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薄紅の
窓を開けると、生ぬるい風が吹いてくる。暑いことに変わりはないが、少し呼吸がしやすくなったように感じる。本棚にかけていた布がふわりと揺れた。
わたしの本棚の上の段には、大きな貝殻が飾ってある。手のひらほどの大きさの薄紅色の貝殻。二枚貝の片割れ。下手に触れたら割れてしまいそうなほど薄い。
脆く儚いくせに、夢見るような、何かを期待するような色をしている。
深い青色の空にぽっかり浮かぶ金色の月。薄紅色の頬をした少女はそっと銀の露を手の平に集める。零さないようにそっと貝殻に注いだ。
月の光を受けて現れるのは懐かしい人の姿。満月の夜にだけ会える大切な片割れ。柔らかな頬をますます紅潮させて、嬉しそうに少女は語る。水鏡に映った彼は微笑をたたえてそれを聞いている。
月は段々と傾き、お互いの姿も薄れていく。彼は何か言おうとした。
それは――。
少女の指先が水面に触れ、彼は消えてしまった。
後に残ったのは青白い光に照らされて色を失った貝殻ひとつ。
詠んでくださってありがとうございます。明日も投稿します。