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サブカル 1

 前の話を読んで頂き光栄です( ;∀;)

「お兄ちゃんってば!!」

「どわっ!! 急になにすんだ小春!」


 朝の優雅なひと時。学校へ行く支度を済ませると、一度自室に戻り好きな音楽を登校時間まで聴いているのが俺の日課だ。

 先日手に入れたブリカルの最新アルバム。それをお気に入りのMPミュージックプレイヤーに落とし込み、現在も聴いていたわけだが。


 それも妹である藤田小春十五歳の|イヤフォンジャック《イヤフォンを奪われる事:俺命名》により幕を落とされる。


「今何時だと思ってるの!! 電車間に合わなくなるじゃん!!」

「それならお前一人で行けばいいだろ! 俺は最悪ロードがあるし」

「で、でもぉ」


 怒りの表情からは一変し、半べそを浮かべだす。


 忘れていた。こいつは極度の方向音痴なのである。

 一人で近所のコンビニにすら行くことが出来ず、前回お使いを頼んだ時は三日後に二つ県を挟んだ森の中で発見された程である。

 その間どうやって飲み食いしていたのかはお使いということで察してもらいたい。


 であるからして、この妹は自宅から約三百メートル離れた駅まで一人で行けないのだ。一本道にも関わらず。


「あー。分かった分かった。今行くから下で待っとけ」

「りょーかいでーす」

 

 幸い家の中は迷うことが無いようなので助かってはいる。


 寝そべっていたベッドから起き上がり、傍のランプ台に置いてあったスマホで時間を確認する。

 八時十八分。ここから駅までは五分弱、学校の最寄り駅までが三十分でそこから徒歩十分強。登校時間は九時十五分までだから少しは余裕があるか。


 小春の中学は俺の高校とは反対にあるので駅でお別れだ。いつも友達が待っていてくれるので、此方としては助かっている。今度何かお礼をしないとな。


 なんやかんやと考えている内に玄関に到着。

 小春は相当焦っているのか、足踏みをして待っている。そのせいで上下する二つ結びの長い髪の毛を見て笑みが零れる。


 身内贔屓のように聞こえると思うが、小春は可愛い。クリッとした瞳に小さな鼻、血色のよい唇など顔のパーツが驚くほど整っており、実際にモデルやアイドルのスカウトに何度も声を掛けられているようだ。


「元気あるのは良いけど、途中で逸れるなよ」

「分かってる! 逸れそうになったら手を繋ぐし、バッチグーだね!」

「死んでも嫌だ」


 いくら可愛かろうが妹は妹。邪な気持ちは起きる筈もなく、何時ものように軽口を叩き合いながら玄関のドアノブに手を掛ける。


「行ってきます」

「ますー」



 家は両親共働きであり、常に海外出張を繰り返している。そのせいで小さい頃から二人で家事を分担したりして生活してきた。

 料理、洗濯、洗い物は俺が担当し、掃除は小春が担当している。そう聞くと殆ど俺がやっているようなものだが、これは月で交代になる。しかし、小春は料理に関してのみからっきしなので、料理は俺の仕事となっているが。


 二人で他愛無い会話を繰り広げ、目的地である駅に到着する。


「お兄ちゃん、電車大丈夫かな?」

「結構混雑するだろうな。通勤ラッシュ真っ只中っぽいし」


 行きかう大勢の人を見て思わず顔が引きつる。

 この感じだと満員の中に入る羽目になりそうだな。だからと言って時間をずらすことも出来ないので、二人そろって溜息を吐き改札口に歩いていく。


 

「じゃあ妹をよろしくな」

「はっはい! お任せください!」

「あはは! 渚ちゃん可笑しーっ!」


 学校最寄りの駅に到着し、東口に出たところで小春の友達である神無渚ちゃんが出迎えてくれた。

 小春が可愛いとしたら、此方は凄い美人さんである。綺麗に梳かれた銀髪ショートが良く似合っており、透き通った蒼い瞳がチャームポイントだろうか。何処かのハーフと言っていたが、何処だったか・・・・。

