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コブシの魔術師  作者: お目汚し
63/65

帰還・そして旅立ち

超久しぶりの投稿です。

 ひとまず、貧血の影響からフラフラしているが、割りと元気そうなハンスを連れて、私塾に転移してきた。いきなりマーリン達のところに行くとパニックになりそうだったため、自室に転移する。


「個人的には、今朝ミミを助けに行った気がしてたのに、時間が過ぎてるってのは、不思議な感じだな」


ハンスはそう言いながら、ひたすらに腹が減ったと繰り返している。

丁度、夕飯の時間までは、まだ少し時間がありそうなので、マーリン達のところに行くことになると思うが、

ミミさんのことをどう説明しようか考えてしまうところだ。


切れ切れの情報であったが、ミミさんは何者かに操られており、それを何とかするために封印された・・・

そう考えるのが一番しっくり来るのだが、それをやったのはルネッサなのか?


「父さん、ルネッサさんは皆にとってどんな人だったの?」


ハンスに水を向けてみる。


「ん?あいつはチョット根暗な良い奴さ」


所在なげにベッドに腰掛けて、そう答える。


「俺たちに肝心なことは何も話さずに、自分を止めろと言って力を与えてくれた。そのくせ、自分は悪の大魔導師を気取って、モンスター達を率いる魔王軍の大魔王になっちまった。」


そこのところがわからない。ルネッサもやはり操られていたということか?

そうならば、一体誰に・・・

わからないと言えば、自分のこともよくわからない。

ハンスの話からすれば、オレはルネッサの生まれ変わりだと思われていたらしい。だが、ルネッサの生まれ変わりは別に居て、オレ自身は40代の地球人の生まれ変わりだ・・・記憶ははっきりしないが。


ふと思い出し、懐からテニスボールくらいの塊を取り出した。


「なんだそりゃ?」


目ざとくハンスが見つけて聞いてくる。


「実は、父さんを開放する前に、ルネッサと名乗る子供に襲われて、彼を捕まえたんだ」


「なに!?」


ハンスは驚くと、その球体をまじまじと見つめる。


「そんなに小さくなってて、大丈夫なのか?」


詳しく説明しても理解は出来ないと思ったので、ひとまず大丈夫であることを伝え、


「この玉のなかの時間は止まっているから、開放されたときに混乱するかもしれないけど、お腹が減ったり、死んだりすることは無いよ」


と説明しておく。


「ミミがとらわれている水柱みたいなものか・・・」


そうハンスがつぶやく。


「そんな感じだね」


「なら、早いとこ開放してやらないとな」


ハンスはそう言いながら薄く笑った。


「子供が悪さした時は、大人が叱ってやるもんだ」


そう言って立ち上がると、オレの頭をガシガシと撫ぜた。


「すぐに開放しろとは言わないの?」


「賢いお前が閉じ込めてんだ、何か考えが有るんだろ?」


ハンスはそう言うと、


「何にしても、助けてくれてありがとよ。そろそろ腹も減ったし、マーリンとガリに無事を知らせに行こうぜ」


そのままスタスタと部屋を出て行く。もう、貧血の影響はなさそうだ。

慌ててハンスの後を追いかけて、一緒に塾長室にいくと、ハンスがドアをノックした。


「おーい、帰ったぞー」


そういいながらドアをドンドンとノックして、それに恐るべき速さで反応したガリクソンが扉が外れるんじゃないかという勢いで引き開け、ハンスをみると時間が止まったように硬直した。


「あら?どした?」


ハンスのあくまで軽い対応に、ガリクソンの顔だけが百面相のように変わった後、


「心配させおって!!」


と、瞬速の正拳突きがハンスの腹に向かって放たれる。


「へへ、ただいゴアッ!!」


ガリクソンの拳を軽く受け止めたハンスの顔面に巨大なアイスバレットの魔法が直撃した。


「心配させてんじゃないわよ!!」


両手を前に付き出し、無詠唱で魔法を炸裂させたマーリンが、塾長室の机の上で仁王立ちになって居た。


「あの、むしろ今ので無事ではなくなった気がしますが・・・」


オレが唖然として突っ込んだが、机から飛び降りてそのままハンスに飛びついていくマーリンの目には涙が光っており、気が抜けたのか座り込んでしまったガリクソンも、百面相が喜びの微笑みで固定されていた。


