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コブシの魔術師  作者: お目汚し
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光の勇者

遅々として筆が進みません。

スミマセン。

気持ちを落ち着けて立て直すと、ひとまずハンスのほうから開放することにした。

といっても、剣を振るっているハンスを水柱から引き抜くだけだ・・・

そう、それだけ・・・


何にも考えずにハンスに触れるが・・・全く影響は無い。

魔法が効かない(効きにくい)体質のため、全く問題なく動けている。

実は自分の時間も停止していて、この瞬間に何百年と言う時間が経過している可能性も考えて、

触れる前に足元に有った石を上に放り投げておいたが、ハンスに触れても、普通に落下するのが見えていたので、時間は止まっては居ないはずだ。


そのまま、両手でハンスの腕を掴むと、引き抜く!!


シュン!!


「・・・・・つっと!!」


途端に、ハンスが鋭い息を吐きながら剣を振りぬく。


「あれ?切れねーな?って、おいおい、ルキノ、そんなにそばにいると危ないぞ!」


何事もなかったように、ハンスが言った。


「あれ?マーリンとガリは何処行った?」


このオッサンに、しばらく時間が停まっていたと言っても理解できないのかもしれない・・・そう思いながらも、安心からか、目に涙が浮かんできた。


「おいおい、迷子になったからって、めそめそすんなよ、男の子だろ?!」


途端にイラッとして、ハンスを両手で突き飛ばす・・・水柱に向かって


「うお・・・・」


とっさのこと足元をふらつかせて、背中から水柱に突っ込むハンス。やはり、触れた瞬間に止まってしまった。


もう良い、いろいろ台無しな感じになったこいつは後回しだ。


今までの苦悩や、ゴブリンたちとのことや話したいことはたくさんあったが、助ける方法が分ったら、人の話を聞かない父親に、イラッとしたのだった。照れ隠しではない、絶対に違う・・・


ちょうどいい位置にハンスがいるので、踏み台代わりにして、水柱の中ほどまで飛び上がり、そのまま水柱に飛び込む。


不思議な感覚だ。周りの水は、間違いなく水の感触を伝えてくるが、揺らぎもしない。不安だったが、バタ足をすると、普通に前に進んだ。


そのまま、ミミさんのところまで水柱を泳いで登ると、露出度高めのビキニアーマーをつけた女戦士の手を引き、再び下に降りる。


途中、呼吸が苦しくなり水柱から顔だけだして息継ぎしながら、ハンスの横まで降りてくると、水柱から手を付き出した形にして、一度柱から出た。


目の前に、水柱から片手を突き出した女性と、マヌケな感じで両手を前に突き出しているハンスが居る。


ハンスの片手を取ると、一気に引きぬくように背負投を打つ。一本背負いだ。


「うおっと!!」


ハンスは、オレの上で綺麗に宙返りすると、見事に着地する。


「なんだよ、照れるなよ!急に投げたりしたら危ないだろ」


「状況を把握して欲しいんだけど・・・」


そう言って、背後の水柱を指差す。


「あ?状況をって言われても、この柱をなんとかしない・・・ミミ!!」


そう言うと、駆け寄ってミミさんの手を引こうとするハンス。


「だから!話を聞け!!」


思わず怒気と共に空間固定の魔法を放って、ハンスを拘束していた。


「っつ、ルキノくん・・・なんか、知らない魔法を使うじゃないか・・・」


金縛りや精神支配術ではなく、物理的に空間を固定する魔法というものは今まで発案されていなかったらしい。何か、世界の声も聞こえてきたが、とりあえず丸っと無視して、状況を話す。

ちなみに、空間を固定しているが、話をしたり呼吸をすることまでは禁じていない。

割りと制御は難しいはずなのだが、イメージ先行だと簡単にできるようだ。


「というわけで、父さんはしばらくこの柱に囚われていたんだ」


状況の説明が終わると、暴走しないということを条件にハンスを開放した。


「そうか、そんなことが有ったのか・・・苦労かけたな」


ハンスがそう言いながらオレの頭をガシガシと撫でてきた。


「だからといって、問答無用でぶっつけ本番の魔法はいかがなものかと父さんは思うぞ」


苦笑いしつつ水柱のほうを眺めた。


「で、お前ならこいつを、ミミを救出できると、そういうことだな?」


オレは頷くと、それを実行するためにミミさんの方に近づく。


「このまま引き出すだけでミミさんは助け出せるけど、引っかかってるのは、誰がミミさんを此処に閉じ込めたかということなんだ」


気になっていることは他にも有るが、それが一番の疑問である。

こんな高度な魔法を使って、こんなダンジョンの奥に光の勇者の一人を閉じ込めた存在・・・

それが何者なのか。空間転移を使って反則的な方法で此処にたどり着いたために気楽に話しているが、実際にこのダンジョンを攻略しようとすれば、かなりの犠牲を強いられるだろう。


