三十三話
雪子は、今まで高杉先生を同じ職場の先輩としてしか、見ていませんでしたが、今からは男として見なければならないと思うと、気が重くなるのです。
どうしても先生を意識するのです。
しかし、何かにつけて、優しくしてくださる先生が、亡き父に似ているように思い始めました。
少しづつ心の中のつぼみが、ふくらみかけました。
暖かい花のふくらみは、高杉先生の誠意によって、花咲こうとしていました。
そんなある日、雪子は準夜勤務でナースステーションに一人でおりました。
そこへ高杉先生がやってきて
「雪子さん、貴方は、何日、僕に返事をくれるのですか。待つ身は辛いです」
「先生のようなご立派なお方には、私のような者より、もっと、良いお方がいらっしゃるのではないかしら、などと思ったりします。そして、私が先生を不幸にしないだろうか、と考えたりするのです」
「それは、僕のプロポーズを、断っていらっしゃるのですか?」
「いいえ、そういう訳ではありません」
雪子は慌てて否定しました。
「それでは、僕が貴方より立派だとおっしゃるのですか?」
「はい」
「僕はそのような事を聞いているのではありません。雪子さんは僕が嫌いですか?」
「好きです。大好きです」
雪子は、自分の勇気に自分でびっくりして、慌てて、右手で口を塞ぎました。
その格好が愛らしく、高杉先生にはうつりました。
高杉先生は、辺り構わず雪子の手を握りしめました。
雪子は、訳もなく涙が出るのです。
(こんな幸せになってもいいのだろうか)
そんなに思ったりします。
あまりにも幸せ過ぎて、後に来るものは、不幸しかやって来ないような気がしたりするのです。
「どうして泣くのですか?」
「嬉し涙です」
「雪子さん、ありがとう」
高杉先生は、雪子を胸にしっかりと抱きしめました。
「でも、先生、結婚となると一生のことです。もう少し待ってください」
「うん、仕方ないね、何と言っても一生の事ですからね。そういう事にしましょう」