「スマン、ルキノ・・・ヒール頼んでもいいか・・・」


マーリンを腹の上に乗せ、両方の鼻から盛大な鼻血を垂れ流しながら、ハンスがそう言ってきた。

今更、鼻血くらいで問題になるとは思えないが、そう言えば絶賛貧血中のお父様には、この仕打はチョット厳しいのかもしれない。オレは黙ってライトヒールをかけると、3人をなだめて塾長室の中へ収めるのだった。







「というわけで、ミミの救出はできなかった・・・」


ハンスの説明に、マーリンもガリクソンもショックは隠せないようだったが、


「まあ、今はまだ助けられんと言うことじゃな」


ガリクソンは諦めた様子は無く、ひとまず落ち着いている。

少なくともミミさんが敵対しているのは一時的なものであり、本質的には変わっていないということを

微塵も疑っていないようだ。


「ルキノくんは、なんとなく原因は分かっているのかしら?」


マーリンも既に切り替えたようで、魔術師らしく原因の究明に意識を切り替えている。


「ダンジョンの魔狼達のときと同じように、ミミさんにも黒い靄のような物が干渉していたように思います。」


こればかりは、オレにしか認識出来ない状況なので、説明が難しいのだが、状況から考えればあの黒いモヤが原因だとしか思えない。


「こればかりは、ルキノくんのスキルに頼るしか無いのかしら・・・」


マーリンはそう言いながらも、全く諦めた様子はなく、自身の膨大な知識を使って思索を始めたようだ。


膨大な知識と思索・・・か。


琴ちゃん、森羅万象にこの状況に合致するものは無い?


”黒いモヤというものは、マスターの認識の仕方のため、一般的な認識とは異なると思われます。その為、検索が出来かねます”


即座に答えてくれる。


そうだね。でも、事柄として考えたらどうだろう。過去に、何者かに操られて行動させられたような話は残ってない?魔狼達のときや、魔の森に居たモンスター軍団みたいな話。


”それでしたら、以前ゴブリン達の村で聞いた話が直近の話では合致します”


ああ、そう言えばルネッサに連れられてダンジョンに来たんだっけ?魔王軍に従軍したときに操られたとかなんとか・・・

だが、あのときは洗脳のような魔法ではなく、人質を取られて従軍させられていたということだったので、琴ちゃんが言うのは、魔狼達が操られていたということなのだろう。


”先の大戦の折に、魔王軍の魔物達にはそのような現象が多く見られたようですが、ルネッサの大魔王軍にはほとんど居なかったようです”


なに!他の魔王軍にはそういった物が居たというのか?

だが、ルネッサの軍には居なかった・・・ということは、やはりルネッサの魔法であるとは考えづらい。

だが、ミミさんをあそこに封印したのは、なんとなくルネッサっぽい。

最初は、ミミさん自身が自らを封印したのでは?と考えていたが、どうやらそれも違ったようだし。


「敵がわからないと言うのは、対処のしようがないのう」


ガリクソンが拳を掌にぶつけながら悔しそうにしている。


「見えてるやつなら、ぶった切るのは簡単なんだけどな」


ハンスもそう言いながら、腕組みをしてソファーに沈み込んだ。


「まあ、今すぐ答えが出るわけじゃなさそうだし、ひとまず食事にしましょう」


マーリンの一言で空腹を思い出したのか、ハンスの腹が盛大に鳴った。


「おお、腹が減っては何とかだしな!!」


そう言って立ち上がると、


「おし、食堂へ行くぞ!!」


と意気揚々と校長室を出ていった。


この後、夕食の席に急に姿を表したハンスに、生徒たちが驚いたり、シュルツ王子が憧れの人にやっと会えたということで、その場で泣き崩れて面白いことになったりしたのだが、時間が停まっていたハンスにしてみれば特に話すこともなく、なあなあの内にいつもの食事風景へと変わっていった。



