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第5話:最強

 月日が経つのは早いもので、今日この日、わたくしは16歳の誕生日を迎えました。


「ついにこの日が来ましたわ」


 今日は旅立ちの日です。


 これからお世話になった伯母さま方に別れの挨拶を伝え、わたくしは婚活の旅へと出発するのです。


 魔力の使い方はとうの昔に身につけましたし、本当はもっと早くに旅立つこともできたのですが。


 しかし16歳になるまでは竜の谷での生活を続けることにしておりました。


 この世界に結婚の年齢を定める法律はないようですが、前世では女性は16歳の誕生日を迎えるまで結婚することはできませんでした。


 その感覚が根強く残っておりますので、それ未満の年齢で婚活することに抵抗感があったのです。


 それに成熟した身体のほうが、婚活の成功率も高そうですからね。


「さて、さっそく伯母さま方に別れの挨拶をしましょうか」


 わたくしを温かく迎え入れてくださった伯母さま方とお別れするのは寂しいですが……これが今生の別れというわけではありませんものね。


 ベッドから出たわたくしは、この日のために裁縫スキルを駆使して作っておいた巫女装束のような衣装に着替えます。


 ひとの手が及ばない谷底は自然の宝庫です。木々のほかにも様々な動植物が棲息しておりましたので、材料の調達には事欠きませんでした。


 ちなみに衣装のみならず、この小屋も、ベッドも、履き物も、装飾品も、すべてがハンドメイドだったりします。


 花嫁修業で身につけた様々なスキルが、ここに来て大活躍というわけですわ。


「準備万端ですわ」


 着替えを済ませ、腰まで伸びた蜂蜜色の髪をうしろで束ねたわたくしは外へ出ます。


 小屋のそばには3体のドラゴンが仲良く身を寄せ合って寝息を立てておりました。


 伯母さまの息子――つまり、わたくしの従兄です。


 出会った頃は軽トラックほどの大きさでしたのに、いまでは4トントラックほどのサイズにまで成長を遂げています。


 ドラゴンの成長ぶりには目を見張るものがありますね。


 もちろん成長したのは彼らだけではありません。11年という歳月は、わたくしを大人の女性へと変貌させるのに充分な期間でした。


 身長は160㎝くらいでしょうか? ドラゴンと比べると小柄ですが、人間基準では平均的と言えるでしょう。


 胸もほどよい膨らみを帯び、わたくしとしては嬉しいことこの上ありません。ただ下着を作るスキルまでは身につけておりませんでしたので、型崩れしないか気がかりです。


 竜の谷を出たら街へ寄り、かわいい下着を買うとしましょうか。旅の楽しみがひとつ増えました。


 ちなみに修行を始める際に気がかりだった怪我についてですが、ミルク色の肌に傷はついておりません。


 伯母さまとの修行で怪我をすることは日常茶飯事でしたが、魔力を使えば治癒力を活性化させ、瞬時に傷を治すことができるのです。


 そう。わたくしは修行を経て、魔力の使い方をマスターしたのですわ。


 とはいったものの、ローゼスのように魔法を使うことはできませんけれど。わたくしが教わったのは、魔力を身体能力に変換する術ですので。


 わたくしの魔力を100とすると、普段は防御力に全振りしています。相手の強さに応じて、魔力を攻撃力に変換するというわけですわ。


 とはいえ伯母さまいわく、わたくしの潜在魔力は凄まじかったようで、攻撃に5振ればホワイトドラゴンの力を上回ることができるとのこと。


 11年前は為す術なく拘束されてしまいましたが、いまなら攻撃に1振れば、ローゼスの魔法に勝てるでしょう。


『『『ふああ~……』』』


 わたくしが思案に耽っていると、従兄たちが目覚めました。


「おはようございますわ」


 目をしょぼしょぼさせる従兄たちに、にっこり笑って挨拶をします。


『おはよう』

『早起きだね』

『あれ? お母さんとお父さんは?』

「わたくしがここに来たときから姿が見えませんわよ。別れの挨拶をしたいのに、どこへ行ったのでしょうね?」

『フェリシア、もう出発するの?』

『寂しくなるね』

『ずっとここにいればいいのに』

「そうはいきませんわ。わたくしは婚活の旅に出ると決めたのですからね。必ずや、わたくしより強い方と結婚してみせますわ」



『じゃあ結婚はできないね』



 三郎が言いました。


 ドラゴンは名前をつける習慣がないらしいので、便宜上彼らのことは一郎・二郎・三郎と呼ぶことにしているのです。


「なぜ結婚できないと思うのです? わたくしはそんなに魅力がありませんか?」

『違うよ。フェリシアはすごく可愛いよ』

『僕もそう思う。フェリシアを見てるとドキドキするもん』

『そうだね。もう餌だなんて思えないよ』

『違う意味で食べちゃいたいけどね』


 伯母さまがいないのをいいことにセクハラ発言をする二郎。


 それを無視して、わたくしは問いを続けます。


「なぜ結婚できないと思ったのでしょうか?」

『だって、フェリシアは自分より強いひとと結婚したいんでしょう?』

「種族は問いませんけどね」

『そうは言うけど、この世界で一番強い種族は僕たち白竜族なんだよ?』

『そんな僕たちでさえ、フェリシアには歯が立たないんだ』

『フェリシアに勝てる生き物なんて、どこにもいないよ』

「つまり、妥協しろと言いたいのですか?」

『そういうことだよ』

『妥協しないといつまで経っても結婚できないよ』

『フェリシアは可愛いから、それさえ妥協すれば結婚相手なんてすぐに見つかるよ』


 確かに、わたくしは結婚したいと強く思っております。


 ですが、誰でもいいというわけではありません。


 わたくしは守られたいのです。


 守られて、キュンとしたいのです。


 キュンキュンしながら、ラブラブしたいのです。


 助けてもらったお礼にキスをして、イチャイチャしたいのです。


 そんな前世からの夢を叶えるためには、結婚相手はわたくしより遙かに……とまでは言いませんが、とにかくわたくしより強くないとだめなのです。


「世界は広いですわ。きっとこの世界のどこかに、わたくしより強い方がいらっしゃるはずですわ」


 従兄たちの言う通り、条件に一致する方と巡り会うのは難しいかもしれません。


 ですが、条件を変えるつもりはありません。


 世界のどこかに、わたくしより強い方が――理想の、いえ運命の結婚相手がいらっしゃるはず。


 その方との出会いを求めて、わたくしは婚活の旅に出るのです。


次話でプロローグ終了です。


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