九話
「そのお兄ちゃんは、どこにいるの?」
「ここにいるよ」
「ここにいるって、まさか、この俺のこと?」
「そうだよ」
幸雄は笑っている。
(冗談じゃないぜ、雪子の食べ物さえないのに、ただ、お隣というだけで、俺の方にかかってくるなんて)
そう思いながら、幸雄を見ると
「お兄ちゃん」
と、胸にしっかりしがみついて来ます。
こんな手を、どうして振り払う事が出来るだろう。
先は先だ。
なんとかなるさ。
三人で缶詰を食べていると、誰かが戸を叩きます。
悟が戸を開けると、幸雄の母さんそっくりの人が立っています。
悟は見た瞬間、幽霊が出たと思いました。
幸雄に逢いたいばかりに霊が出た、こんな昼間から出るわけない!?
「あのー、お尋ねしたいのですが、、、」
その幽霊が話しかけます。
「私は、隣のホンダの妹ですが、姉や義兄をご存じないでしょうか?」
「お隣の本田さんの妹さんですか、あまりによく似ていらしたので、びっくりしました。幸雄ちゃんがここに、、、」
「あら、ゆきおなの、こんなに大きくなって、赤ちゃんの時に見ただけで、こちらが大変だと聞いて、駆けつけたのですが、姉たちをご存知ありませんか?」
「本当にお気の毒ですが」
「亡くなったのですか?」
「はい」
「二人とも?」
「はあ、お気の毒ですが、この辺りは、被害がひどくて、私たちの両親も亡くなりました」
「そうですか、本当にお気の毒です。何といってお慰めしたらいいか言葉がありません。本当に大変だったのですね」
と、慰めの言葉を言ってからあ、焼け野原に目を移しました。
悟もその方を見ながら、
「気が付いた時には火の海でした」
「そうですか」
しばらく、誰もが、物思いに沈んでいました。
その静けさを破るように
「私は、姉より早く結婚しましたが、いまだに子宝に恵まれません。幸雄ちゃんを、我が子として、また、姉の形見として、大切に育てていきたいと思いますが」
本田さんの姉妹は、双子の姉妹だけあって、本当によく似ていましたので、幸雄を渡すにしても、悟は安心して渡す事ができました。
幸雄にとっても、母さんそっくりの人に育てられれば、きっと幸せになれるとも、思いました。
幸雄はこのようにして引き取られていきました。