「それもこれも、実際にミミさんを助けだして聞いてみれば良いんだけどね」


オレはそう言うと、ハンスの方に確認の意味で目で合図を送る。

もし、何らかの敵対勢力の陰謀でミミさんが此処に囚われていた場合、救出と同時に何らかの問題が発生する可能性があるからだ。


ハンスは、いつものボケボケ親父な感じを拭い去るような、凄絶な目をすると、


「俺の子どもや仲間になにかしようって言うなら、相手になるだけだ」


と、宣言した。


力むこともなく、周囲を警戒するハンスを確認すると、自分でも周りを魔素認識のレーダーで監視しつつ、ミミさんの手を取る。

もう一度、ハンスに目配せをすると、一気にミミさんを水柱から引き抜いた!!


水音一つせず、ヌルッという感じで引き出されてくるミミ。そのまま、女の子座りでへたり込んでしまった。それを、視界の片隅で認めながら、周囲をさらに警戒した。


これだけ手の込んだ封印?をされていたのだから、何らかの意図があるに違いない。

すぐに声をかけたいところだが、周囲の警戒が大切だと思えた。


「ミミ?分かるか?お前がなんでこんな場所に居たのか、説明できるか?」


ハンスが、流石に一流の冒険者という感じで、周りを最大限に警戒しながらも、ミミさんに話しかける。


「・・・・・」


何かをつぶやいている・・・が、聞き取れない。


「なんだ?はっきり聞こえないぞ?」


「ル・・ッサが・・・」


「ルネッサ?ルネッサなのか?」


聞き取れない声にじれたように、ハンスが半歩近づく。周りの警戒を怠ること無く、気遣うように・・・

10年以上も封印されていたのなら、声も出なくなるのかもしれない・・・10年?!

瞬間的に違和感が生まれる。


「ハンス!!離れて!!」


咄嗟に声を上げる。弾かれたように飛び退いたハンスを切り裂くように、ミミの手が踊った。


鋼線?ミミの手から数メートルはある細いワイヤーのようなものが飛び出して、空間を引き裂いた。


「痛ッ!」


見ると、かわしたはずのハンスの腕が盾ごと切り裂かれていた。


「どういうことだ!ミミ!!」


「光の勇者は、皆殺しや!!」


10年も封印されていたとは思えないほど素早い動きで立ち上がると、見えにくい鋼線を空間に張り巡らせるようにして、こちらの行動範囲を限定していく。見れば、鋼線自体にも薄い刃が付いているが、それ以上に魔力によって構成された斥力の刃が全体を覆っており、それが、ハンスを盾ごと切り裂いた武器のようだ。


「ミミ!俺たちはお前のことをずっと探していた。お前に何が有ったんだ!!」


「ずっと探していた?一人だけわけのわからんとこ送り込んどいて!魔族は勇者にふさわしくあらへんとか、そないなこと言いよったんやろ!!」


ミミが叫びながら刃鋼線の結界を一気に引き絞る!!


「ハッ!!」


そのまま切り裂かれてしまうかと思ったが、ハンスは危なげない動きで全てをかわし、傷一つ受けていない。咄嗟に空の魔法で鋼線を移動はさせていたが、そんな必要も無かったと思う。


「ルキノ!軌道が読みづらいから手を出すな!!」


逆に怒られてしまう・・・


「へえ、この子供がなんかしよんのか?お仕置きが必要やな・・・」


そう言うと、ものすごい速さで鋼線を展開させ、ハンスを牽制しながらオレの周りを取り巻いた。


「ルキノ!!」


「ええ声やな!そげに大事なもんやったら、戦場に連れてきたらアカンわ」


ふと、悲しげな目つきをしながら、そう言うと、


「これで仕舞や。武器を捨てて、まっすぐ立ち!!・・・片手片足なくなれば、殺さんでも良いやろ・・」


そう言いながら、後半はオレだけに聞こえるくらいのつぶやきで、ハンスに命令する。

状況からどうするかハンスは迷っていたようだが、オレが目で頷くと、仕方ないという風にソードを鞘に仕舞、外して手の届かないところに捨てた。


「ハンス・・・相変わらずやな。そういうところが油断できへんねん」


そう言うと、鋼線を操り、ハンスの剣をさらに遠くに放り出す。


「反撃のことを考えて、刃こぼれでもしたら困るから、鞘に入れて武器を捨てる。相変わらず、諦めの悪い人やわ・・・」


ぶつぶつ言いながら、睨みつけてくるハンスを睨み返した。


「光の勇者は皆殺し・・・言うたけど、勇者でなくなれば問題は無いんや・・・」


そう言うと、おもむろにハンスの右腕を切り飛ばす!


