七話
悟は、思い出したように呟きました。
「お母さんを山の上に置いてきたよね、うちの庭に埋めなおそうね、雪子」
「そうね、その方が母さんも喜ぶわ、だって、自分の家の庭だもの、山の上にぽつんと一人でいるより余程ましだわ」
「あゝ、そうだよね」
初夏の日は暑かった。
汗びっしょりかいて山に着きました。
広い山の中でしたが、大事な母さんを埋めただけあって、すぐに解りました。
小枝を払いのけると、母さんの姿が見えてきました。
悟は背中におんぶしました。
思いとも軽いとも思わない、何の感覚もないのが不思議です。
母さんは小型ですので大柄な悟の背中にはすっぽりと入り込んでいます。
悟は、とぼとぼ歩きましたが、家につくまで誰とも合わなかったのが幸せでした。
家の庭の木には歯もなく、樹だけ黒くくすぶりながら立っていました。
その木を手で払いのけ、悟は土を掘りました。
野犬に噛まれないように深く掘りました。
やたらと汗が流れます。
土のついた手で汗を拭くと、顔は泥だらけです。
悟の顔は、おかしい顔をしているのですが、母が元気でいるなら、雪子はその顔を見て笑ったでしょう。
「お兄ちゃんの顔は傑作だ」
と、言って、声高に笑ったでしょう。
しかし、今の雪子は、何もかもが悲しく見えます。
そして、泣き叫びたい気持ちでした。
「お兄ちゃん、雪子もお母さんと一緒に埋めて」
と、言って、悟を困らせました。
お母さんに、花を供えようにも花もなく、お数珠もなく、ただ手を組ませるだけで、土の中の人となっていきました。




