夏とさよなら
海の風が変わったら、それはさよならの合図だ。
「夏と、さよならしないといけないんだよ」
ミサキはそういって長い髪を揺らした。
9月1日、ミサキは学校に来なかった。今日は始業式だけなので午前授業だ。帰りの会のあいだ中ずっと、わたしはその空席を睨みつけていた。
赤い屋根の家の前に、大きなトラックが止まっていた。荷台に座った彼女がわたしに手を振る。
「ばいばい」
風にあおられて、彼女の麦わら帽子が飛んだ。背伸びしてそれを掴む。視線を戻すと、ちょうどトラックが角を曲がろうとしていた。
わたしは彼女に手を振り返した。ふわり、と潮の匂いが鼻腔をくすぐる。
海の風が変わったら、それはさよならの合図だ。
ミサキの座っていた席には、新しく来た転校生が座った。わたしの部屋の本棚には、赤い麦わら帽子。
二百円を握りしめて、私は坂道を走った。
坂の上は展望台になっている。自販機でサイダーを買う。60円のおつり。ぷしゅ、と音を立てて缶を開け、のどを潤した。
鞄から出した絵葉書を両手で持ち、ぐんと腕を伸ばす。砂浜と海、空と雲。檸檬の形をした島の影。それから、赤い屋根の家。
海の風が変わったら、それは夏のさよならだ。
そして一枚の絵葉書が、新しい夏を運んできた。
「ミサキ!」
坂を上ってくるセーラー服の少女に、私は手を振った。
あと少しです。明日もあります。