-----------------------------------------------------------------------------------------

「ルネッサはまだ戻らんのか・・・」


暗闇の中で、衣擦れの音とともに、錆びた男の声が問いかける。


「は、探索しようにもあのダンジョンの最下層に行かれたということ以外は、何も分っておりません」


緊張した声色で、青年期位の男の声が答える。


「所詮、使い捨てにしかならなかったということかの・・・」


男は自らの禿頭を軽くさすりながら、ルネッサとの出会いを思い出していた。


この世界では、魔力特性が強いほど、髪の色や瞳の色が濃くなる。

だが、実際には魔力が強すぎると、暴走の発作のために、生まれてすぐになくなってしまうものが多数であり、5歳まで生きられるものはほとんど居ない。5歳まで生きられても、病弱で10歳まで生きられるものは皆無であり、成人するもの(15歳で成人扱い)は、ほとんど存在しないとされている。


それでも極稀に成人しているものも居るが、殆どは魔力を失っているか、先天的にMPが極端に少なかったりして、影響を受けなかったためであり、外見的な特徴のみが黒髪黒目の悪の大魔導師とおなじになり、その上魔法もろくに使えないため、迫害の対象になるのだ。


そんな中、膨大な魔力を身に宿しながら、順調に成長する子供を見つけた時、彼は神の啓示を受けたのだと思った。

その者を、使徒として育て、思いのままに操るように、彼の信じる神に授かったのだと思ったのだ。


実際その少年は、有り余る魔力を元に、個人では到底発動できないであろう魔法を発動してきた。

秘密の訓練場の地形は瞬く間に変わり果て、その変わった地形も、また翌日には変わっているような、そんな高威力の魔法を少年は好んで使っていた。


自らも魔法の効果範囲に巻き込まれながら、絶対障壁にも似た防御魔法を同時に行使し、自らは爆炎や爆風の中から、何事もなかったように生還してみせる。


その度に、褒美や言葉をかけ、少しづつ育ててきたのだが、最近は自らの力に自惚れたのか、少し言うことを聞かなくなってきた。


そろそろ潮時かと思っていたが、思ったよりあっさりと退場してしまったのかもしれない。


最近では、部下の魔法使いの部隊を彼に与え、指揮を教えようとしていたが、そもそも考え方が子供のままの彼では、人は動かず、私のみを味方であると考えて行動していたように思う。


愚かなことだ・・・ただの道具に過ぎないのに。


ルネッサが居なくなっても、それほど困ることはない。まだまだ手駒は有るのだ。

制圧力の要として、あるいはスケープゴートとして使えたかもしれない駒がなくなったという意味では、少し惜しかったかもしれないが、所詮それまで。なんとでもなる。


理想の世界にたどり着くためには、そんなものは障害にすらならない・・・


「さて、いよいよ動き始める必要があるかな」


男はそうつぶやくと、存在が薄れるようにしてその場から姿を消した。

その場に一人残された、報告に来た青年は、それが当然のことであるように、真っ暗な部屋を後にするのだった。


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シュルツ王子が何者かに命を狙われているっぽいという話を、ハンスは聞かされていた。


王位の継承を余り明確に意識していなかった・・・といえば嘘になるが、王の責任というものを重く考えているシュルツにとっては、王位など邪魔でしか無く、気ままな冒険者としての生活のほうが性にあっていると考えていたため、今まで積極的な行動に出ておらず、兄にしろ、他の誰かが王位につけばいいと考えていたのだが、周りがそれを許さなかった。


そういったしがらみが面倒になって、時折出奔しては、自分はふさわしくないということを示していたつもりだったのだが、それが、余計に市井の民との交流だと見られ、自分を後押しする勢力の宣伝になっていることを、シュルツはまだ良くわかっていなかった。


