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邂逅の森  作者: 天竜風雅
おまけ
21/21

★挿絵有★ (SS)不良神官と神殿騎士

挿絵(By みてみん)

※この話の解釈はご自由に※



  ◆◆◆


「ここにいたのか。筆頭神官のハイプリースト=カーマインが、血相変えてお前を探していたぞ」

「……」

「どうした? 行かないのか?」

「行く必要がない。わたしがいなくても、カーマインが対処するだろう」

 黒髪の神殿騎士は一瞬肩をすくめると、背を向けたリセルが寄りかかる古びた石柱の隣に腰を下ろした。

「ここは静かで落ち着くな。大神殿にいない時、お前を探してみると大抵ここにいる。ここが好きなのか?」

「――別に」

 リセルの口調は実にそっけない。かつ、乾いていた。

 黒髪の神殿騎士は周囲を見回した。ここは今から五十年前、突如地盤が陥没したことにより崩壊した『旧』大神殿の跡地だった。

 その名残りは自分が腰を下ろしている神殿の柱のみだが、その広大な敷地の大半は木々が生い茂る森となっていた。

 新しい神殿は現在の王城の隣に移築された。この森は新しい神殿の裏側にある。

「南部の神殿から異動してきたハイプリースト=カーマインが嘆いていたぞ。まさか、自分が大神官の業務をさせられるとはと」

「わたしだって、ちゃんと仕事をこなしている。年に一度、アルヴィーズ神を喚び出して国の安寧を願っている」

「お言葉ですがリセル=アーチビショップ様。あなたはその仕事しか、なさっていないようだ」

 リセルが静かに振り向いた。けだる気に頬杖をついて黒髪の神殿騎士を見上げる。

「それが、わたしの仕事だ」

 神殿騎士は仕方がないという風に肩をすくめた。

 小さくつぶやく。

「――不良神官……」

 ふん、とリセルが鼻で笑って、再び神殿騎士に背を向けた。

「神殿まで送ります。そろそろ戻らないと、本当にカーマインが発狂してしまう」

 神殿騎士は銀の剣を持ち直し腰を上げた。

「嫌だと言ったら?」

 リセルはあいかわらず柱に寄りかかって森の緑を眺めている。

「嫌って言うか? そこで? 神官の護衛をする神殿騎士が、お前を置いて一人戻るわけにはいかないだろう」

 リセルは意外なものを見るように神殿騎士を見上げた。

「じゃ、一時間だけでいい。ここにいてくれ」

「なんだって?」

「あんたはわたしの護衛をするのが仕事だろう?」

「それは、そうだが」

 リセルは被っていた大神官の緋の帽子を放り投げ、石柱に背中を預けたまま目を閉じた。

「寝るのか! おい!」

「……眠らせてくれ。今だけ、昔のように」



  -終-

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