 

 真面目そうな雰囲気が清楚感を際立たせており、普段お茶らけている小春とは水と油のような関係にしか見えない。が、だからこそお互いが惹かれ合い幼稚園生の頃から現在まで仲良くしてもらっている。


「こら、あんま虐めてやるなよ。渚ちゃんが居なくなって困るのは何処のどいつだー」

「ぶー。別に虐めてなんかないよ!」


 林檎の様に顔に血を巡らせ、俯く渚ちゃんに小春が抱き着く。

 道行く人々が眼福眼福、とにやけ面で眺めているのが癇に障るが、致し方のない事だろう。

 考えてみて欲しい。女優級の容姿を持つ二人の女子中学生が百合百合しく抱き合っているのだ。頬を擦り合い、きちんと整えられていた制服が少しずつ乱れていく。

 そりゃ見るだろ。


 離れた距離を詰め、小春の脳天に拳骨を振りかざす。


「だから虐めるなって。それに周りの目を少しは気にせんかっ」

「いったぁぁ!!」

「あ、ありがとうございます」


 何度も頭を下げる渚ちゃんに大丈夫と手で答え、先を急ぐ事をそれとなく伝える。

 馬鹿やるのも楽しいが、そろそろ時間がやばそうだ。


「じゃあ俺は西口に戻るから、気を付けて行ってくるんだぞ」

「わかってるよーだっ」

「はい! お気をつけて!」


 小春達をその場に残し、西口に向かう為後ろへ引き返す。


 通勤ラッシュ真っ只中だったこともあり、未だに人が絶えない。

 すれ違う人皆スマホやらなんやらを手に持ち、急ぎ足で各々の目的地へと向かっている。

 こういう光景を見ていると、外国からの観光客が『日本人は皆忍者』と言いたくなる気持ちも分からなくない。

 視線は下へと向いていたり、人を避けた先にまた人がおり、更にそれを避けて前へと進んで行く。確かに初めて見た人にとっては異様な光景だろう。

 海外ではここまで混雑することが滅多に無いようだし、混雑するのはほんの一部の地域のみである。ある意味一番心に残る光景かもしれない。


 ある程度人が捌けたところでポケットからMPを取り出し、朝の続きを再開することにした。

 俺にとっての優雅なひと時は、早朝の自宅以外にも通学時と帰宅時にも訪れる。いつもついて回る妹も居なくなり、混雑の中で一人を噛み締められるこの時間というのは、ある意味一番幸せな時間なのかもしれない。

 誰にも邪魔される事無く、唯々一人の時間に費やせる。何たる幸せだろうか。


 全ての楽曲がお気に入りではあるものの、やはりその中でも一番好きなのが最後に収録されたあの名曲。

 ブリカルが世に知れ渡る根源になったあのライブでの一曲“blizzard”。

 ライブでの演奏とは少し異なるが、何度聞いても飽きない。


 何時ものように若干リズムを取りながら歩き、学校近辺の小さな公園に差し掛かった。

 常日頃は特に気にすることも無く、何とも思わず通り過ぎていく処だが、何故か今日は妙に気になってしまう。

 

 足を止め、耳に刺したイヤフォンを抜き取り園内を見渡すものの、特に変わった様子も見受けられず首を傾げる。

 何となくだが、何かに呼び止められたような、これから何かが起きるような予感がしてしまい、異変はないのにも関わらず見入ってしまう。


 すると、後ろの方から騒がしい足音が近づいているのに気が付く。

 流し目で確認し、何も関係はないだろうと歩行を再開するも、後方から叫ばれる声に背筋をビクリと震わせる。


「涼介ええええ! そんなとこで何してんだあ!」


 再度振り返り、先程は小さかった影が自身の学友であることに気が付き、厄介な奴と出くわしてしまったと顔が引きつる。


 現在此方に爆走している阿保の名前は小柳俊。俺と同じ高校に通う中学の頃からの友人である。

 茶色く綺麗に染まった髪を短髪に整え、勝気な目を持つ残念イケメンである。

 成績優秀スポーツ万能と、何処かの漫画に出てきそうなスペックを持つが、蓋を開ければ超ド級のアニオタなのだ。漫画アニメはもちろんの事、ラノベ、フィギュア、同人誌等を自室の隅々まで収集している筋金入りだ。


