旅の剣士2
ラインバック大陸東部
この地には、古くから竜種の一つ、火竜が住み着いており、その扱いは天災に近い。
その天災の中でも、近隣のそれなりに大きな街や拠点をいくつも襲い、破壊し尽くした強力な個体がいた。
彼の棲み家の近くに、死霊共の村があったが、骨をかじるのは好きだが、それは肉を食べたあとの楽しみだと思っていた彼が、襲おうと思うような村ではなかった。
「おまえ、トカゲみたいなもんだよな。尻尾くれよ!」
そう言って、矮小な人間が話しかけてきたのは、戯れに、最近ちょっかいを出した街をちょっと壊しに行こうと思って、街のど真ん中にファイヤーブレスを吹きかけて、着地した直後だった。
無礼な発言に怒りも湧いたが、なるほど、恐怖で人間などすぐに狂う。少しばかり、哀れに思い、ひと思いに焼き尽くしてやろうと、最高の温度になる青白いブレスを吹きかけたが・・・
「お、それいいね!!」
肩に下げたズタ袋の口を、おもむろに広げると、ブレスが吸い込まれていった。
「少しずつ使えば、結構な火力が・・・」
ぶつぶつ言いながら、口を縛り直している人間にイラッとした。
「ここは狭いから、外に出ようぜ」
などと言いながら、街の外に進んでいく。
なぜ、このような矮小な人間に従う必要があるのか?周りには恐怖にすくんでコチラを見上げる女、焼け落ちる家屋に飛び込んでいく男、様々な反応を見せてくれている人間が大勢いる。火竜は人間が好きだった。どれほど虐げても、食べてしまっても、少し残しておけば20年もすればまた街を作っていた。ひとっ飛びするだけで、人間の街や村はいたるところにあった。時には、人間同士で集まって何やら騒いでいることもあったが、飛んでいってチョットかじると、大人しく棲み家に戻っていった。
そんな、矮小であるがおもちゃか食料にしかならない人間が、少しくらい変わった道具を持っていたからと言って、こちらが言うことを聞く必要はない。そう思って、目の前にある、さきほど叫びながら男が飛び込んでいった家を叩き潰そうと腕を振り上げた瞬間。
「無視すんなよ」
「!!」
右足に激痛が走った。
出口に向かって歩いていた男の手が上がっているということは何かしたのかもしれないが、何をしたのかわからない。痛むところを見てみるが、特に何も見えない・・・凝視して気がつく。何かが刺さっている。
「あれ?図体がデカイから鈍感かと思ったけど、意外と繊細?痛かったか?」
男が飄々とそういった。
「痛い目見たくなかったら、さっさとついてこい」
目の前が真っ赤に染まった。炎の色ではない、怒りで目がくらんだ。だが、まだ冷静だ。コヤツにブレスは意味がない、ならば。
「っと、あぶねえな」
腕を伸ばし、背中から引き裂いてやろうとしたが、前に飛び退いて届かなかった。そのまま踏み潰そうとしても、スルスルと避ける。足を踏み鳴らしているのだから、振動波もおきており、そんなに簡単に動けないはずなのだが、危なげなく逃げていく。
「オレ、逃げ足は自信あるのよ!」
コチラの考えはお見通しとでも言うのか!振動波に巻き込まれて立っていられなくなった住民たちを物ともせずに、男が走りながら言った。
怒りのボルテージがさらに上がった。
気がつけば、男を追って街からは出てしまっており、城壁も遥か彼方に見えるほど追ってきてしまった。
街を出てからは、むしろ邪魔な建物もなくなったため、遠慮なく全力で男を蹂躙しようとしたのだが、まだ、一撃も入っていない。最も、矮小な人間など、一撃入れば終わりなのだが・・・
「おっし、この辺りでいいかな」
男が逃げるのを諦めたのか、立ち止まった。
「お前、言葉わかってるよな?分ってて人を襲ってたんだろ?なら、討伐・・・殺されても文句は言わないよな?」
立ち止まって、そんなことを言ってきた。
このようなものと言葉を交わすまでもない。我は黙って、今まで以上の攻撃を繰り出した。走りながらでは難しかったが、今ならば。
火竜は翼を大きく羽ばたかせると、強烈な風を叩きつけた。そのまま風を操ると、そこにファイヤーブレスを吹き込む。知恵ある火竜のみが使いこなせる技
「ファイヤーストームか!」
炎の渦の中から感心したような男の声が聞こえた。轟々という炎の上げる音の中でも、火竜の鋭敏な聴覚はその声を聞き分けた。全く焦りも苦痛も無い、純粋な驚きの声。
「翼が無ければ逃げられんかな?」
背中に激痛が走った。正確には、翼の付け根近くに、灼熱が生まれた。
バササッと、自慢の翼が地に落ちたのを見た時、苦痛と悲鳴が混ざったような咆哮を漏らしてしまった。
「さて、尻尾と言わず、全部美味しく食べてやるから、黙って喰われろ」
火竜は生まれて初めての感情が湧き上がってきた。それは、生存本能と共に強烈に火竜の意思をかき乱し、一つの結論に結びつくと同時に、いや、結論より早く実行されていた。
逃走せよ・・・と
「あ、待てよ!!」
飛べなくなった火竜は、全力で地を走った。屈辱や怒りなどもはや微塵も感じない。生まれて初めての恐怖。しかも、あいつは我を喰うという。尊厳も何も無い、捕食者としての人間。
きっと、人の街を襲ったからあいつが来たのだ。今までは、大した事のない奴らばかりであったが、あいつは違う。キラキラした鎧を着た人間の兵士たちが、魔力強化された矢や剣で突こうが切ろうがなんとも無かった竜の鱗、最初に痛みを感じた足が走る度に鈍痛を返してくる。よく見れば、刺さっているのは竹串。金属ですら無い。そんなもので竜の鱗を貫通する人間など、理解できるわけがない。怒りに囚われる前に、確認するべきだった。
「あ!やべ!!」
突然、男が焦ったような声を出した。もう少しで我の棲み家にたどり着く。ついたところで、何も出来ないのかもしれないが、本能的にそちらに向かっていた。その先に、黒い人影が見えた。
「おーい!危ないぞー!逃げてくれ―!!」
男がそんなことを言っている。なるほど、こいつは人間を守るということに意識を奪われているのか。そう考えれば、街の中から我を引き出したのも納得できる。
そこまで考えたところで、あと少しでたどり着くあの黒尽くめの男をなんとかすれば、助かるのではないか?と考え、少し方向を変え、男の方に向かって走り始めた。
「ったく、しょうがねぇ」
そういった男が何をしたのか?背後から巨大なプレッシャーが襲いかかって来た。死の恐怖が再び目の前を真っ暗にする。早く、早くあの男のところに!!
「神魔両断」
気がつくと、向かって居た黒ずくめの男が、長い剣を振り下ろしていた。確か、刀とか言う種類の剣だと思いながら、男の両脇を駆け抜ける。両脇?と違和感を感じた時、我の右半身と左半身が別々に倒れ込んだ。
連投してみました。