「というわけで、ハンスの兄貴に、俺は王の器じゃないって言って欲しいんですよ」


若干、酒に酔っているのかもしれないが、そんなことを言いながらハンスに絡むシュルツ王子。

光の勇者であるハンスの言葉なら、王も周りのものも耳を貸すはずだと、ただ繰り返している。


「そう言われてもなぁ。俺はお前のこと良く知らないわけだし、王家のことに口出しできるほど影響力は無いぞ」


ハンスも繰り返しそう言っているのだが、堂々巡りである。


ちなみに、私塾の中で大人が酔っ払っているという状況をマーリンが嫌うため、場所はギルド近くの酒場に移っている。


「ワシが聞く限りでは、お前さんの評判は悪くないんじゃがな」


ガリクソンがエールを煽りながらそう言うと。


「ガリの兄貴もお願いしますよ。俺なんかそんな器じゃないんですって」


と、ガリクソンにも絡みつく。


酒場には、他にも客が入っているが、誰も3人の話に聞き耳を立ててはいない。普通に考えれば、王位の話などこんな酒場でされるわけは無いので、誰も気にしていないという方が正しいのかもしれないが、不用心なことである。


もっとも、この酒場にもアレス領主の配下である腕利きが、ウェイター及びウェイトレスとして給仕しており、それとなくシュルツの警護にあたっている。そもそも、光の勇者であるハンスとガリクソンがそばにいる以上、手出しできるものは居ないのだが・・・


俺は、そんな風景を、自室のベッドに腰掛けながら魔素認識でぼんやりと眺めている。


「でも、狙われてるっていうのは本当なんだなぁ・・・」


どうやって街の外壁を乗り越えたのか、はたまた転移してきたのか・・・

5人組の暗殺者と思われる一団が、シュルツ王子のいる酒場に向かって絶賛移動中である。

路地裏の影に身を潜め、有るときは屋根の上に、壁の上に身を移しながら、ほとんど一直線に向かっている。

その存在に気がついているものは、ほとんど居らず、彼らの進行を妨げる者は今のところ誰もいない・・・

ほとんどの者が気がついておらず・・・ということは、少数の人間は気がついているのだが。


彼らの一団の前に、10名ほどの影が立ちふさがる。

屋根の上を移動していたタイミングで、目の前に立ちふさがられては、散歩などとはいえない。


瞬く間に戦闘が開始されるが、それも一瞬で終わってしまう。

一人に対して二人で攻める・・・という単純なものではなく、5名の連携に対して10人の連携で対応され、手数が単純に倍ということではなく、乗数的に増えたため、あえなく5人組は捕縛されてしまう。


「でも、こっちは陽動なんだよね・・・」


今まさに、バイオリアから北に10kmほどの平原で、魔術師15人による儀式魔法が完成するところであった。

直径15mほどの複雑な魔法陣を展開して、それを囲むように、14人の魔法使いが中心の一人に魔力を集中していく。集まっていくのは、火と風の魔素。14人分の魔力を余すこと無くつぎ込んだ魔素の塊が、中心の魔術師の目の前に浮かんでいる。


「ゆくぞ!!」


中心の魔術師が声をかけると、最後の気力と魔力を振り絞って、14人の魔術師が出力を上げる。

浮かんでいる魔素の塊が、収縮していきバスケットボール位の大きさまで小さくなった。小さくはなっても、つぎ込まれた魔力や魔素はそのままだ。衝撃を与えれば、彼らだけではなく、周囲の数百mは焼き尽くされるだろう。魔法の作用としては、まず、着弾と同時に風の魔素が解き放たれ、周囲に暴風を撒き散らす。瞬間風速が100m近い風が巻き起こるはずだ。だが、これはその後に起きる現象の下準備に過ぎない。次の瞬間、圧縮された火の魔素が一気に燃え上がるのだが、このときに、周りに撒き散らされた暴風によって、一時的に発生した低気圧帯に向かって、再び暴風が吹き込み、瞬間的に周囲を焼き尽くす。最初の暴風によって吹き飛ばされた者はまだ幸せで、残ってしまったものはその後に来る熱波で骨まで残さず焼き尽くされることになる。


大規模殲滅儀式魔法「メギド」


本来は、平原で騎馬隊や歩兵部隊を相手に用いられたり、本陣を一気に殲滅するときに使われるものである。街や村に対しては、破壊力が強すぎ、その後の統治が難しくなるなどの理由や、何より民の財産や人命に対してなど、人道的な理由から普通は使われない。使われないのだが・・・


