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第9話:包囲

 翌日。


 小鳥の鳴き声で目を覚ましたわたくしは家主様の許可をいただき、朝風呂を堪能しました。


 身を清めたあとは身だしなみのチェックです。


 鏡を覗きこんで衣装にしわがないか、お肌がくすんでないか、唇が潤っているかなどを念入りに確かめ、カミラさんにたずねます。


「わたくしに変なところはないでしょうか?」


 不安そうにこちらを見つめていたカミラさんとクリフさんは、その質問に首を傾げました。困惑しているご様子です。


「変なところがあるどころか、とても綺麗だけど……どうしてそんなことを聞くの?」

「一晩過ごして気が変わっちまったのかい? ま、それが賢明な判断さね」

「だよね。フェリシアちゃんみたいなべっぴんさんがひとりで山賊退治に行くなんて、危険すぎるよ」

「昨日は心配でなかなか寝つけなかったからねぇ。そうしてくれると安心さね」


 身だしなみを気にしているわたくしを見て、山賊退治を諦めたと解釈したのでしょう。


 常識的に考えれば、山賊退治へ向かうのに身だしなみを気にする方なんておりませんものね。


 ですが、わたくしにとって山賊退治は婚活なのです。


 結婚相手候補に会いに行くのですから、身だしなみに気を遣うのはあたりまえなのですわ。


「わたくし、婚活の旅を再開することにしましたの。変なところはないようで、安心しましたわ」


 昨夜、わたくしは軽い気持ちで山賊退治に行くと宣言しました。ですが、そのせいでおふたりを不安にさせてしまったようです。


 親切なおふたりをこれ以上心配させるわけにはいきません。


 ですので、わたくしはおふたりの解釈を否定しないことにしました。もっとも、嘘をついたというわけでもないのですが。


「それがいいさね。結婚前に怪我なんかしちゃ大変だからね」

「そうそう。せっかく美人に生まれたんだ、自分を大切にしなくちゃだめだよ」


 わたくしの言葉に、おふたりは心底安心したご様子。本当にわたくしのことを心配してくださっていたのでしょう。


 おふたりと一緒に、わたくしは家の外に出ました。


「あんたの婚活が成功することを祈ってるよ」

「またいつでも遊びに来ていいからね」


 まるで実の娘に向けるような笑みでした。


 たった1日しか過ごせませんでしたが、とても居心地が良かったですし、婚活が終わったら夫婦揃ってご挨拶に行きましょう。


「それでは行ってまいりますわ」


 カミラさんとクリフさんに見送られ、わたくしは村をあとにしました。


 おふたりの姿が見えなくなったところで、大空に向かってジャンプします。


「あれが山砦ですわね」


 うっそうと生い茂る木々の向こう――目測25㎞ほど離れた先に建物を見つけました。


 ほかにそれらしき建物は見当たりませんし、あれが山賊の根城で間違いないでしょう。


 竜の谷から村までは強者を見逃すまいと徒歩移動をしておりましたが、いまの狙いは山賊の頭領です。


 目的地が定まっている以上、徒歩移動は得策ではありません。


 山砦の方角を確かめたわたくしはバッタのようにぴょんぴょん跳びはね、30秒ほどかけて目的地に到着します。


 赤レンガ造りの円形砦は、100人ほどが共同生活を送れそうな大きさです。


 実際に何人の方が暮らしているかはわかりませんが、アーチ状の入口前には無精髭を生やした男性が佇んでおりました。


 見張りの方でしょうか? 突然空から降ってきたわたくしを見て、彼は腰に下げていた剣を抜きました。


「だ、誰だ!?」

「わたくしはフェリシアと申します」


 にこりとほほ笑んで名乗ったところ、喉元に剣を突きつけられてしまいました。


「てめえ、ハンターだな!? 俺たちを退治しに来たんだろ!」


「いえ、わたくしは通りすがりの婚活家です。ハンターなどではありませんわ」


「わけわかんねえこと言ってんじゃねえ! ハンターじゃねえなら、てめえがここに来た目的はなんだ!?」


「山賊の頭領さんと決闘をするために参りました」


「ハンターじゃねえか!」


「わたくしは婚活家ですわ」


「くそっ、話にならねえ! とにかく杖を出しやがれ! 魔法を使えないようにへし折ってやる!」


「杖なんて持ってませんわ」


「あんな登場の仕方しといて、持ってねえわけねえだろ! 渡すつもりがねえなら、その服を切り裂いて奪い取ってやるぞ!」



 わたくしは彼の手から剣を奪い取り、くしゃくしゃに丸めて捨てました。



 大事な衣装を切り刻まれるのは困りますものね。


「あ、あぅあ……」


 くしゃくしゃになった剣を見て、がくがくと膝を笑わせる山賊さん。


 怖がらせてしまったようですわね……。


 この様子では頭領さんのもとへ案内していただくことはできないでしょうし、こうなったら山砦に乗りこんで見つけだすしかなさそうです。



「いったい何事だ!?」



 山砦に踏みこもうとしたところ、怒鳴り声が聞こえてきました。


 どうやら先ほどのやり取りは屋内にまで届いていたようです。


 わらわらと飛び出してきた山賊たちに、わたくしは包囲されてしまったのでした。


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