「・・・!!」


「父さん!!」


うめき声も上げず、身じろぎもしないで立ち続けているハンス。対照的に、自分が身を切られたようにつらそうな顔のミミ・・・


「アンタ、結婚したんか?この子は息子なんか?」


「・・・血のつながりなんて・・・関係ない・・・」


苦痛に堪えるように、ハンスが絞りだす。


「ほうか・・アンタ、父ちゃんが片手片足になっても、面倒見れるか?」


そう言ってこちらを見つめてくる。


「父さんをいじめるな!!」


あえて子供っぽく返す。先程から、嫌な予感が止まらない・・


「ゴメンな、でも、こうでもせんと、ハンスを殺さなあかんねん・・・」


ミミはつらそうにそう言うと、片足を吹き飛ばすために、鋼線を繰りだした・・・


「殺したくないねん・・・いやや・・・ハンス達は仲間や・・・マーリンも、ガリも・・・」


ハンスの足は・・・まだ付いている。だが、急に苦しみ始めたミミによって、鋼線の制御が乱れたのか、

すねの辺が半ばまで断たれた足が体重を支えきれず、ハンスは片膝をついてた。


「嫌や、殺さんでもええやろ・・・邪魔されんやったら・・・嫌や・・・殺したない!!」


凶悪な鋼線は、オレとハンスの間を、漂っている。その一本一本が、必殺の威力を秘めており、近づいては離れる鋼線が、まるでミミの中の葛藤を物語るようだった・・・そう、葛藤している。


