二十五話
悟も雪子も、苦労の結果、立派な人間に成人し、花の青春の真っただ中にいました。
雪子は、国立病院の外科勤務をしておりました。
美しい雪子は、先生方に人気がありました。
同じ外科に勤める高杉先生は、雪子を一目見た時から思いを寄せ、高鳴る胸をどうする事もできずに苦しんでいました。
雪子がそばにいると、カルテを書く手が震え、自分でも情けなくなる高杉先生です。
雪子は、それに気付く余裕などありません。
仕事と人に慣れるのに懸命です。
気づかない雪子に、イライラしながらも、思いは募るばかりの高杉先生です。
自宅へ帰った高杉先生は
「母さん、話があります」
「あら、まあ、あらたまって、何の話し?そんなにかしこまられると恐ろしいよ』
「母さん、真面目な話です。僕、結婚したい人が出来ました」
「そう、どこのお嬢さん?」
「看護婦さんです」
「お前、この前言っていた、あの戦災孤児ではないだろうね?」
「戦災孤児、戦災孤児と言わないでください。母さん、あの人達だって、好きで孤児になったわけではないのですよ」
「しかし、ねえ、親のない子供なんて皮肉れているよ。きっと、どうしようもないような人ではないの?お前のような立派なお医者様には、どこからでも良い縁談があるよ。選りも選って、何処の馬の骨ともわからないような、娘を嫁にしなくったって、いいじゃないか。そして、そのような人間を自分の子供だと思いたくないよ。それにねえ、この家は先祖代々、、、」
「先祖は、百万石の家老だって言いたいのでしょう。今、それが、何の役にたちますか、何の役にもたちません。それより、気立てが優しくって、苦労にも打ち勝って、人間らしく貫いた人が、よほど偉い人だと思います。そのような人が、立派な子供を育てる事が出来ますよ。昔のお姫様が何ですか、贅沢に慣れきって、わがままいっぱいに育った人なんか僕はごめんですよ。雪子さんは、何も言いませんが、人の話によると、雪子さんのお父さんはS建設会社の社長さんで、総合病院も建てられた人です。だから、雪子さんは、馬の骨とは違います」
「しかし、今は看護婦なんだろう。看護婦なんかより、もっと、良家のお嬢さんがいいだろう」
「母さんの考え方は古いよ。昔は看護婦さんの地位は低かったけど、今は違いますよ。看護婦さんがどんなに素晴らしい仕事をしているか、母さんは解っていないのですよ。どうかした医者より看護婦さんの方が立派だと思う事があります。雪子さんは苦しんでいる患者の為に、骨身惜しまず一生懸命に、献身的に尽くす人なんですよ。まるで、ナイチンゲールを目の前に見ているようですよ」
「そうかい、お前がそれほどまでに言うのなら、母さん、雪子さんに会ってみようかな」
「本当ですか、母さん、是非見てやってください」
「雪子さんに、わからないように会うにはどうしたらいいかね」
「そうですね、明日、僕は外来です。雪子さんも外来です。善は急げと言います。明日母さん、患者として病院に来てください」
「お前も相変わらず気がはやいね、明日とはね」
「それは、そうですよ。人に取られないかと気が気ではないのですよ」
「はい、はい、解りました。しかし、善と出るか悪と出るかは、明日、私が会ってから決めることですからね」
「はい、解っております」




