あの島もいつか
海岸沿いの堤防に座って、絵を描いていた。夏休みの宿題だ。四つ切りの画用紙に、茶色と青と白を塗りたくる。ぽたり、洗筆桶から垂れた水滴がじわじわとコンクリートに染みを作った。
砂浜と海、空と雲。緩くカーブを描く水平線。レモン型の黒い影がひとつ、ふたつ、みっつ。あの島は海岸線からどれくらい離れているのだろう。
何もない島だ。岩ばかりの、ごつごつとした。足元に転がった石を一つ、太陽にかざしてみると、きらきらと無数の光の粒が輝いていた。
振りかぶって、投げる。2,3度岩にぶつかってから、水柱を立てて海中に沈んだ。
波打ち際の岩は波に磨かれてつるつるになっている。足を滑らせないように手をついて傾斜を下りた。平たく丸い石をいくつかポケットに詰めて上る。
ヒュン。パシャ、パシャ、ポチャン。
わたしの手を離れた石は綺麗な弧を作り、海面で魚のように跳ねる。
ヒュン。パシャ、パシャ、パシャ、ポチャン。
ヒュン。パシャ、パシャ、パシャ、パシャ、パシャ、ポチャン。
パシャ、パシャ、パシャ、パシャ。
空っぽになったポケット。
パシャ、パシャ、パシャ、パシャ。
銀の魚が水面で跳ねる。偉そうに胸を張って、恐れるものなどないかのように高く跳ね上がる。とび。1、2、3、…15はいるだろうか。
群れはあっという間に通り過ぎていった。
パレットについていた絵の具は渇いてパリパリになっている。爪でこするとぱらぱらと剥がれ落ちた。
絵の続きは明日にしよう。
まだ続きます。あと三話程度の予定です。