んでいない物はいくつもある。
その気になる試薬を、実際に怪我をしたり、街の外へ出かけて獣を避ける必要のある冒険者たちにしてもらえば、お互いに利益のある取引になるだろう。
私は売りに出せる商品が増え、冒険者たちは依頼を達成してお金が手に入る。
そして、その依頼の結果として自身の身を守る手段が増えることにもなるのだ。
「イサークたちは無事にここまで来たみたい」
予め取り決めがされていたのか、結界の内側に小石が四つ積み上げられていた。
これを目印に、先行しているはずのオレクたちの動向を知ることができる。
「グレタは……」
香のおかげか、魔獣に出くわすことなくリナがグレタを隠した小部屋のようになっている場所へと辿りついた。
暗がりに目を凝らすと、そこで力尽きたのか、座り込んだまま石と化しているグレタの姿が見える。
さっそくグレタの様子を診るため肌に触れると、見た目は石膏像のように真っ白なのだが、肌はほのかに暖かい。
このぬくもりが消える時、かすかな胸の鼓動も止まるそうだ。
そうなってしまえば、もう石化解除薬も効果はない。
入り口の見張りをリナに任せ、調合のためにマジックバッグから材料と道具を取り出す。
いくつか下準備をしているとオレクとイサークが『コカトリスの羽根』を持って小部屋へと戻って来た。
「このみ! これだけあれば足りるかっ!?」
「十分すぎるよ、どんな無茶したの?」
最低二枚、出来れば失敗を計算にいれて九枚は欲しい。
そうは言ったが、オレクとイサークが集めてきた『コカトリスの羽根』は、数えるのはあとでいいか、と後回しにできるほどの数だった。
九枚なんて数でないことが、ひと目で判る。
そして、その代わりのようにオレクとイサークの目に付くところにある怪我も多い。
もしかしなくとも、無理をして『コカトリスの羽根』を集めたのだろう。
傷薬と引き換えに『コカトリスの羽根』を受け取り、ひと目があると集中できないから、と小部屋から三人を追い出す。
入り口を見張りながら傷薬でも塗っていろ、と言っておいたので、丁度いいはずだ。
私の不自然すぎる『調合』も、これで隠せるはずである。
「材料は揃った。あとは調合が成功することを祈るだけ、と」
何度も処方箋と並べた材料とを確認し、祈りを込めて『調合する』アイコンを押す。
慣れた作業ではあったが、これに友人の命がかかっていると思えば緊張もする。
普段は感覚的に『極めプレイ』の延長線上にいるつもりで調合を続けているが、今日は持ち込んだ材料に限りがあった。
失敗したからまた明日、というわけにはいかないのだ。
祈りを込めて光輝く材料を見守る。
無事に光が収まれば『調合』の成功だ。
特に失敗する要素はないはずなのだが、いつもより時間が長く感じられる。
無事に光が収まると、お腹のそこから重い溜息が出た。
「……コカトリスって、尻尾が蛇の鶏だっけ? 石化解除薬って、瓶がコカトリスモチーフなんだね」
光が収まって中から現れたものは、蓋の部分が鶏の頭部で、中身を収めた瓶本体には蛇が絡まりついていた。
コカトリスの羽根を使ったからか、石化を解除する薬だからか、瓶のモチーフは判りやすく『コカトリス』だ。
「さて、まずは……『慈雨の奇跡』」
自分の中の魔力を操り、出来たばかりの石化解除薬へと働きかける。
『慈雨の奇跡』を施された石化解除薬は、青い液体を金色に輝かせ、瓶ごと光に解けた。
光は石化したグレタの頭上へと移動すると、光の雨となってグレタの体に降り注ぐ。
「……うん、『慈雨の奇跡』は上手くできた。問題は、石化解除薬がちゃんとできてるか、だね」
『慈雨の奇跡』はおかしな暴走の仕方をしなかったため、合格だろう。
微調整は苦手だったが、今回は上手くいったようだ。
問題は、石化解除薬である。
これが効かなかったら、もう一度石化解除薬を作るか、他の薬を試すしかない。
「もう大丈夫かな」
「判るの? コットン」
「毒素が薄くなってくのが判るよ。まだ体を動かせるようになるには時間がかかるけど、もう大丈夫」
