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第2話:条件

 魔法製のツタに拘束されたわたくしは、ローゼスに担がれて屋敷の外へ連れ出されます。


 夜空には二つの月が寄り添うように輝いておりました。


 あぁ、羨ましい。わたくしもいつかはああやって恋人に寄り添いたいものですわ。


 ぽいっ。


 淡い夢に耽りながら馬車に投げ入れられるわたくし。身体は頑丈にできていますが、5歳児なのですからもうちょっと丁寧に扱ってもいいと思います。


「さあ、出発するのだ!」


 車内から指示を出すローゼスに、御者はムチの音で応えます。


 しっかりと躾けられているのか、馬はいななくことなく前へと進み始めました。


 がらがらと車輪の回る音が、広めの車内に響きます。


 詰めれば8人ほど座れそうなものですが、乗客はわたくしを含めて3人しかいませんでした。ローゼスのとなりに、衛兵隊長が座っています。


 わたくしはというと、ツタに拘束されておりますので座ることが難しく、座席に寝転がることを強いられております。


 そしてわたくしの対面では、ローゼスがそわそわと足を揺すっておりました。お行儀の悪さでは、わたくしと良い勝負ですわね。


「……」


 ローゼスはあくびを噛み殺しております。車外からは車輪の音しか聞こえてきませんし、街の皆さんはとうに寝静まっているのでしょう。


 まったく、眠いならわざわざついてくることはありませんのに……。きっとわたくしが竜の谷に捨てられる瞬間を見届けないことには、不安で夜も眠れないのでしょうね。


 その一方で、わたくしに不安はありません。それどころか、わくわくしてしかたがないのです。


 強がっているわけではありませんよ? 


 あのまま屋敷に幽閉され続けるより、竜の谷に捨てられたほうが結婚のチャンスがあると判断したまでのこと。


 ローゼスの口ぶり的に、竜の谷に人里があるとはとうてい思えませんけれど……わたくしにとって理想の結婚相手とは、人間に限らないのです。


 わたくしの理想は今も昔も変わらず『いついかなるときもわたくしを守ってくださる騎士のようなお方』ですからね。


 トラックにはねられて死んだことで、その想いはいっそう強まりました。



 つまり、わたくしが結婚相手に求める条件は『フェリシア・メイデンハイムより強い』ことだけなのです。



 それさえ守っていただけるなら、ほかにはなにも望みません。


 条件に一致さえしていれば、種族も性別も問わないのです。


 もちろんコミュニケーションが取れるに越したことはありませんし、人間の男性であることが最も望ましいのですが。


 あまり条件を厳しくしすぎると、婚期を逃してしまいそうですものね。


 わたくしより強い方なんて、この世にごまんといるでしょう。


 もっとも、前世のように結婚前に命を散らすわけにはいきませんので、わたくしも身体を鍛えたほうがいいでしょう。


 いまでも充分強いと自負しておりますが、ローゼスの魔法に為す術なくやられてしまいましたもの。


「ふん。これで貴様もおしまいだ」


 ローゼスが勝ち誇った顔で言ってきます。


 きっと彼は、わたくしが恐怖に震えていると思っているのでしょうね。


 彼がわたくしの本当の気持ちを知ったら、どんな顔をするでしょうか。


 わたくしは出会いを求めに竜の谷に行くのです。


 わたくしにとって竜の谷は、婚活パーティの会場なのです。


 そう伝えてやりたいですが、ツタは口まで侵食しています。


 しゃべることもできず、車内の窓はカーテンに遮られてしまいました。特にやることもありませんし、夜更かしは美容の大敵です。ひとまず寝るとしましょうか。


 ここから竜の谷までどれほどの距離があるのかはわかりませんが、到着したら叩き起こされるでしょうからね。


次話は0時頃投稿予定です。

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