二十六話
外来の診察室に先生の母さんは、患者として入って来ました。
「あのう、看護婦さん」
「はい」
「貴女は、何処の高看ですか」
雪子は、変な患者さんだな、と思いながらも
「地元です」
「ああ、地元の高看ですね。お兄さんと二人で暮らしていらっしゃるとか」
「あのう、どうして、その事をご存知なのですか」
先生の母さんは、とんだ事を言ってしまった、と思いましたが、言葉を濁しながら
「いや、その、ちょっと、そこで聞いたものですから。お兄さんは自衛隊さんとか」
「はい、そうですが、それで何か?」
「いや、いや、そうですか、それでお兄さんの位は?」
「位ですか?」
雪子には、ピンときませんでした。
しばらく考えてから
「あっ、一尉です」
「大尉さんですね、それで、お兄さんのお年は?」
「はい、三十歳です。あのー、患者さんは何処がお悪いのですか?」
プライバシーを色々聞く患者さんは、初めてですので、首を傾げながら相手をしています。
そういう雪子を見て、先生の母さんは
「あのう、私、時々、頭が痛むのです」
「頭ですか?」
「はい」
「その他に、何処が痛みますか?」
心から心配そうな顔で見る瞳の澄んだ美しさに、先生の母さんは
(これは、上玉だ、息子もなかなか目がある。あの子にしては上出来だよ。雪子さんは優しい人だよ。病気に関係のない事ばかり聞いても、嫌な顔一つせずに、体の事を案じてくれる、素晴らしい人だ)
先生の母さんは、心から気に入りました。
その時、高杉先生が雪子を呼びました。
「はい、先生、何でしょうか?」
「すまないが、宮城京子さんの検査の結果が知りたいのですが、検査科へ行ってもらって来てください」
「はい」
雪子は変な患者さんとは思いましたが、一礼して検査科へと急ぎました。
「母さん、どうです?」
高杉先生は、少しでも早く返事を聞きたがっています。
「お前は、確かに目が高い、いい娘さんじゃないか。あんな無鉄砲なことを言ったのに、嫌な顔一つしない、近頃には珍しい娘さんだよ。あの子だったら、きっと、私の良き子供になるよ」
「母さんありがとう」
「うん、うん」
と、頷きながら、高杉先生の母さんは、満足そうに、にこにこして帰って行きました。




