第24話:離別
御前試合が終わり、あっという間に5日が過ぎました。
今日は旅立ちの日です。すっかりお気に入りになってしまった王都一の飲食店でランチを済ませたわたくしは、シエルさんとスウスさんとともに列車乗り場を訪れます。
王都での婚活が失敗に終わったため、活動拠点を移すことにしたのです。
次こそ理想的な結婚相手に巡り会えるといいのですが……果たしてどうなることでしょう。わたくしには信じることしかできません。
「あっ、フェリシアお姉ちゃんだ!」
「ほんとだっ」
列車を待つ傍ら、婚活の成功を祈っていたところ、子どもたちが駆け寄ってきました。小さな手には、扇子が握られております。
御前試合が終わったその日を境に、扇子は人気商品になりました。特に幼子を中心に流行っているようで、これまで涼具の一つに過ぎなかった扇子は、いまではヒーローアイテムのような扱いを受けているのです。
「あのっ、サインくださいっ!」
「ここにサインもらえると嬉しいですっ」
子どもたちが扇子を広げて向けてきます。
御前試合にて優勝したことで、わたくしは子どもたちの間でヒーロー的存在になったのでした。
「ええ、構いませんわよ」
サインを記したところ、満面の笑みを向けられます。
「ありがとうございますっ!」
「宝物にしますっ」
子どもたちはご両親のもとへ駆け戻り、嬉しそうに扇子を見せつけます。ご両親はそんな子どもたちを見つめ、慈愛に満ちた笑みを浮かべるのでした。
幸せを絵に描いたようなご家族を見て、結婚欲が高まるわたくしです。
わたくしも理想の結婚相手と巡り会い、素敵な家庭を築きたいですわ……。
もっとも、結婚相手が女性あるいは人外だった場合、子どもはできないのですけれど。そこは愛の力で乗り越えようと思います!
「姉御、大人気っすね!」
「優勝したっていうのもあるけど、なにより一撃で勝ったのが人気の最大要因だよね」
「いっそ清々しいまでの力量差だったっすからね!」
「ヴィオラさんにはなんの恨みもないけど、見ててスカッとしちゃったわ!」
4年に一度の御前試合を一瞬で終わらせてしまい申し訳なく思っておりましたが、楽しんでいただけたようでなによりです。
陛下にもご満足いただけたようで、ご褒美をいただきました。
大金です。
これだけあれば数年は働かずに婚活できるでしょう。
もちろん、お金があるからといって長々と婚活を続けるつもりはありません。
できることならいますぐにでも結婚したいと思っておりますし、上手くいけば今週中には結婚できるはずなのです。
なぜならこれから向かう先には、陛下が『国内最強』と太鼓判を押す人物がいらっしゃるのですから。
そう――。わたくしは次の婚活相手を誰にするか、すでに決めているのです。
ヴィオラさんに聞いたわけではありません。できればお話を伺いたかったのですけれど……運営さんいわく、いつの間にか医務室から消えていたらしいのです。
しかし、わたくしは慌てませんでした。
と言いますのも、1次予選の場にて運営さんが『4大会連続でハイレベルな試合が行われた』と仰っていたことを思い出したのです。
つまるところ、次の婚活相手は『過去の優勝者』というわけですわ。
とはいえ自力で居場所を探るのは難しいため、陛下に過去の優勝者についてお聞きしてみました。その結果、『居場所が明らかなのは3連覇を果たしたリンクスのみ』との情報が手に入ったのです。
4大会前――。16年前の優勝者もかなりの強者だったそうですが、わたくしと同じく旅人だったらしく、いまどこでなにをしているのかまったくわからないとのこと。
ゆえに、次の婚活相手はリンクスさんに決まったのですわ!
「そのリンクスって奴は、今回出場してなかったっすよね?」
「ですわね」
「優勝するのに飽きたんすかね?」
「どうでしょう」
前人未踏の3連覇を成し遂げたリンクスさんが1次予選で敗退するとは思えません。なにか事情があって参加を見送ったか、あるいは病にかかったか、それともお亡くなりになっているか……。
それを確かめるべく、リンクスさんの住まう港町フランコへ向かうのですわ!
「今回も道案内、よろしくお願いしますわね」
わたくしは最近になってこの国が島国だと知ったくらい世界の地理に疎いので、シエルさんが旅に同伴してくださって本当に助かっております。
「もちろんっす! フランコに行くのはひさびさっすけど、場所はちゃんと覚えてるっすからね! 大船に乗ったつもりでいてほしいっす!」
シエルさんは大陸の出身らしく、3年前に親元を離れてこの国へとやってきたそうです。その際、最初に降り立ったのが船着き場のあるフランコだったのです。
ちなみに、この場にいないアルザスさんですが、彼は御前試合が終わったその日にフランコへと旅立ちました。
どうやら修行の場を大陸へ移すそうなのです。初の海外旅行らしく、どことなく緊張しているご様子でした。
大陸に比べると、わたくしが生まれ育ったこの国はちっぽけです。きっと大陸には強者がごろごろといらっしゃるのでしょう。ひょっとすると、世界最強の方は大陸にいらっしゃるのかもしれません。
けれど、わたくしはリンクスさんこそが世界最強だと信じております。
だからこそ、フランコへ向かうのですわ!
「フランコの魚料理はめちゃくちゃ美味いっすからね! それだけでも行く価値があるっすよ!」
「まあっ、それは楽しみですわね。お金はありますし、好きなだけ召し上がってくださいね」
「ほんとっすか!? ますます楽しみになってきたっす! お金を落とさないように気をつけるっすよ!」
シエルさんは足腰を鍛えるため、荷物持ちを買って出てくださいました。大きく膨らんだリュックのなかには衣類や保存食のほか、目がくらむほどの大金が入っているのです。
紛失すれば一文無しになってしまいますが、シエルさんになら安心してお任せできますわ。
「あっ、そろそろ列車が着くみたいっすよ!」
アナウンスが響き、シエルさんは急にそわそわします。
それと同時に、スウスさんが悲しげな瞳を向けてきました。
「じゃ、そろそろお別れだね」
スウスさんは旅に同伴しないのです。これからザライさんの館がある町へ戻り、ハンター活動を再開するのだとか。
「短い間だったけど、ふたりと旅ができて楽しかったわ。婚活が成功したら、結婚式に招待してくれると嬉しいかな」
「もちろんご招待しますわっ。だってスウスさんは大切なお友達ですものね」
「フェリシアさんみたいな友達ができて、なんだか誇らしいわ。シエルちゃんも修行頑張ってね!」
「もちろんっすよ! 頑張って修行して、いつの日か世界最強になってみせるっす!」
力強く宣言するシエルさんに、スウスさんはにっこりと笑みを浮かべます。
そうしてスウスさんと笑顔でお別れしたわたくしたちは、フランコ行きの列車に乗りこんだのでした。
御前試合編完結です!
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