十六話
火葬場に行った二人は、長い煙突から出る無情の煙を、、、
母は煙となって昇天し骨に変身するのだ、と、ぼんやり眺めていました。
話す元気もなく、涙も枯れ果てて見ていました。
母の遺体を胸にした悟は、父の骨のことを思いました。
父の骨をもらいに来るように言われた時、どうしても貰いに行く気にならなかった自分を。
集団で仮装した骨は誰の骨なのかわからない。
その骨を、父の骨と思うことは出来なかった。
母の骨は確実に母の骨なのです。
間違いのない純粋な母の骨なのです。
叔父には怒鳴られたけど、これで良かったのだと思いました。
母が死んだ、あの時、どうしても母の遺体を手放したくなかった。
ひょっとして、奇跡が起きて母が生き返ってくれるかもしれない。
万が一にもそのような事は、ないのですが、奇跡を夢見ました。
しかし、悲しい事に奇跡は起きませんでした。
でも、こうして、母の一部分が、僕の胸にある。
それで、いいじゃないか。
悟は、白木の箱をぎゅうと胸に抱きしめ、その手で雪子も抱きしめて
「雪子、母さんだよ」
「お兄ちゃん、お母さんは、こんな小さな箱の中に、入ってしまったけど、きっと、どこかで見守ってくれているよね」
雪子は、白木の箱を撫でながら言いました。
「うん、きっと、見守ってくれているよ」
悟は、雪子を慰めるように、また、自分自身に言い聞かせるように言いました。
悟は、父や母が草葉の陰で見守ってくれている。
ただ、それだけが心の支えでした。




