あたし、乙女ゲームのヒロイン。今、異世界にいるの。
『乙女ゲームのヒロインに転生しましたが、学校に向かう途中で異世界に退場?!』(http://ncode.syosetu.com/n7691cy/)の続編ですが読まなくてもわかります。
あたし、乙女ゲーム『君と過ごす日々』のヒロイン、観音崎あかね(デフォルト名)。
ゲームの舞台である成功学園に入学する日に、玄関から一歩外に出た瞬間に謎の穴に落ちて異世界トリップしてしまった。
なんでー?!
そんなあたしは親切な現地人にすぐに保護されて、その地を治めている男爵家に引き取られた。
けど――
「なんで、キミすごの観音崎あかねがここにいるのよー?!」
紹介された男爵の娘(ストロベリーブロンド。通称・ピンク頭)にいきなりそんなことを言われた。
もしかして、彼女は日本からの転生者?!
って、転生者じゃないとありえないよね。あたしが言ってない『君と過ごす日々』を通称・君すごって言ってる時点で、転生者確定だよね。
「なんでって、異世界トリップ?したみたい」
自分でも今の状態が理解できないから、そう答えるしかない。
「観音崎あかねが異世界トリップ?! ゲームはどうなるの?!」
「あたしに言われてもわからないわよ。あたしだって好きで異世界トリップしたわけじゃないし・・・」
「ゲームのことを知っているなんて、さてはヒロイン転生したのね。その知識を使って逆ハーするつもりだったんでしょう?! 天罰覿めーん!」
いやいやいやいや。
そんな気、一切ないから。
攻略対象者に時間をさくぐらいなら、ママと一緒にいたいから。
逆ハーなんかしてたら、ママと一緒にいる時間がなくなっちゃうよ。
それにゲームと現実は違うし、あんなややこしい人たちと付き合いたくない。だって、あたしは庶民生まれの庶民育ち。
偶々、ママがお義父さんと結婚して、成功学園に入学することになった庶民だよ?
勉強ができるからって、特待生でもない頭の良くない庶民だよ?
家やら権力を持って生まれてきた悪役令嬢やモブに勝てるはずないでしょ?
それに悪役令嬢やモブが転生者だったら、ヒロインの立ち位置乗っ取られちゃうよね?
「なんでそんなことしなきゃいけないのよ! 悪役令嬢だって転生しているかもしれないし、返り討ちやヒロイン乗っ取りなんかされるかもしれないじゃない」
「ヒロイン転生したら、逆ハーするもんでしょ?」
・・・。
何、言ってんだろう、この男爵の娘。
ヒロイン転生したら逆ハーするもんって、転生したら男爵の娘だから、庶民的な人懐っこさで逆ハーしちゃおうって、ヒロイン乗っ取り志望なの?!
ここはゲームじゃない、現実の世界なんだよ?
ゲームと一緒にしちゃ駄目だよ。
ゲームの世界に入れたわけじゃないんだから、転生したってことはゲームに似た世界なだけなんだよ?
ここが異世界なら、特にそこで生きているんだから、自分がここで生きているって自覚しないとヤバいよ。
「そんなもんする気ないわよ。あたしはママと一緒にいたいの。ちょっとは、ほんのちょっと、出来心で攻略対象たちと直に会えるのを楽しみにしていただけよ」
だから、あたしはママのことをヒロインの母親として見られない。
ママはあたしのママで、生きているし、あたしのせいで苦労していた人。
ママが幸せになれるのを知っていたから、それを後押ししたりしたのは悪かったと思っているけど、それもこれもママの為だもん。
あとはゲームに似た世界に転生したから、ちょっとだけゲームのようなところを見たかっただけだし。
「ええー?! なんでー?! せっかく、乙女ゲーのヒロインに転生したのにー」
「ヒロイン転生したからって、逆ハーしないといけない法律はないでしょ? あたしは男運のなかったママが幸せになるのを見ているほうがいいの。だって、お義父さんはヤンデレでもクズ男でもないし、苦労してきたママがやっと笑顔でいられるのに、それを見逃すことなんかできないじゃない」
「観音崎あかねがマザコンになってる?!!」
そこ、驚くところ?
