十三話
「今日は、雪子が学校に行けるように、手続きに行くことにしよう。悟、叔父さんの家は貧乏だ。中学校へやる金はない。いいな、悟、学校は諦めような」
「はい、解っております」
「悟、父ちゃんは、雪子のために暇を潰すんだ。父ちゃんの分まで働きや」
叔母は、人の心を刺すような言い方でいいます。
「そうだな」
と、叔父です。
叔父も優しいようですが、金ときたら汚い人でしたので、悟も雪子も、朝早くから夜遅くまで、働かなければなりませんでした。
慣れない仕事で、夜はくたくたに疲れていて、蚊帳を引く元気もありません。
二人共に、板の間にごろり、と転んだかと思うと、もう朝です。
叔父の激怒で叩き起こされます。
そのような毎日を過ごしていました。
亡き父が、非常時の場合を考えて、焼けた家の庭に、洋服とお金を埋めてくれていました。
悟は、そのお金をようふくいれのそこにかくしていました。
二人の財産といえば、洋服の底に眠っている、わずかなお金でした。
亡き父の機転によって、洋服は保存されていましたので、叔父や叔母に迷惑をかけずにすみました。
衣服の心配までさせていたら、もっと辛くあしらわれたでしょう。
しかし、雪子の可愛い洋服を、長女の秋子(雪子の同級生)が欲しがります。
すると、叔母は
「雪子の、お前は、この洋服を着て、今着ている洋服を秋子にやんな。何といったって、お前らは、この家の厄介者だからな」
と、言って、汚い洋服を、雪子の前に投げます。
雪子は、逆らうことなく、自分の洋服を脱ぎ、その洋服を着ました。
秋子は、雪子の可愛い洋服を嬉しそうにきます。
色の黒い秋子には、可愛い洋服も似合いません。
しかし、秋子は、お姫様にでもなったかのように、気取ったり、嬉しそうにはしゃぎまわったりします。
その姿を見て、叔母はクックと笑い、目を細めていました。
食事の時、雪子のご飯は、いつも少しばかりついであります。
雪子は、お腹が空いて空いて、どうしようもありません。
重い止吉をおんぶさせられ、両親の死の痛手も乗り越えた今は、食欲も出るようになったのですが、その食欲も空腹と変わり、空腹を我慢しなければなりませんでした。
雪子は、雪子なりに、一生懸命で空腹を我慢していたのですが、誰もが、お代わりしてたくさん食べていたので、それに誘われて、いつの間にか、自分の意思に反して
「おかわりください」
と、茶碗を出してしましました。
叔母は、雪子の手をねずみました。
悟は、悔しくてなりませんが、ぐうっと堪えました。
(僕が、今、文句を言えば事が荒立つだけで、何の解決策にもならない。ここは我慢しなくてはいけないのだ。あの小屋よりましだろう。あの子屋には水もないのだだから)
と、思うより他に道はないのです。
そのようなある日、叔父や叔母に怒鳴られている雪子を、悟は見ました。
「叔父さん、雪子は何をしたのでしょうか」
「学校から帰るのが遅いのだ」
「そうだよ、雪子は、学校で遊んでいるのだよ」
悟は
「雪子、学校で何をしていたんだい」
と、優しく聞きました。
「作文が上手にかけているので、県の大会に出すから、お正書なさいって、先生が言ったので、書き直していたの」
「そうか」
悟は、心から嬉しく思いました。
雪子の成績が良い事が、今の悟にとって、生きがいだったからです。
また、今の悟たちの苦境の中での、一点の光のようにすら思えました。
両親がいたら、どんなに喜ぶことだろう。
何につけかににつけ、思い出すのはやはり両親のことでした。
目頭が熱くなる悟でした。
叔母は、憎々しそうに
「女の子のくせに、文士様でもあるまいに、そんなことは、先生に言って断わんな」
と、言います。
叔母は雪子の帰りが遅いと、止吉の子守で、仕事が思うように進まないことと、できの悪い子供ばかり持っている、僻みと妬みで、イライラしてくる自分を、持て余していました。
叔父も
「うん、そうだな、学校から早く帰って来て、お守りせんと、俺たちは、お前たちに食べさせるために、働いておるんじゃからな」
と、恩着せがましく言います。
悟は自分の生活力のなさが、悔しくってなりません。
歯を食いしばりながら我慢しました。
雪子の学校生活は楽しいものでした。
成績の良い雪子は、クラスの人気者で、人々から慕われていました。
叔父の家に帰らずに、ずっと学校だけで生活できたら、どんなにか良いだろうに、と、思いました。
しかし、夏休みがきました。
クラスメイトはみんな喜んでいます。
(人はいいなあ)
と、寂しく思いました。




