四話
このような中でも、梅干しが一個入った、麦ご飯の大きなおにぎりが、一個ずつ配られました。
(こんな大変な時に、誰がおにぎりを作ってくださったのだろう)
と、感謝しました。
母さんが横にいて、さあ、おあがり、と手渡してくれたおにぎりなら、ぱくぱく頬張り笑顔を見せて食べたであろう。
しかし、悟も雪子も、おにぎりは喉を通りません。
「雪子、おにぎりは、オオバコの葉に包んで持っておこうね」
「うん、そうしよう」
雪子は、オオバコの葉に、おにぎりをくるくると包みました。
夜になりました。
それでもお父さんは来ません。
「雪子、父さんを捜しに行こう。父さんは仕事が忙しいんだよ。父さんの会社へ行ってみよう。」
「うん、行ってみよう」
雪子は、首をこっくりと動かしました。
悟は雪子の手を引いて、父の会社へと急ぎました。
幸いなことに月が出ていました。
月明かりに照らし出される町は、焼け野原でした。
何処に会社があったのか、見当がつきません。
まだ、完全に遺体は集められていません。
あちら、こちらに、遺体が転がっています。
月の光が不気味に、遺体を青白く照らし出しています。
遺体がにゅうっと起きて、歩き出し、襲いかかってくるようで恐ろしいとも思いました。
でも、父を恋しく思う気持ちが強く、怖い気持ちは吹き飛びます。
遺体の横を通り、燃え残りの木や板を足蹴りして、お父さんの会社へと急ぎました。
「お父さん、お父さん、お母さん死んじゃったのよ」
二人の胸は、張り裂けんばかりに叫んでいます。
あまりにも悲しくって、涙がぽたりぽたりと落ちます。
雪子が、ぽつんと呟くように
「お父さんもお母さんと同じようになったのかな」
と、涙の顔をくしゃくしゃにして言いました。
「お父さんは、死んだりなんかしやしないさ。会社の仕事が忙しいだけだよ。お父さんは殺されたって死んだりはしないよ」
悟は自分自身に言い聞かせるように言いました。
そのように考える事で、不安を取り除こうとしました。




