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第6話:出発

 従兄たちと思い出話に花を咲かせていたところ、ふいに突風が吹き荒れました。


『あら、もう起きていたのね』

『早起きは感心なのだ』


 伯母さまと伯父さまが舞い降りてきたのです。


 11年前は突風に転がされてしまいましたが、いまのわたくしは魔力を使いこなせています。下半身を強化することで、踏ん張りが利くようになりました。


 いまなら竜巻が目の前を通り過ぎても、ふらつくことはないでしょう。


 ここまで成長できたのも、伯母さまが修行をつけてくださったおかげです。


「いままで本当にお世話になりました。この御恩は一生忘れませんわ」


 11年間の感謝の気持ちをこめて、わたくしは頭を下げました。


『気にしなくていいのよ。あなたは大切な家族なんですもの。それより、頑張って結婚相手を見つけるのよ』

『フェリシアの幸せを心から願っているのだ』


 温かい声援に、わたくしは笑顔で応えます。


「はいっ。必ず結婚してみせますわ! そして伯母さま方に紹介してみせます!」

『あなたがどんな相手を連れてくるか、楽しみに待っているわね』

『それまで長生きしないといけないのだ』


 お二方は妥協を勧めてきませんでした。


 きっと世界の広さを理解していらっしゃるのでしょう。


 世界のどこかに、わたくしより強い方がいらっしゃるはず。


 その方と出会うためなら、たとえ火のなか水のなか――草の根をかき分けてでも見つけだし、勝負を挑んでみせますわ!


『ところで、どこに行ってたの?』


 三郎が甘え声で言いました。


 三郎はわたくしと同い年ですが、末っ子の甘えん坊さんです。目覚めた際に両親の姿が見当たらず、不安な思いをしたに違いありません。


『これを取りに行っていたのよ』

『フェリシアを驚かせようと思って、岩の隙間に隠しておいたのだ』

『あなたのために丹精をこめて作ったわ。どうか受け取ってちょうだい』


 そう言って、伯母さまは前脚を近づけてきました。


 爪と爪の隙間に、なにかが挟まっています。


 手に取って確かめると、それは白い鱗を重ねて作った扇子でした。


 滑らかな光沢を放つ鱗は、まるで真珠のよう。その繊細な輝きを見ていると、なんだかうっとりしてしまいます。


 きっと伯母さまは、婚活の旅で疲れた心を癒やすために扇子を用意したのでしょう。その心遣いに、感謝の気持ちが止まりません。



『誰かに襲われたら、それで身を守るのだ』



 あら、武器だったのですね。


 竜の鱗は世界一の硬度を誇ると伯母さまから聞いたことがありますし、鉄扇とは比較にならない破壊力を秘めているのでしょう。


「ありがたくいただきますわ。ただ、お気持ちは嬉しいのですが、わたくしに武器は必要ありませんわ。この拳に勝る武器はありませんもの」


 わたくしはこの拳に絶対的な自信を持っているのです。この拳で砕けなかったものは、いまのところ存在しませんし。


『お前の強さは重々承知している。だからこそ武器が必要なのだ』

「どういう意味でしょう?」

『フェリシア。あなたは強くなりすぎてしまったわ。そんなあなたが拳で人間を殴れば、相手は木っ端微塵になるわ』


 まさに人間兵器。歩く核弾頭ですわ。


『正直、あなたを世界に解き放つべきかどうか迷っているの。あなたの婚活は、一歩間違えれば世界を滅ぼしかねないもの』

『だが、フェリシアを応援したい気持ちのほうが強いのだ』

『だからこそ、その扇子を渡したのよ』


 要するに『相手の身を守る』ための武器というわけですね。


「ですが、扇子で攻撃しても大差ないと思いますわよ?」

『殴るのではなく、扇ぐのだ』

『あなたなら、風圧だけで楽勝よ』


 まるで西遊記に登場する鉄扇公主になった気分ですわ。もっとも、わたくしに牛魔王のような頼もしい旦那様はおりませんけれど。


「わかりました。わたくしとしても結婚相手候補を木っ端微塵にはしたくありませんし、なるべく扇子で対処しますわ」


 そう言って、わたくしは扇子を懐に仕舞います。元々着の身着のままで旅立つ予定でしたので、旅の荷物はこれだけです。


 水と食料は道中確保するとして、問題はお金ですわね。婚活にはお金がかかるものですし、どこかで稼がないといけません。


『フェリシア。あなたは綺麗だから、たくさんの男が言い寄ってくるでしょう。そのなかには悪い男だっているでしょう。そんな男に騙されないように気をつけるのよ』

「はい。用心しますわ」


 伯母さまと約束を交わしたわたくしは、それぞれの顔を見比べながら、にこりと笑みを浮かべます。



「それでは、婚活の旅へ行ってまいりますわ!」



 そうしてお別れの挨拶を済ませたわたくしは、大空めがけてジャンプしました。


 一瞬で地面が遠ざかります。


 ぐんぐん高度を上げていき、あっという間に崖の頂上にたどりつきました。


 目の前には木々が生い茂っております。近くに生き物の気配はなく、かすかな葉擦れの音が聞こえるばかり。その静けさに心が癒やされ、深い安らぎに包まれます。


 ですが、わたくしが求めているのは癒しではなく、出会いです。


「さて。さっそく街へ向かうとしましょうか。そこで結婚相手が見つかるといいのですが……」


 どちらへ進めば街につくのか。それはこの世界の地理に疎いわたくしにはわかりませんが、歩かないことには街につくことはありえません。


 そうして、わたくしは婚活の記念すべき第一歩を踏み出したのでした。


プロローグ終了です!

次話もなるべく早くお届けできるよう頑張ります!


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