ミミの様子がおかしくなってから、ミミの中にもう一つ意志が感じられた。魔素認識で読み解くと、そこには、モンスター達をおかしくしていた例の黒いモヤが見て取れた。


それが、半ば以上ミミの心を覆い尽くしており、その中でも、ミミの心が強く発光しながら抗っている。


「嫌やぁぁぁぁぁぁ!!!!」


突然絶叫すると、崩れ落ちるようにうずくまる。同時に、周りの鋼線も魔力を失い地に落ちた。


「・・・ハンス・・・ハンス・・・・」


そのまま自分の身を抱きしめるようにしていたミミが、必死の声でつぶやくように・・・


「うちを、殺して・・・みんなのために・・・」


ミミの中の心が、完全に黒いモヤに囚われたと思った瞬間に、爆発的に発光して一瞬モヤを払う。再び、絡みつくようにモヤが取り囲んでくるが、必死に抗っているようだ。


「・・・殺せるか・・お前も仲間だ・・・」


自らの流した血の海に沈むように、だが、決然とした眼でミミを睨みつけるようにそう言うと、自由に動かない身体で、這うようにして近づいてくる。


「嫌や、またあいつが来る・・・ルネッサ・・・助けて、ハンス達を・・・みんなを守りたい・・・」


ミミさんの心の光がだんだん見えなくなる・・・消えた・・・

正確に言うと、闇に包まれたというのが正しいのだろう。それと同時に・・・


「全く・・・ここまで抵抗されるとは・・・」


そう言いながらミミが・・・いや、ミミの姿をした何者かが立ち上がる。

それと同時に鋼線が再び持ち上がり、オレたちを包み込む。


「光の勇者と呼ばれる者は、皆殺しなんですよ」


口元に笑みを浮かべながら、ミミの姿をした何かが言った。


「あの方の邪魔になると困りますからね。最も、何も出来ないでしょうが」


そう言うと、ハンスの首を切り飛ばすべく、一本の鋼線が持ち上がった・・・


「言い残すことはありますか?」


「後悔するぜ・・・」


ハンスが呻くようにそれでも口元に笑みを浮かべながら声を出す。


「そういう余裕のある態度の雑魚は、大抵こんなはずは無いって・・・そんな目に会うのさ・・・」


おお、テンプレ発想!!ハンスも転生者なのかも・・・

そんなハンスの発言を聞いたミミの格好をした奴は、鼻で笑うようにして、


「この子供に何か期待しているのなら、無駄ですよ」


そう言うと、オレに鋼線が近づいてきた。おお、このまま締め付けられたら挽肉じゃん・・・


「遺言というか・・・お前は何者だ?・・・知らずに死ぬのは・・・悔しいな・・・」


血が足りないのか、朦朧としてきたようで、オレの方にも気がついていない様子でハンスが言う。


「あなたに言ってもわからないでしょうが、この世の統治者の手下・・・とだけ言っておきましょうか」


意味深にそう言うと、


「あなたの言った、そんなはずが無いという展開・・・気になりますので、一気に終わらせましょう」


こちらに目を向けて


「まずはあなたから死になさい!!」


「・・・」


ああ、ハンス貧血で気を失ってる・・・

身動きできないハンスを無視して、オレの周りの鋼線が一気に絞られた


「!こ、こんなはずは!!」


「余裕ぶっこいてると、こんなはずは!!って目に会うって、父さんに言われただろ?」


一気に引き絞られた鋼線が、張力に耐えきれずブチブチと細切れになる。

オレの身体は切れないと思ったら切れない!!それだけのことだった。

切れない物体、そこに、細切れか挽肉にするつもりで鋼線が巻き付いたため、ブチブチと切れて、足元に散らばったのだ、鋼線の方が。


「き、貴様!!何者だ!!」


「哲学的な問ですが、お答えできません。オレはオレだ!!」


「く!ならば、こいつだけでも!!」


「あ!馬鹿!!」


ハンスに向けて必殺の鋼線を飛ばすミミさんの格好をした誰か。鋼線がそのままハンスの首を切り飛ばし、それと同時に・・・


「ぐはっ!!」


と、血反吐を吐きながらミミさんの身体を乗っ取った何者かが崩れ落ちる・・・


やっぱりか・・・と思いながら、


「エクスヒール!!!」


欠損部分まで復活させた(させてしまった)回復魔法を発動しながら、一瞬で崩れ落ちるミミさんの身体のところまで移動すると、


「ミミさん、ごめんね!」


一言添えて、双掌打で衝撃を逃がすようにしてミミさんの身体を突き飛ばす。

追い打ちをかけるようにそのままミミさんを元の位置・・・つまり、水柱の中まで押し込んだ。


押しこむ前に、肉体の損傷はエクスヒールで癒やしてある。


「ん、ん?あれ?」


振り返ると、ハンスが血だまりの中から立ち上がろうとしていた。


「父さん、調子はどう?」


エクスヒールの範囲内にはハンスも含んでいたので、両手両足が揃った状態である。


「お、おお。お前の魔法か?・・・・マーリンよりすげえな・・・」


血が足りないのか、ふらふらしながら近づいてきた。


「で、また封印しちまったのか?」


柱の中に逆戻りしたミミを見ながらハンスが言う。


「うん・・・でも、話は聞けたから、今度来るときはちゃんと開放してあげよう。まだ、情報が足りないけど・・・」


ミミを開放してに来たのに、そのミミに襲われたということに、ハンスは納得が行かない様子だったが、


「一瞬の出来事だったが、お前は何か掴んだのか?」


とオレに聞いてきた。


「少なくとも、ミミさんは父さんのことを仲間だと思っていたことは証明できたしさ」


「??そりゃ、どんなことになっても、ミミは俺達の仲間だぜ?」


ハンスは、よくわからないという風に首をかしげながら、切られた腕や足が動くことを確認しているようだったが、ミミの身体を水柱の中に押し込む前の出来事、気を失ったハンスの首を切り裂いたはずの一撃が、効果が無かった理由・・・自分が仲間だと認めている相手のダメージを肩代わりする称号スキル・・・


「ミミさんにとっても、父さんは仲間だってことさ」


「なにか言ったか?」


ハンスが聞き取れなかったのか、聞き返してきたが、何でもないと答えておいた。

理屈ではなく、心でつながっている人に、証明は必要ないのだ。


情報は足りないが、世界の統治者という単語、忘れかけていたが捕まえているルネッサという少年。

このあたりを調べていけば、何らかの意図にたどり着くのではないか・・・

それに、ミミさんを乗っ取った黒いモヤような存在。


情報は少ないが、何かの意思を感じる。

もやもやとした気分を抱えたまま、一旦ハンスのみを連れて私塾に転移したのだった。

エターならないように頑張りたい所存です。

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