第13話:接待
シエルさんに案内されてギルドへ到着したわたくしは、さっそく重厚な扉を開け、なかへと踏みこみます。
「なんか酒場みたいっすね」
「酒場を改装したのでしょうか?」
ふたりしてそんな感想を抱くくらい、ギルドは酒場然としておりました。
とはいえそれは内装に限った話。本当にお酒を提供しているわけではなく、店内にいらっしゃる方々は酒気ではなく強そうな雰囲気を漂わせておりました。
結婚相手候補がこんなにいらっしゃるなんて……!
はしたないと思いつつも、強そうな方々に目移りせずにはいられません。
ですが、わたくしの狙いは用心棒のアルザスさん。その方こそが運命の結婚相手だと信じ、手当たり次第に婚活を挑むのはやめておきます。
「こんにちは! 本日はどうされましたか?」
カウンターへ足を運ぶと、受付嬢の方が丁寧に対応してくださいました。
「わたくしたち、ハンターになりたいのですが」
「ハンター志望の方ですね! それでは会員証を発行いたしますので、まずはこちらに必要事項をご記入ください!」
受付嬢さんが差し出してきた用紙に名前・年齢・持病の有無などを記入し、お返しします。
「フェリシア様とシエル様ですね! それではこちらが会員証のギルドリングになります!」
星の刻印が施された腕輪を手渡されました。
「それでは簡単に当ギルドの説明をさせていただきます!」
腕輪を装着したところ、受付嬢さんが歯切れの良い口調で説明を始めます。
「当ギルドは様々な方から寄せられたご依頼をハンターのみなさまに斡旋する施設です! 依頼内容は多岐にわたりますが、一つ星ハンターの方ですと簡単なものしか受けられませんのでご注意ください!」
星の数はハンターのランクを意味しております。
依頼を解決して成果を上げることで星の数が増えていき、最高で七つ星にまで昇格できるのだとか。
「依頼を受ける際に契約金を支払っていただく場合もあります! そうした依頼は先着順となりますので、定期的にうしろの掲示板をご確認することをお勧めしております!」
契約金が発生する依頼には、あらかじめ人数制限が設けられているのだとか。
もっとも、一文無しのわたくしは契約金すら支払うことができませんので、必然的に受注できる依頼は限られてきます。
「説明は以上となります! 詳細はこちらの冊子に記しておりますので、ご不明な点がございましたら、そちらのほうをご確認ください! それではお二方のご活躍を期待しております!」
受付嬢さんの丁寧なご説明に、自然と頭が下がります。
「姉御っ、姉御っ! さっそく依頼を受けるっすよ!」
張りきるシエルさんを見ていると、やる気が湧いてきます。
「所持金はありませんし、契約金が発生しないものを探しましょうか」
「りょーかいっす!」
心を一つにしたわたくしたちは、さっそく掲示板のほうへ向かいます。
掲示板にはびっしりと紙が張り出されておりました。赤と青の二色あります。なにが違うのでしょうか?
色分けの意味を確かめるべくパラパラと冊子をめくっていると、シエルさんが感心したような声をもらします。
「うっひゃぁ~……これ全部依頼っすか? いっぱいあるっすねぇ。このなかからいい感じの依頼を見つけだすのは骨が折れ……あっ、これよくないっすか?」
シエルさんは早くもいい感じの依頼を見つけたご様子。わたくしの袖を引っ張り、青い紙を指さします。
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☆迷子猫捜し
必要ランク:一つ星以上
依頼内容:迷子猫の捜索
成功条件:迷子猫をギルドへ持ち帰ること
成功報酬:3000コル/30ポイント
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備考欄には迷子猫の名前、特徴、予想される行動範囲、似顔絵などが記されておりました。
広い街から一匹の猫を見つけるのは時間がかかりそうですが、命の危険はありませんし、初心者に優しい依頼と言えるでしょう。
ちなみに小冊子によると、ポイントというのはランクを上げるために必要なものらしく、1000ポイント集めることで二つ星ハンターに昇格できるのだとか。
「決めた! あたしはこれにするっす! 姉御はどうするっすか? 一緒に猫を捜すっすか?」
「そうですわね……」
手分けして捜せば日が暮れるまでには見つかるかもしれませんが、ふたりで日給3000コルは稼ぎとして少ない気がします。
迷子猫が見つからなかったときのことを考えると、別々の依頼を受けたほうが無難でしょう。
などと黙考しつつ掲示板を眺めていたところ、とある依頼が目に留まります。
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☆要人の接待
必要ランク:一つ星以上
依頼内容:要人の接待
成功条件:依頼人のサインをギルドへ持ち帰ること
成功報酬:100000コル/10ポイント
備考:16歳~22歳の女性限定(ザライの館にて面接有り)
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赤い紙にはそのような内容が記されておりました。
小冊子によると『受付期限が迫っている依頼』はハンターの注目を集めるため、赤紙に記されるのだとか。
そしてわたくしが見つけた接待の依頼は、今日が受付の締切日でした。
「わたくし、これに決めましたわっ」
成功報酬もさることながら、なんといっても堂々とアルザスさんにお会いできるというのが魅力です。
同じ婚活でも殴りこみより、職場恋愛のほうがロマンチックですものね。
問題は服装ですが……接客業ですし、きっと制服が支給されるでしょう。詳しいことは面接の際に質問してみることにします。
「うわぁっ、報酬が桁違いっすね! あたしもそっちに……あっ、無理っすね。年齢制限で弾かれちゃうっす……」
シエルさんは残念そうに眉尻を下げました。ちなみに彼女は15歳。わたくしより一つ年下なのです。
「あたしはおとなしく猫を捜すっす!」
「では、わたくしは面接会場へと向かいますわ」
いまから行けば少し待つことになりますが、余裕を持って行ったほうが心証もいいでしょう。
「姉御、ひとりで館まで行けるっすか?」
シエルさんが期待するような眼差しを向けてきます。
一応、ギルドから館までの道のりは記されておりますが、わたくしはこの街に詳しくありません。案内人がいたほうが心強いです。
「案内していただけると助かりますわ」
「もちろんっす!」
シエルさんは嬉しそうにお顔を輝かせ、力強くうなずいてくださいました。
本当に頼もしい弟子ですわ。無事に報酬が手に入ったら、なにかプレゼントして差し上げたいですわね。
そうして依頼を受けたわたくしは、シエルさんに導かれ、面接会場へと向かったのでした。




