十二話
叔父さんの家に着きました。
家には、小さな子供が五人もいました。
五人の子供達は、悟や雪子を物珍しそうに眺めます。
叔父さんは叔母さんに何か話しています。
きっと、兄夫婦が亡くなったことを話しているのでしょう。
突然、叔母さんの怒声が、家中に響き渡りました。
「家には、五人も子供がいるのよ、その上に、二人の子供までつれてきて、どうやって食べていくのよ」
「悟には、田畑の手伝いをさせて、雪子には子守をさせれば、お前だって、だいぶん楽になるじゃないか」
叔父さんは、そう言って、叔母さんをなだめています。
叔母さんも計算高い人でしたので
(そうね、金、稼げそう)
ぺろりと舌を出して、肩をひくひくと嬉しそうに動かしました。
悟は、飛び出したい気持ちでしたが、我慢しました。
(この家で辛抱せねば、あの小屋へ行っても食べ物もないし、布団だってない。あの小屋には飢えしか待っていない。骨になりに行くようなものだ。辛くとも辛抱せねば)
と、思いました。
(ここで我慢していれば、食べる事ぐらい何とかなるだろう。命さえあれば、そのうち何とかなるさ。辛いが辛抱しよう。あらゆることを聞かずに、耳に栓をし、命があることに感謝して、生きてゆこう)
と、決心を新たにする悟でした。
叔母さんは、ツンツンしながら芋を投げるようにしておきました。
「食べなー」
と、言い冷たい横目で見ました。
悟も雪子も、突然の悲しい出来事の連続で、食欲がありません。
食べようともしない二人を、叔母はじろりと睨みながら
「私が出した芋だから、食べれんのか」
と、言いました。
ぼんやりしていた悟は、我に返り
「いや、違います。叔母さん、さっきおにぎりの配給をもらって食べたばかりなんです」
「あそこから歩いてくりゃー、腹も減ろうにのう、若い者がな」
叔母さんは、皮肉たっぷりに言います。
叔父さんは取り成すように
「両親を一度に亡くしたのだ。食欲もないだろう」
親のことを言われると、悟も雪子も涙が出てどうにもなりません。
叔父と叔母の話し声が遠くの方で波打つように聞こえます。
ある時は高い波が荒れ狂い、ある時はさざ波のようにひそひそと、、、
今度は高い波が鼓膜を破りそうな声で
「あんた、二人をどこに寝せるのよ。布団もないのよ」
「夏だから、布団はいらないだろう」
「そうね、敷布団もいらないね。畳の上に寝られりゃー、小屋よりましだろう。あんた達、適当にどこかで寝なあよ」
「母さん、そりゃーないよ。蚊がたかってどうしようもないだろう」
「あの小屋だったら蚊帳もないだろう。そう思えば、畳の上に寝られるだけでも、感謝してもらわなければね」
「あそこが大変だったから、連れてきたんだ。蚊帳は他にもあっただろう」
叔母は、汚く異様な匂いがする蚊帳を、悟の前に投げました。
「ほら、これを張りな、明日の朝は早いんだ。早う寝な」
と、言いました。
朝は暗いうちに起きれ、雪子は、一才になる止吉をおんぶしなければなりませんでした。
知らない人におんぶされた止吉は、ワアワア泣きながら足をバタバタしました。
「ほら、雪子、泣かせるんじゃない。外に連れて行け」
と、叔母は言います。
雪子は、言われるがまま外に出て、止吉をあやします。
止吉も少しづつ雪子に慣れて笑い声すら出します。
しかし、初めて子供をおんぶする雪子は、重くてしかたありません。
帯が肩に食い込むようです。
男の子で体格の良い止吉は、雪子の小さな体には、重すぎました。
あまり体の丈夫でない雪子です。
両親を失った痛手も重なり、苦しくって苦しくってなりません。
じいっと耐えていると、顔から生汗が流れ出ます。
悟は雪子に
「頑張ろうな」
と、目で合図しました。
悟は、肥だるを担がされて朝食前に一仕事しなければ、食事が出ないのです。
町で育って、学校に行く時間ギリギリまで寝ていた二人にとっては、それはそれは辛いことでした。
「朝ごはんだよ」
と、叔父が迎えにきてくれました。
雪子は止吉を叔母がとって、くれるものと思っていました。
しかし、ご飯の時も、おぶったまま、ご飯を食べなければなりませんでした。