苦労してきた母親が再婚したからって、さっさと男漁りしていたゲームのほうが異常だよ。
「観音崎あかねかもしれないけど、あたしはあたしだもん。観音崎あかねじゃないもん。ママったら、お義父さんと付き合うまで駄目男やクズ男に引っかかってばかりですっごく心配だったんだから、マザコンになるのも当たり前でしょ?!」
「そういえば、観音崎あかねって、母の再婚で成功学園に入学するんだった・・・」
「そうよ。そうなの。それが大変だったの。あたしの父親はDV夫だったし、それをよりを戻さないようにして、お義父さんと再婚するまでの15年は長かったわ」
「そ、それは大変だったわね・・・」
わかってくれたようでよろしい。
この転生者のものわかりくらい簡単にママのとこに戻れるといいんだけど・・・。
「ア、アリス・・・?」
男爵夫人の呟きであたしたちはその場にいた男爵夫妻+αをドン引きさせる会話をしていたのに気付いた。
◇◆
ドン引きさせちゃったから、あたしたちは男爵の娘の部屋に移って話を続けた。
でも、問題は異世界トリップしたあたしじゃなくて、異世界転生したアリスのほうだった。
「あかねは良いかもしれないけど、同じヒロイン転生でも私のしたのは悪役令嬢婚約破棄物のビッチヒロインなのよ」
なるほど。
彼女も原作のある人物で、この世界もどこかで作られた話に似た世界だったみたい。
それにしても、悪役令嬢婚約破棄物っていうことは男爵の娘は本当は公爵と男爵の姉妹の間に生まれて、公爵家に引き取られて行くんだろうか?
前世の記憶が戻っているし、あたし(15歳)より歳上に見えるし、これから引き取られてどうやってやっていくんだろう?
男爵の娘時代に既に全員攻略しきっていたりして。
「悪役令嬢が没落回避しようとして、攻略対象者全員を逆ハーしちゃうやつね」
「書籍化される悪役令嬢愛されて困っちゃうパターンじゃなくて、web小説の悪役令嬢に濡れ衣着せて糾弾して、王子に婚約破棄させて悪役令嬢にざまあされるほうなの」
ざまあされるほうだった!!
悪役令嬢婚約破棄物って、王道立場のヒロインと話のヒロインである悪役令嬢の二つのヒロインがいるから紛らわしい。
どっちか、変えて欲しい。
それか、わかるような上手な言いかえを教えて欲しい。
「それ、ヒロインって言えるの?」
「ヒロイン様、お花畑ヒロイン、逆ハービッチ、ビッチヒロイン、原作ヒロイン、乙女ゲーヒロインとか、それ。だから私、逆ハー作らないようにするつもりよ。強制力とだって戦ってみせるわ」
「おおー」
すごい決意。
こっちのほうが飲まれちゃうよ・・・。
「ゲームの強制力も、あかねを見ていたら異世界トリップには負けるようだし、私だってねじ曲げてやるわ」
そんな決意をアリス(男爵の娘)がしているから、異世界トリップしちゃったあたしも転生者仲間としてそれに協力しようと一緒に社交界の催しに連れまわされたりしたんだけど――
いつものようにアリスと一緒に花火を楽しむ夜会に参加していたら、いきなり王子様とかがあたしたちの前にやって来て、あたしの手をつかんでアリスから引き離す。
周囲の人々は何が起こったのかわからなくて空気と化した。愛されて困っちゃう悪役令嬢も空気。
「レーズン男爵令嬢。身分を笠に来て、遠縁のアカネをイジメるとはもってのほかだ。ピスタチオ・ナッツの名において許さない」
「!!」
イジメていると名指しされたアリスは驚いている。
そりゃそうだよね。アリスは自分が逆ハービッチになるのを避けようと、王子様たちと会いそうな場所はできるだけ避けているし、彼らがいたら急いで帰ろうとしたり、食事のテーブルにしがみついて食べてる振りをずっとしてる。仲良くなるどころか、話しかけないでオーラ出しまくっている。
代わりに彼らと話す機会が増えたのは何故か、あたし。
「ちょっと待ってください! アリスはあたしの大切な友達です! そのアリスがあたしをイジメたことなんか一度もありません!」
「男爵家の遠縁だからと肩身が狭いのはわかっている。ショールを忘れたからと付けていたのを譲らされたリ、飲み物をとって来させられたリ、食事を皿に取らされたり、使用人のように扱き使われているのはカシューやアルマンドも見ている」
思い込み激しすぎ!!
「違いますから。全部間違っていますから。ショールを忘れたのは、あたしのショールが誰かに隠されてしまっていて、アリスが貸してくれたのを交互に使っていただけで。飲み物や食べ物はあたしが欲しくて、一人だと恥ずかしいからアリスの分もついでに持ってきただけで。アリスは何も悪くはありません。アリスも何、GJなんかしているのよ?! ヒロインのあんたが悪役令嬢になってどうするのよ?!」
逆ハービッチにならずにすんだだけで笑顔満面なアリス。
アリス、あんたはそれでいいの?!
アリスはアルカイックスマイルで親指を立てて見せる。
悪役令嬢にされてしまっても、逆ハービッチが回避できただけでいいらしい。
・・・ママ、異世界は怖いところです。
早く、ママのとこに帰りたいです。
続きは思いつかない限りありません。




