十四話
そのような生活をしているうちに、終戦の日がきました。
日本は戦争に負けました。
戦争に負けるということは、日本国にとっては、大変なことですが、悟と雪子にとっては、何も変わったことはありません。
いつものように、悟は、朝早くから夜遅くまで、田畑の仕事をさせられました。
雪子も朝早くから夜遅くまで、止吉のお守りでした。
「戦地から、お父さんが帰ってくる」
と、言って、お父さんを待っている友人を見ると
(ひとはいいな)
と、思います。
待ってみても、叫んでみても、帰ってくることのない両親だから、、、
(どうせ戦争に負けるくらいなら、両親が生きている時に、終戦が来れば、父も母も死なずにすんだだろうに、、、)
悟らしくない愚痴を思いました。
前進あるのみの悟なのに、思わずにはいられない心境でした。
それだけ悲しみが大きいのでしょう。
悟は、家の焼け跡に埋めてきた母の遺体を、焼いて骨にせねば、いつまでもほおっておいてはいけない、と思うと、気になって仕方がありません。
叔父に話すと
「馬鹿者が、何で兄貴と一緒に焼かなかったのか』
「、、、、」
「いらん暇ばつぶさんばやっか」
と、怒鳴ります。
あの時、母の遺体を手放すのが、どんなに辛いことだったか、父の遺体を汚いものでも運ぶように、ずるずると引っ張って行かれた、あの時、自分たちがどんなに苦しい思いをしたかについて、話して見ても解ってもらえる相手ではないことを、知っていたので、悟は何も言いませんでした。
しばらく間を置いてから
「叔父さん、今度の日曜日に、雪子と二人で、母の遺体を処分しにいこうとおもいますが、いいでしょうか」
「そうしろ、腐った遺体なんか、俺は嫌だからな、しかし、秋の取り入れがすんでからにしろ」
「はい」
悟は、農家にとって、農繁期がどんなに忙しいものか、知っていましたので、母の遺体も気になりましたが、素直に叔父の言うとうりにしました。
十一月の中旬の日曜日、悟は雪子を連れて、懐かしい焼け跡の我が家へと急ぎました。
家を出る時、叔父と叔母は
「早う帰ってこいよ、あそばんでかえってこんば」
と、言いました。
「はい」
と、言って二人は一緒に家を出ました。
叔父の家へ行って、初めての外出です。
心の底から解放感に浸ることができました。
4ヶ月半の慣れない仕事、毎日毎日のいじめのような日々の繰り返し、このような生活に幼い雪子がよく辛抱した。
と、悟は心の中で感心していました。
今日は、久しぶりに心ゆくまで、清い空気を味わうことができる二人です。
悟は、ひときわ大人になったようです。
農作業で鍛えた手は分厚くなって、雪子にとっては頼もしく思えました。
「お父さんと歩いているみたい」
と、にこにこと笑顔を見せます。
「そうか、お兄ちゃん、お父さんの代わりになるからな。雪子は色々なことは考えず、安心していたらいい。そのうちに何とかするからな」
「うん」
雪子は首を縦に振り、小躍りするようにステップを踏みながら歩きます。
幸せそうな雪子を見ると、悟も何となく幸せになるのですが、幼くして両親を失い、今の生活に従忍している雪子を思うと、不憫になり胸が熱くなります。
街へ来ると、闇市が立っていました。
そこには、雑炊、芋、饅頭、色々なものがありました。
古い毛布。古い洋服もありました。
「雪子、何か食べようか」
「うん」
「何がいいかい」
「雪子はいらないよ」
「どうして」
「だって、お兄ちゃんお金ないでしょ」
「それが、あるんだよよ、ほらね」
「どこで盗んだの」
「盗んでなんかないよ、お父さんが庭に埋めていてくれたんだ」
「そう、さすがお父さんね、じゃ、お饅頭が食べたい」
二人は久しぶりに、満腹感を味わいました。
「お兄ちゃん、お饅頭とっても美味しかったわ」
「うん、そうか、今日は良い日だったね」
「うん」
「さあて、雪子、お腹がいっぱいになったところで、家(焼け跡)に行く前に、まず、火葬場に行くことにしよう」
悟と雪子は、火葬場へと急ぎました。
火葬場の職人さんに事情を話すと、職人さんは親切に、車力を貸してくれました。
棺桶は買いました。
悟は、雪子を車力に乗せて、久しぶりに懐かしい我が家へと向かうのです。
「焼け野原となった町です。
砂漠そのものです。
小さな小屋だけが、ぽつりと異様に佇んでいました。