完全に毒が消えるまでは時間がかかるが、とりあえず命の危機は脱したらしい。
つまりは、石化解除薬は成功だった、ということだ。
すぐにリナたちを呼ぶと、すでに石化解除薬を使ったあとであることに驚かれた。
どんなものか、彼らも少し興味があったらしい。
私としては本当に出来てるか心配だったので、完成したと宣言する前に石化しているグレタ本人を使って試させてもらっただけだ。
これをそのまま伝えると、イサークには呆れられてしまった。
そういえば『見習い』だったな、と。
入り口はオレクとイサークが交代で見張り、グレタの体が解れるのを私とリナとで見守る。
関節まで固まってしまっていたようで、姿勢を直して横たえるだけでも重労働だった。
「……出世払いでお願いします」
「なんの話ですか?」
見張りをイサークと替わったオレクが小部屋へ入ってくると、思いつめた顔をしていた。
何かあったのだろうか、と心配になって声をかけたら、返ってきた言葉がこれだ。
オレクはなにかを出世払いをしてくれる気らしい。
「いや、グレタの石化解除薬の値段だよ」
「ああ、そういえば……いつも値段を決めてくれるのはギルドのお爺さんでしたね」
よく考えてみれば、自分で値段をつけたことなどない。
相場がわからないので仕方がなかったし、冒険者ギルドの鷲鼻の老人は正直で公平な人物だ。
彼に任せていれば問題はないだろう、と薬の買い取りについて値上げ交渉などしたことはない。
「石化まで解除できるとか……傷薬なんて目じゃない値段の魔法薬だよな? 出世払いでおねがいしますっ!」
「いいよ、若いんだから借金なんてするものじゃないよ。それに、リナには言ってあるけど、石化解除薬はわたしもいつか作ろうと思っていた薬なの」
こんなことがあったから『いつか』が『今日』になっただけなので、気にしなくていい、とリナに言ったのと同じことを繰り返す。
私としては結果的に口の堅い護衛は雇えそうだし、やすらぎの水薬と獣避けの香の効果は確認できたし、石化解除薬も作ることができた。
丸儲けといっても良い状況だ。
これでさらに石化解除薬の代金など貰ってしまっては、貰いすぎな気しかしない。
「そうは言っても、このみの魔法薬をタダで貰っただなんて、ギルドにゃ報告できないぞ」
「じゃあ、こうしよう。余った『コカトリスの羽根』を全部わたしが貰うとか、どう?」
いずれ必要になるものだ。
目の前に余っているのだから、これを逃す手はない。
オレクたちへと買い取りを依頼するか、いつか冒険者ギルドへと採取の依頼を出すことになるものだ。
今日の薬代としてもらってしまっても、結果は同じだろう。
「……あ、もしかして全部じゃもらいすぎ?」
欲張りすぎたかな、と瞬いているオレクを覗き込み、隣のリナへと視線を移す。
リナは小さく肩を竦めると、自分たちには使い道などないから、全部持っていっていい、と言ってくれた。
どうやら『コカトリスの羽根』は、一般的に飾りとして使うぐらいにしか用途はないようだ。
私が良くても、やはり『コカトリスの羽根』だけでは安すぎる、ということで、グレタが回復したら護衛の仕事を引き受けてもらう約束をリナと交わした。
家にある転移の仕掛けについては口外禁止という条件付だ。
口外禁止、だなどと物々しい条件付で約束を交わす私たちに、イサークが何をするつもりかと口を挟んできたので、正直に目的を話しておく。
植物用栄養剤が沢山必要になったが、一箇所から素材になる草を集めては、その地で種が絶えてしまう。
そのため、広範囲から少しずつ集めたいのだ、と。
そんなに集めてどうするのか、とはやはり聞かれた。
聞かれたのだが、これにはリナがイサークの脇を突いて黙らせてくれる。
依頼者の事情を詮索するのは禁則事項だ、と。
私は私で、特に隠しておくことでもないと思ったので、こちらも正直に答えておいた。
植物栄養剤が必要だというのだから、栄養が必要な植物があるのだ、と。
我が家に文明の利器スマフォ様がやってきました。
スマフォはクリックじゃなくて、タップなのですね。
このままクリックで突き進みます。