「世界のために!!」


魔法陣の中心に居た魔術師が両手を突き出すと、その速さに呼応するように圧縮された凶悪なエネルギーの塊が撃ち出された。それと同時に周りに居た魔術師達が一人二人と倒れ込み、そのまま意識を失う。

中心で両手を掲げている魔術師も極度の集中のためか、鼻や目の端から血を流しながら、尚も制御を続けている。


本来、目視できる範囲に対して用いられる魔法を、魔力で視力を擬似的に数百倍まで高め、その上で魔法を制御する。この魔術師の能力は相当なものであり、一介の魔術師ではあり得なかった。


「物騒なのが飛んで来るな・・・」


それを感知したオレは、とりあえず飛んでくる魔素の塊の性質と対抗魔法を打ち込もうと考えたが、面倒なので、力技で押し込むことにする。

窓の外を見上げると、既に光の玉が街の上まで到達していた。


「よっと」


窓際まで移動して窓を開ける。


光の玉がそのまま落下してくる。


「掌握!!」


名前も考えてなかったので、なんとなくそう言いながら、目前に迫っていた光の玉を握り込む。星や月に向かって手を伸ばして、掴み取る感じ?そんな感じの動きで、見られても何をしたのかわからないと思う。


そっと手を開くと、そこに、小さな光の玉が乗っている。キラキラと眩しい光を放ちながら、それでいて熱を感じることもない。このままでは眩しいので、周りを緑魔鋼で覆って、パチンコ玉程度の塊が出来た。


「今後使うかもしれないからな・・・」


そう言いながら、緑魔鋼の表面に「メギド」と刻み込む。だが、これを使うときはとんでもない状況になると思われるので、気をつけないといけない。


ふと、魔法陣の方に意識を向けると、魔法陣の真ん中に、顔中の穴という穴から血を吹き出した魔術師が大の字に倒れていた。生きては居るようだが、もう魔法は使えないかもしれない。急に魔法の制御が出来なくなったはずだから、逆流した魔力にやられたんだと思う。


メギドは、ルネッサと同じく、時の魔素と空の魔素で現在と隔離したのだ。

これを開放できるのはオレだけだから、悪用されることは無いと思うが、うまく加工すれば、他の人にも使えるアイテムが作れそうだと内心考えている。

流石に、メギドを開放する気にはならないが、それも状況次第だと思われる。


街の人はだれも気がついていなかったが、ただ一人、マーリンだけは莫大な魔力の塊が街に近づいてきて、消えたことに気がついていた。


「またルキノくんが何かしたわね!!」


そう言うと、説教のためにオレの部屋に乗り込んでくることになるのだが、濡れ衣である。


翌日。

ハンスとガリクソンはシュルツ王子を伴って王都に行くことにすると、マーリンに告げた。


「半年はかからないと思うが、もともとルキノを預けるつもりだったんだ。しっかり育ててやってくれ」


ハンスはそう言うと、オレの頭をガシガシとかき回しながら、マーリンに頭を下げる。


「今更半年くらいどうってこと無いけど、気をつけて行ってね」


「ワシも行くんじゃ、大丈夫じゃよ」


マーリンが心配すれば、ガリクソンが請け負う。


「余計に心配なのよ」


マーリンが憎まれ口を叩くが、本当は一緒にいきたいのであろう。


シュルツ王子については、暗殺の危険が常に伴っているが、どうもこの街にいるほうが大規模な攻撃が有る気がするので、道中気をつけながら移動をしている方が安全かもしれない。昨晩の儀式魔法にしても、準備から一日以上かけて居たのである・・・あとで知ったんだが。


「なんか、きな臭いからあちこち旅しながら移動するつもりだし、もしかすると少し余計にかかるかもしれんが、ルキノ、大丈夫か?」


ハンスがそんなことを聞いてくる。


「うん。僕も校長に色々教えてもらいながら、自分でも色々やってみるつもりだから、大丈夫だよ」


「お前が色々やるって言うと、チョット心配だが、まあ、やりすぎないようにな」


そう言いながら、少し目に涙が浮かんでいる。寂しいのは、お前の方じゃないのか?


