二十二話
さっきのアメリカさんが毛布や缶詰を持ってきてくれました。
悟も雪子も、心から感謝しました。
喜ぶ二人を見て、アメリカさんは、満足そうに、ニコニコしながら帰って行きました。
「お兄ちゃん、アメリカさんって神様みたいな人なのね。ひょっとしたら、神様のお使いかもね」
「本当だね、僕たちにとって、あの人は神様だよ。こんな大変な時に助けてくれたんだから」
(地獄に神とは、このような事をいうのだろう)
悟は、独り言のようにつぶやきました。
二〜三日は、手持ちのお金で何とかなりましたが、手持ちのお金は、減っていくばかりで不安です。
(このお金が無くなった時、僕たちは飢えて死んでしまうのだろうか)
不安が神経をイライラさせるのです。
そんな時ふうっと浮かんでくるのは、あのアメリカさんの笑顔でした。
良い人だった。
(明日、艦に乗りますので)
と言って、にっこり笑う、あの清々しい笑顔が余韻となって、悟の胸を温めました。
半年前までは、敵として戦っていたアメリカさんなのに、時の流れとは本当に有難い。
今は、グッドフレンド、いや、僕たちにとっては、ゴッドの存在だと思いました。
悟は、頭を横にぶるんぶるんと振って、現実に戻りました。
(今から、どうやって食べていくかを考えなければいけない)
自分の心にぶち打ってみましたが、働く場所もなく、途方にくれるばかりでした。
小屋の中ばかり居ても、良い考えは浮かんでこない。
外に出てみよう。
気が遠くなりそうな、自分を取り戻そうと、外に出て見ました。
外に出ると、まばゆいばかりの太陽の光が、頬を温めてくれます。
「何と良いお天気だろう。雪子、来てごらん、素敵な空だよ」
「まあー本当、透き通った青空ね、何と暖かいのでしょう。もう、春まじかね」
「うん」
悟は、空虚な返事をしました。
さっきまでは、空の美しさに心引かれていましたが、現実の空腹は、自然の美しさでは、どうにもなりませんでした。
(外はすっかり春というのに、自分の懐は厳しい真冬だ)
と思うと、虚しい風が胸を締め付けます。
人の気配を感じて、その方を見ますと、二〜三人の人が、大きな風呂敷包みを、背に担いで通り行きます。
それを目の当たりに見た悟は、ピリピリと閃きました。
(そうだ、僕もあれをやろう)
それは、ヤミ市の仕事です。
ヤミ市は儲かると聞いていた悟でした。
(あれなら雪子に、腹一杯飯を食べさせることが出来そうだ)
暗闇の中の一点の光が、悟を元気付けました。
やってみないと解らないが、とにかく一生懸命でやってみよう。
と、決心を新たにする悟です。
人の噂どうりヤミは儲かりました。
面白いほどのお金が入ってきました。
やっと、二人に幸せの女神が微笑みかけました。
こんなに金になるなら、叔父の家をもっと早く出ていればよかった。
と愚痴ぽく思って苦笑することもありましたが、叔父の家での苦労が二人を大人にしたのでしょう。
悟は、たくましい青年に成長し、朝早くから夜遅くまで働きに働きました。
雪子はまだ、十一歳なのに、主婦の仕事をやってのけました。
その甲斐あって、立派な家を建てることが出来ました。
家と一緒に仏壇を買うことも忘れませんでした。
そして、片時も忘れたことのない、両親をお祭りしました。
「お兄ちゃん、お父さんもお母さんも、やっと天国へ逝けたって感じね。そして、こんな立派な家が出来たのも、お兄ちゃんの努力もあるけど、お父さん、お母さんが見守っていてくれたからよね」
「そうだね、僕たちの事をやっぱり、ちゃんと見守ってくれたんだよ。天国にも行けずに、僕たちの側にいてくれたんだよ。今度は天国に行ってもらおうな」
「うん、そうよね」