 そのせいか、中学の頃から彼女が出来ては別れてを繰り返す、いけ好かない野郎である。


「聞こえてんだろ! 無視してんじゃねーよっ!」

「っさいなぁ。お前は静かにする事もままならんのか」

「へへっこれが俺のアイデンティティだからな」


 照れるように鼻の下を指で擦っているが、何も自慢できるようなことではない。

 馬鹿野郎と返し、お互い止まっていた足を再び動かせる。


 先程あれだけ離れていたのにも関わらず一瞬でここまで辿り着くとは、やはり身体能力に恵まれた奴だ。常に時間ギリギリに登校してくるこいつは、自身の身体能力も加味してギリギリにしか家から出ない。

 常人なら確実に遅刻する羽目になるはずが、こいつは毎回HR(ホームルーム)一分前に教室に入ってくる。

 本当に運動神経も頭も良いやつは卑怯だと常々感じている。


「ほんで? あんなところで何してたんだ?」

「あぁ、大したことじゃないよ。何となく見てただけ」

「はぁ? あんななんもない公園をか? お前もとうとう頭が可笑しくなったようだな」

「お前には言われたくない」


 いたずらっ子の様にはにかむ俊を横目に、使う必要のなくなったイヤフォンを巻いてMPをポケットに収納する。

 こいつの言う通り、あの公園には象の形をしたピンクい滑り台と、使用禁止のロープが巻かれた壊れかけのジャングルジムしかない。

 場所も悪く、住宅街などでは無く神社の裏側にあり、公園側からも入ることは出来るが入り口が雑草によって遮られている為、小さな子供は中を見ることもままならない。

 十何年か前に子供がジャングルジムから転落死してしまい、それから使われてない。神社の神主が寝たきりなのもあり、ずっと掃除もされておらず忘れられた場所となっているのだ。


「まぁ何はともあれ、今は急いだ方が良さそうだぜ?」

「ん?」


 先程の笑みとは一変し、悪だくみでもしているかのような表情で視線を向けてくる。


 先を急ぐも何も、まだ多少の余裕があった筈なので歩行速度を上げる必要は無い。

 いつもギリギリにしか来ないこいつだから、日頃の感覚で忠告してきているのだろう。


「俺がこの時間に此処にいるってことは? さっきまで俺走ってたけどなぁ」

「・・・・・・!! ま、まさか!!」


 嫌な予感が脳内を駆け巡り、急いでスマホをポケットから取り出す。

 しかし、焦ってしまったせいで地面に落としてしまい、嫌な音が耳に届く。


 不幸が続くとは良く耳にするが、実際に身に起きてしまうと他人事ではいられない。

 案の定拾い上げたスマホの画面には罅が入っており、テンションが一気に下がってしまう。なにせ、つい一月前に買い替えたばかりなのだ。当然だろう。


 隣で俊が腹を抱えて笑っているのを恨めしく睨んでやり、割れたスマホの電源を入れる。


『09:12』


「ああああ!!」

「はははっ! いいリアクション、ありがとうございまーすっ!」


 此処から学校までは急いでも五分は掛かる。今更走り出したところで遅刻は免れないだろう。

 これに関しては自己責任である。公園に気が入ってしまい、時間の事をすっかり忘れてしまっていた。

 そもそも、俊と出くわした時点でギリギリ以前にタイムオーバーである事に気づけなかったのは、公園のせいなのか疲れなのか。


 読んで頂きありがとうございます!

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