「出発はいつなの?」


マーリンが聞く。


「これから出るつもりだ」


とハンス。


「ちょっと、急すぎない?!」


マーリンが慌てた様子で言うが、


「昨晩のことと言い、周りが騒がしすぎる。急な動きのほうが相手も準備が出来ないだろ?」


と、


「昨日の晩、かなりヤバイ気がしたんだ。実際には何も無かったことになってるが、刺客とかそんなもんじゃない。街自体を滅ぼすような、悪意を感じた」


我が父親ながら鋭い・・・


「どっかの誰かが何とかしたようだが、根本をなんとかしないといたちごっこだ。今のところ、原因はシュルツのことだとしか思えん。」


結局力技なのね。


「ガリの話を聞くと、王都ばかりじゃなく、森や他の地方でも色々起きてるみたいだ。そいつを見ながら、こいつを送り届ける」


「ハンスの兄貴と旅ができるなんて、夢のようです」


とシュルツ王子は年甲斐もなくウキウキしているようである。


「一応王子様なんだから、少しはそれらしくしたほうが良いんだが、状況が状況だけにこのままのほうが良いかもな」


ハンスも流石に扱いに困っているようだが、弟分が出来たみたいで楽しそうである。


「旅の支度はどうするんじゃ?」


とガリクソンが気にするが。


「途中途中の村や街で、マーベリック商会の連中につなぎをつけることになってる。そのときに何とかしてもらうさ」


と、ハンスはいたって気楽なものだ。


「最近のお前の活躍を見ていると問題は無いと思うが、一応村の方も気にしておいてくれ」


と、ハンスはオレが生まれ育った農村も気になるらしい。


「畑も放ったらかしになってるから、どうなってるか分からんが、森に近いだけに何か有るとしたら大事になる」


「分かったよ。たまには様子を見に行ってみる」


やることは山積みなのだが、ハンス達が旅に出るということで、オレは一応、マーリン私塾で戦闘や魔法の理論や実戦を学びながら、ゴブリンや魔狼たちと約束したダンジョンの攻略を進めることになる。

実際には、さらに大きな問題が起きたりするのだが、この時のオレはまだ知らなかった。


数時間後の昼下がり。街の門にて


「んじゃ、出かけてくるぜ!!」


実にあっさりした感じで、ハンス達が旅立っていった。服装も、ちょっと狩りに行くとでも言う風に見えるが、3人が腰に下げたチョット大きめの布袋は、オレが作った魔法収納の袋になっており、3人分を合わせれば、ちょっとした部屋の家財道具一式が入るくらいの容量が有るため、食料や予備の武器など、いつの間用意したのかというくらいの荷物をマーベリックに持たされている。


ただ、あまりにも気楽に出かけていったので、オレたち以外に3人が旅にでたと思っている人間は周りには居ないようだった。それだけに、余り長々と見送るのは不自然なのだが、マーリンだけは心配そうに何度も振り返っていた。


王都までは、普通に行けば、ここ辺境都市とも言えるバイオリアから王都の衛星都市であるバイエルンに向かい、そのまま街道を進んでいけば数日でたどり着く。但し、魔物や盗賊などの襲撃が有るため、警戒しながら進めばそれなりに時間もかかるということだった。オレが転移でひとっ飛びに送っていくという案も有ったのだが、ハンスが、状況もわからずに乗り込むのは気が進まないということで、自分の足で情報を得ながら向かうことになったのだ。


「校長、いつまでも見送ってると、怪しまれますよ」


オレが声をかけると


「わかってるわよ!」


と、何故か少し怒ったように踵をかえすと、スタスタと歩き始めた。


「校長・・・何処に行くんですか?」


「私塾に帰るに決まってるでしょ!!」


「あの、そっちは遠回りになりますが・・・」


「い、良いのよ!!街の様子を見ながら帰るんだから!!」


そういうと、私塾とは全く違う方向に意地を張ったように進み始める。

それを、ため息を付きながら追いかけた。

展開を急ぎすぎた気がします。

気が向いたら、補足していきます。

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